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116話

 なんだか雲行きが怪しくなってきたところで、今までに入手した王侯貴族の情報とか、歌川さんから聞いた話とかを整理して社長が対策を始めた。

 この為に歌川さんの記憶を分けてもらって社長に流してあげておいて、それから社長はその情報を元に更に色々煮詰める為、歌川さんと何やら話し始めてしまったので、私はジョージさんの所に行く。大事な話をしに。

「ジョージさん」

「お?どうしたよ」

 ジョージさん、何やら地下でやってたところだったんだけども、手を止めてくれた。うん、まあ、大事な話だもんね。

「ジョージさん、元の世界に帰りたい?」


 聞いてみたら、ジョージさん、固まってしまった。想定外だったらしいね。

「……そりゃ、突然だな」

「一応、ジョージさんが帰る時に不都合ってあんまり無いような事を女神本が言ってて。だからもしジョージさんが帰りたいなら、一緒に帰ろう、って、いうお誘いです」

 女神本のいう事だから多分そんなに間違っちゃいないと思うんだ。うん。

「そう、だなあ……んー、少し考えてもいいか?」

「それは勿論」

「俺も人生の半分とまではいかねえけどよ、こっちの世界で暮らし始めて結構長い訳よ。だから、まあ、ちょっと迷うわな」

 そうだよね。ここは人によっては憧れ以外の何でもない異世界なんだから。それに愛着がプラスされたら、迷うよね。

「……まあ、そうだな。帰るってのも……悪くは、ねえか。今更ってかんじもするけどよ。……んー、もうちっと考えてみるわ。今日明日で決めなきゃいけねえことでもねえんだろ?」

「存分に迷って下さい」

 どうせまだかかるよ、色々。

「そうかあ。じゃ、もうちっと迷ってからにするわ」

 ジョージさんはこれでこの話は終わり、というようなそぶりをしたので、ここでお話は終わりだ。一人で悩むってのも大事だと思うし。




 それから社長が話し終わるまで待って、帰りがけに貴族位を買って帰ることにした。

「金で買えるんだから楽なもんですよね」

「ね」

 お値段白金貨70枚也。

 ……あれ?

「君、貴族位持ってなかったっけ」

 ほら、裏オークションの時にさ、君達貴族位買ったよね?

「何言ってるんですか、舞戸さんの分ですよ、それは」

 は?

「歌川さん曰く、パートナー同伴らしいんです」

 ……は?

「舞戸さん、聞いてますか」

「ちなみにお貴族様のパーティーって何時」

「今晩です」

 ……唐突すぎない?大丈夫なの?それ、なんの連絡も無しに突然今日付けで貴族になった奴が入って大丈夫なの?

 ……と思ったら、まあ、ここの所は、歌川さんに言わせてみれば、『見世物』として出ていくだけでも十分に向こうとしては価値があって、その上でもし、美味い事異世界人と仲良くなれたら儲けもの、みたいなかんじらしい。

 流石貴族。どろどろである。

 ……。まあ、なんだ、その……さ、お断り申し上げたいよね、これ。

「あのさ、社長」

「はい」

「加鳥って結構可愛い顔してると思う」

「骨格がどう見ても男ですね」

「針生」

「筋肉がどう見ても男ですね」

「もういっそ羽ヶ崎君連れてってさあ」

「舞戸さんまで羽ヶ崎さんのトラウマ抉るんですか」

「明石呼んで来る」

「非合理的ですね」

 ……だよねえ。

「舞戸さん、諦めましょう。今の所舞戸さんは神殿にも行っていませんし」

「行ったわ!魔王やったわ!」

 そしてアリアーヌさん相手に芝居打ったわ!

