105話
どうも、私はどえらい本を拾っちゃったらしいということは分かった。
「……マジで?」
『何を言うか』
「ホントに、女神?この世界作った?」
『言うておろうに』
……。ええと……何、これ。
「何故本なんかに」
『経緯を省けば、本に収まる容量になったから、とでも言えるか』
経緯は……多分、魔王関係なんだろうなあ。
どう考えても、この女神……魔王と仲が良かったとしか思えん、今までの話しぶりからして。
「魔王は……女神さんの、友達?」
『うむ。唯一無二の友だ』
何やら『アライブ・グリモワール』さん改め女神様、嬉しそうだ。
「もしや、知性っていうのは魔王さんの受け売り?」
『よく分かったな、あやつは理性だの知性だの煩くてな。……そのおかげでこうしてこの世界は未だ保たれている訳だが』
「一応!確認の為に聞くけどっ!……百年に渡る女神と魔王の戦いっていうのは……」
『ああ、最初は殴り合おうとしたのだ。しかしそれではあまりに手ごたえが無さ過ぎてな……』
ああ、魔王もやし説が濃厚に……。
「それで……決着は……」
『ああ、論争だ』
……平和!超平和!血なまぐさいファンタジックな戦いなんて無かったんや……!
とりあえずここで本日は終了。というか……私側にもうこれ以上衝撃を加えられたら頭が爆発しそうというか……。
女神本さんに帰してもらってぐったり。
「……舞戸、どうした」
半分放心してたら鈴本が聞いてきた。
「この本女神だった……」
「……意味が分からん」
私ももう分からん!
整理しよう。
あの本は女神で、魔王とは多分友達とか、そういう関係なんじゃないかな。
で……女神は多分、魔王に会うまでは……かなり脳筋だったのではないか、と思われる。
そして魔王はかなり腕っぷしが弱い、或いは女神が強すぎるんで、ちょっと殴り合いとかできない、と。それで、魔王が、脳筋(仮)だった女神に、知的な戦いを挑んで、それで……女神は、魔王から教えてもらったと思われる知性を、大事にしているのだ、と……つまり、その程度には、女神は魔王と仲が良いのだと、思われる。
それで。あくまで、ここからは推測なんだけど。
女神がこの世界作った時って、相当カオスだったんでないかな。少なくとも、女神は魔王と最初に会った時には殴り合いで決着付けようとしたらしいし、知性をそれまで大切にしてなかったらしいし。
それで、魔王が……魔王の出自、というか、種族、というか……詳しい情報が何一つ未だに分からんのだけど、その魔王が、女神に文句付けて……それで、論争という至極真っ当な戦い方で、世界を真っ当な方向に導いたのではないかな、と。
……その女神の成れの果てがあの本、『アライブ・グリモワール』だ。
そして、忘れちゃいけないのはあの本、ハントルの親の腹から出てきたのだ。そして、ハントルの祖先って、魔王に『わけて』もらってできたんだそうで。
女神は自分の一部を本にして、魔王の一部がそれを……守ってた、のかな。
うん、まあ、とりあえず言えることは、この世界において女神と魔王は必ずしも対立してた訳じゃ無かったらしい、ってことだね。
さて、ぐったりしてたらここでタイミングよく社長からタクシーの要請が来たので迎えに行ってきた。
大司祭の指輪で開く扉の中は全部探索してきたらしい。戦果と思しきもので膨らんだ袋が雄弁にそれを語っているね。
「材料は揃った?」
「いや、駄目。足りない物がまだあるから探さないと」
羽ヶ崎君は言いながら袋の中身を机の上に並べていく。……あれ、これは。
「こっちから左はお前の。適当になんかして」
それはそれは……なんかしかのスキルが付いた服だったり、綺麗な織物だったり。
