112話
演劇部の人達ともここでお別れになるね。
一応、『交信』の腕輪と派遣メイドさん人形を渡してあるから、連絡はいつでも取れるし、いつでも会いに行ける。
けどもやっぱり、なんとなく、寂しいことは確かだね。
そうして寂しがった明石に抱きしめられて肋骨折られたりしつつ、私たちは別れた。
……なんで私の肋骨、すぐ折れてしまうん……?
さて。私たちはというと、海の向こうへ行くことになる。
つまりは体育館やグラウンド等々、我々に縁の薄いエリアだね。
あっちは運動部だのなんだのがいっぱいいるから、多分人手には困ってないとは思うんだけども。
……まあ、不安ではあるよね。というか、どうせ連絡は必要なんだし、誰かが行かなきゃいかんのですよ。
そして、海の渡り方なんだけど。
とりあえず、一旦1F南西にやってきました。
「おー、海だね」
「海だねえ」
見渡す限りの海である。『遠見』を使っても島影が見えない、そんなかんじの海である。
「あ、ねえ、グライダ、ちょっと上に乗せてもらってもいい?」
しかし、ちょっと高い所から見たら違うんじゃね?という事で、グライダに乗せてもらって、高所から海を眺めてみる。
『遠見』を駆使してみたり、なんだかんだやってみると……。
「おーい、ちょっと皆ー、見つけたよー」
視界が高くなった事で、見える範囲が広くなった……というか、なんか、ええと、なんというんだ、これは。
「海を渡った預言者でもいたんかね」
……海がぽっかり、一部分だけ無く、そして……そこに、建物っぽいのとかが見える。割と規模も大きそう。
これは、高い所から見ないと分からないね。
状況の説明をしたり、見たものを社長と『共有』して地図にしてもらったりして話し合った所。
「よし、空から行こう」
空から行く予定になりました。……空飛んで海越えて、あの海が無い地点まで行く、と。……空から。
なんだろう、船の心配とかしてたのが馬鹿みたいじゃないか。こいつら海とか関係なかったよ。そうだよ、空飛べるんだよこいつら!
「前、お前が着てた空色の服、あっただろ。あれ着れば俺達でも海越えできるんじゃないかと思ってな」
『飛空』の効果付きの服で補えば、相当自由に空を飛べるようになるんじゃないかな。
それこそ、余裕をもって海を渡れる程度には。
「ということで、実験してみたいんだが、すぐに作れるか?」
「あー……空色の百合が切れててさ。ちょっとすぐには……」
そこで私、電撃の様に思い出してしまったのである。
「ああ、あるよ!もう縫えてるのが!」
その名、振袖という。
とりあえず実験だから、という事で着つけてるけど、この罪悪感。
「……なんか、重くないか?これ」
「布面積増やすためだったからね、諦めてくれい」
着物ってそんなに男女差ないじゃない。だからか抵抗少ないみたいだけど、立派な女装だ。ごめん。
「で、どうよ。飛べそう?」
「ああ。まあ、こんなかんじだ」
まあ、そんな事情はどこ吹く風で、鈴本は宙に浮いて見せた。
「……おお」
浮いてるよ。完全に滞空してるよ。全く落ちない。すごいな、これ。
「それ、どのぐらいもちそうですか?」
「かなり燃費はいい。海を越える程度の事は出来ると思う」
おー。そうか、じゃあこれで決まりかな。
「じゃあ装備一新の時に飛ぶ用の着物と忍者装束も一着作るから」
折角だしこっちもグライダの糸で作ってみようかなあ。着物とか忍者装束とか、そういう和服系は絹っぽい質感の物の方が絶対映えるよね。
「ああ、いや、俺は別にこれで構わない。これでも補正は掛かるみたいだし、あまり手をかけさせるのも悪い」
「それは許さん!」
着せておいてなんだけど、やっぱり君が振袖着てたら色々といかんと思う。
早速鳥海に空色の百合を採集してきてもらいつつ、ひたすら着物と忍者装束を作る。
鳥海が帰ってきたら『染色』して、そして、メイドさん人形を連れて鈴本と針生は旅立っていった。
そしてその間、私は延々と装備の一新を行うべく服製造マシンと化し、グライダは糸工場になり、メイドさん人形達は従業員……。
全部の装備を一新したかっていうとそうでも無くて、やっぱりセルロース繊維の良さっていうのもあるので、基本的には更新する装備はアウターだね。
……いや、希望があればインナーも全部変えるけどさ、けどさ……落ち着かなくない?いや、まあ、人によるんだろうけどさ、シルクより木綿の方が落ち着かないか?そうでもないのか?