「大丈夫です。歌川さん曰く、女性の方はにこにこしてれば大体話が済むらしいですから、実質舞戸さんの仕事は壁の花でいる事です」

 そ、そうか、だったら、まあ、な、なんとか……。

「それにもし何かあったとしても舞戸さんなら透明人間になれますから」

「くっそ!お前!他人事だと思いやがって!」

「という事で、舞戸さん、ドレス選びの時にはワンタッチで脱げるものをお勧めします」

 ……余りの社長ニズムに絶句していたら、社長が社長スマイルで、

「合理的でしょう?」

 とか言ってきたから、もう私は何も言えない。

 ああ、無情。そしてああ合理的。

 うん、もういいや。もうどうにでもなーれ。




 となると、社長の方も服縫わないといけないので、しょうがない、帰って来て縫う事にしました。

 そして、私が無心でミシンと化している間に社長は他に人たちに状況説明。

 そして、全員大笑い。

「あははははは!舞戸さんも遂に生贄かあ」

「いやー、やっぱり舞戸さんだけしないってのは不公平だなあとは思ってたんですわー」

 ……つまり、あれだろ。知ってるぞ。

 他人の不幸は超甘くてうまい。と。

 ……うん、もうどうにでもなーれ……。


 意外と社長の服、苦労した。

 いざとなった時に戦闘する可能性を考えて、動きやすく、耐性にも優れ、そして、社交界に出られる。

 ……うん、色々裏地にこだわるとか、布の織り方考えるとかして、割と動きやすく作れたよ、燕尾服もどき。

 デザインも割とこだわったよ。頑張ったよ。

 ……問題は、私の方だね。

「どうやったらワンタッチで脱げるドレスになるんだ……」

 ぼやいたら、社長以外の面子がぎょっとした顔でこっち見た。こっち見んな。

「……おい、おい、社長、まさか……まさか、本当に、そういう意味で、舞戸に色仕掛けさせるつもりじゃないだろうな!?」

「まさか。ただ舞戸さんは瞬時に透明人間になれた方がいいのではないかと思っただけです」

 うん、その合理性は分かるよ。だから今考えてるんだし。

「……ね、社長、あのさ、俺が舞戸さんの影に隠れてればいいんじゃないかな」

「単純に戦闘になるという展開以外にも、舞戸さんが透明になれた方がいい展開は幾らでもあるでしょう。盗み聞き、脱出、ちょっとしたイリュージョン等々」

「それ全部俺ができるから!だから舞戸さん脱がそうとしないであげてよ!」

 ……それから皆さんごたごたと色々話し、羽ヶ崎君を女装させようかみたいな話になって羽ヶ崎君が被弾し、針生の方が身長的にいいはずだっていう事になって針生が被弾し、何なら鈴本が使って完璧にそっちの人って事にしちまえよってなって鈴本及び全員が均等に被弾した。可哀想。

 そして、結論。

「舞戸は甲冑着てろ」

 ……社交界とは何だったのか。




「それで私の所に来たのね!流石私の後輩たちだわ!ナイス判断よ、褒めてあげる!」

 結局こうなった。

「さあ、舞戸、あなたが一番かわいく見えるようなドレス、私が選んであげるからね!」

「先輩、あんまり目立つと何かと面倒なのでほどほどでお願いします」

「分かったわ!可愛い系じゃなくて綺麗系でまとめるから!楽しみにしていなさい!」

 そして私はずるずると糸魚川先輩に引きずられ、女王様の衣装室に連行されることになってしまったのである。

 ……その間、皆さんは体育館組の避難をお手伝いする。

 もう住居はできてるからね。実は、お布団とかはもう既にあるみたいなのだ。服もそんなに困っていない。

 だからまあ、引っ越せばすぐに引っ越せちゃう訳で、だったらさっさと引っ越しておいた方が後々かつかつにならずに済むよね、という事で。布を織りまくったのは何だったんだ!

 ……それから、なんか、さ。時間の流れを感じるんだけど、結構皆さん、髪、伸びたんだよね。

 この世界に飛ばされる直前に「今週末床屋行こうかなあ」みたいなことを考えていたらしい加鳥なんぞ、もう襟足が括れるのである。

 なので、『転移』のバレッタ、預けた。普通に装備できたよこの野郎。嫌がってたけどもバレッタ留められるんだからしょうがない。それから数回『転移』の練習したら加鳥も『転移』ができるようになったので、そのままタクシー係になった。

 ……これ、お引越しの為、というのもあるけど、多分、私の逃亡を危惧したんじゃないだろうか。

 今更そんなことしないよ……。大体、バイタリティの塊みたいな先輩に次々着せ替え人形にされてるんだぞ、こちとら。そんな元気も暇もねえよっ!




「うん!やっぱり舞戸は色が白いからどんな色でも似合うけど、これが一番綺麗に見えるわ!」

 1時間程度延々と着せ替えられた結果、紺碧のホルターネックにされた。

 首から胸にかけては一切肌が出ないんだけども、背中が結構出る。そして脚が出る。寒い。冷える。もうどうにでもしてくれ。私ははやくケトラミさんを布団にして寝たいんだ。

「早速お披露目よ!舞戸!」

 そのままずるずると先輩にまたしても引きずられていったら、丁度引っ越し作業もスピーディーに終わったらしく、皆さんもうそこら辺に居た。

「さあ見なさい!可愛いでしょう!可愛いでしょう!でもあげないわ!舞戸は私のよ!」

 何故か勝ち誇る先輩に突き出されて8対の視線に晒される。うん、もう文句を言う気力も無いよ。

「……違和感、そう、これは正に違和感だな」

 文句を言う気力は無いよ。

「あー、分かる。違和感」

「なんか……ええと、不思議なかんじがするよね」

 気力は無いよ。

「先輩、もうちょっと違うのは無かったんですか」

「こいつの脚とか背中とか見てだれが得するんですかそれしまってください」

 もうライフは0よ!




 とは言っても、もう着替え直す時間もあんまり無い……そして、へそ曲げた先輩が着替えさせてくれなかったので、これで行くしかないという地獄。

 もう嫌だ。おうち帰りたい。

 ……私の装備はぺらいドレスと、ヒールのついた靴、そして装飾品が少しに『転移』のバレッタ、『交信』の腕輪、そしてスカートの中に隠したハタキとメイドさん人形、という事になる。

 ……元凶は、さ、迷ったんだよ。最後まで。

 でも、何やら私と社長と針生が社交界とやらに出ている間に元凶を残りの皆さんが使う、との事だったので、よく分からんが置いてきた。

 不安だ。実に不安だ。

「じゃあ、逝ってきますよ」

 死地へ赴くぞ、私は。生きて帰れる気がしないというか、既に心は死んでいる。

「何かあったら連絡しますから」

 という事で、逝ってきますよ。字面はこれで合ってるよ。




 ということで、着きました、デイチェモールの中心部、貴族エリア。

 ここからは徒歩っていう事になるね。なんとなく、ちらほらとそれっぽい2人連れも見えるので、早速針生は私の影に潜った。

「……そんなに似合わんか、これ」

 なんか周りのお貴族様方も妙にこっち見るんで、社長に聞いてみた。笑いたきゃ笑えよ、おら。

 ……私は糸魚川先輩のセンスを下方修正しないといかんのかね。

「似合いますよ」

「お世辞はいらんよ」

「俺は嘘は言いませんよ。舞戸さんは制服の上に白衣着てる時がデフォルトですから。違和感はそれですかね」

 ……ああ、うん。そう、かあ。……うん。

 ……ライフ返せ。


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