そして『玻璃蜘蛛の糸』はやっぱりというか、強靭だ。
なんだろう、しなやかで柔らかいのに、爪が立てられないんだよね、コレ。凄く不思議な感覚だ。多分防刃ベストとかに近いんだろうけど、それよりも更に柔軟。着心地も最高。
グライダには悪いけどこれからも多分、結構な頻度で糸を作ってもらう事になりそうだね。うん。
因みに、その間、他の連中は何してたかっていうと、寝てた。
未明にグライダが来て戦闘になったから寝足りないんだね。私も多少眠い。装備縫い終わったら少し寝るかな。
……寝てる暇なんぞ無かった!
案外早く目的地に着いてしまったらしい鈴本と針生をタクシーしに行って帰ってくる。
そして寝ていた皆さんを起こしたらそろそろ晩御飯になる訳で、いやー、一日って早いな!
今日のご飯は鳥の肉のグリルとお野菜のグラタンです。
「体育館の方はどうだったの?」
「王都みたいだったな。あの海に空いた穴全体が一つの国になっていた。ちょっと上から見てみたが、体育館らしい建物は見つかった。明日の朝からは町の中の探索になるだろうな」
おお、体育館見つかったのか!それなら話は早いね。……グラウンドとかがどういう形状になってるのかが分からない以上、そっちの不安はあるし、そもそも私達、体育館に居る人たちがどのぐらい居るのかが分からないから、うっかりすると取りこぼしとかありそうで怖いんだけども。
教室だけじゃなくて生徒も探しておかないといざ帰るってときに困るだろうからなあ。
「王都みたい、ってことは、やっぱり奴隷制度とかあんの?」
「いや、見たところそれっぽいものは無かったよ。でも念のため舞戸さんはローズマリーさんだね」
まあ、色々分かる前に帰ってきたっぽいしなあ。何にせよ、明日行ってみないと分からんね。
夕飯が終わったら皆さんの装備の裾上げとかを済ませてしまおう。
色々とマイナーチェンジしてあったりするんだな、これが。
皆さんあんまり装飾的な服が好きじゃないんで、刺繍を……布の端の処理に使うとか。内側の目立たない所に入れるとか。そういう事をやったんで、まあ、なんというか、非常にシンプルになったよ。うん。
え?鳳凰?やだなあ、当然のようにやったよ。反省はしていない。
……うん、時間ができたらもうちょっと派手じゃない奴もつくるかな。よく考えたら魔王軍装備が最強防具、って、何かと不便だよなあ……。
……あ、いかん、それ言うと加鳥が3号機を作り始めてしまう……。
裾上げの位置を決めてミシンと化していた所、懐かしい音がした。
見ると、角三君がショットガンシャッフルでトランプをきっていた。
「……舞戸も、やる?」
「……やる!」
裾上げは……後にさせてもらおう。
「ま、たまにはこういう事もしないとな」
「わー、トランプとか久しぶりだねえ」
「何やる?大富豪?俺大富豪がいい!」
なにやらこういう雰囲気凄く久しぶりな気がする。
「じゃあ人数ちょっと多いけど大富豪で」
カードを配られるのも、どきどきしながら手札を覗きこむのも、戦略を頭の中で組み立てるのも、凄く久しぶりだ。
「さて、ベットは?」
「余興」
「はい、皆さん反論はありませんか?」
こういう空気が久しぶりだ。凄く……足りてなかった物だね。
「じゃあ、ゲームスタートだ」
そうして場にカードが出ていくのも、出せなくなってパスするのも、勝つのも負けるのも楽しい。
……負けて悔しく無くて、楽しい、って感じるあたり、余程ゲーム欠乏症だったんだろうなあ、これ。
その後大富豪4ゲーム、ダウト1ゲーム、トランプは片づけて人狼3ゲームやって、すっかり夜もふけたので解散、就寝。
……すごく楽しかった。ここが異世界だって忘れてゲームに興じられた。
これが良い事だったのか、悪い事だったのかは分からないね。折角慣れてきたのにまた戻ってしまった、っていう考え方もできるかもしれない。
でも、こうやって戻って、その結果またしんどくても、今日のゲームには価値があったと思うよ。
忘れてしまう、馴れてしまう、っていうのはやっぱり、怖い事だ。
朝早起きして朝ごはん作りつつ裾上げに励む。
今日からこの新装備で活動したいからね。
私のメイド服も新しく作り直した。
ハントルはもう袖に入らなくなっちゃったので、ハントル用のポケットを作った。
スカートのポケットはスリットになっててそこから包丁だのハタキだの出てくる仕様なので、それとは別に、って事になるね。
軽量化も図ろうかと思ったけども、スカートの丈は相変わらずのロング。じゃないとメイドさん人形が隠れられないんだな。
……それから、『願いの唄』で銀色の糸を作って織った銀色のリボンを、グライダ用に作った。
脚の一本に結んでおこうと思ってだな。……ほら、ケトラミさんもそうやって王都で対策したじゃない、ということで。
……グライダは結構喜んでくれた。おしゃれが好きらしいから、今後も色々考えてみるかな?