ふむ。ここら辺は確かに私の取り分だろうね。加工できるのは私な訳だし。うん、皆さんの装備にでもしようかな。魔王軍装備は何かと不都合だし。
「こっちは鳥海と加鳥ですね」
鳥海と加鳥、って事で分かりきってるけど、なんかよく分からん金属塊とかがごとごと並べられていく。神殿にあっただけの事はあるんだろう。金属塊を見た鳥海と加鳥の目が輝いた。残念ながら私には分からん。
『交信』が入ったので出てみると、案の定角三君が7組見つけたらしい。
ここに居続ける理由も無いので、そこに全員で『転移』。ここら辺からすこし地形が変わってくるみたいだね。丘陵地帯というか。相変わらずモンスターは大人しいみたいだけども。
……さて。ここで私たちは分岐点にぶち当たったわけだ。
見渡せば、南の方は崖になっているにもかかわらず、ある一か所からは地面が伸びて、微かに見える向こう岸にまで続いている。まるで橋か……渡り廊下みたいに。
「ええと……ここから先、どうするの?8組と9組、探す?それとも課外学習棟?」
そして、このまま西に向かって行けば8組と9組、そして南棟2F西トイレがあるはずなんだな。
「あ、じゃあ8組と9組はさっきみたいに俺がやるよ。ついでにその先のトイレも」
そっちは針生の申し出により、1組2組と同じように回収されることになった。
「んー、じゃあ課外学習棟の方には俺が行くしかないかな?霊薬製造チームはやる事あるでしょ?」
「ありますねえ。まだ製法すら協議中ですから」
こっちはこっちでかたつむりペースの行進らしいけど仕方ないね。頑張ってくれとしか言えないのが何とも歯がゆい。
「了解。じゃあ俺が行ってきますわー。……やだなあ」
鳥海は渋々ケトラミライディングして去って行った。
三半規管の修行だと思って頑張ってくださいとしか言えない。晩御飯は美味しいの作っておくからさ。
そろそろ縫った服がまた溜まってきたので、燻煙を掛け終わって後は一晩寝かせておくだけになったベーコンもいくつか持って、デイチェモールのジョージさんの所へ。
「ああああああっ!舞戸先輩っ!舞戸先輩っ!丁度いい所にっ!」
お、おうっ?花村さんがいつにも増してハイテンション。
「見てください!これっ!これっ!」
見に行くと……ころん、と宝石が1つ。
『鑑定』してみると、おお、『進路資料室』!1F南の職員室の隣あたりにあったはずの部屋だ。
「歌川先輩がオークションで勝ち取ってきたんですっ!」
近くの椅子には少しお疲れ気味の歌川さんが腰かけていて、にこやかに軽く手を挙げて挨拶してくれた。
「やっぱり『魔声』は疲れるわね。まあ、教室が手に入ったんだから文句は言えないけど」
そう言ってほほ笑む歌川さん。後光が差して見える。
「何やらお疲れ様でした。はい、縫いあがったドレスと礼服と、それからベーコンです。ベーコンは一晩寝かせてから食べてね」
……あれ、そういえば、ジョージさんって白金貨を『複製』みたいなスキルで増やしてた訳で……じゃあ、別に、ドレスとか縫わなくても、良かったり?
「ああ、ありがとう!助かるわ。……あのね、舞戸さん」
「はいな」
「これの為に私達、この世界の王侯貴族相手に交渉することになったのよ」
それは何とも、大変そうだね。
「これからも続けることになると思うわ。だからドレスとかって、そういう場でどうしても必要で、しかも貴族って見栄っ張りだから、一度でも同じドレス着てきたらそれで揚げ足取ってくるらしいのよ」
そうかあ、ということは、私が縫ったドレスは歌川さんが着るってことだね。うん、素直に嬉しい。やっぱり美人さんが着てくれるとドレスも華やぐんだよね。
現に、今歌川さんが着てるのも私が何時ぞやに縫ったドレスだけど、ドレス単品で見るのとは比べ物にならないぐらい輝いて見える。うふふ、製作者冥利に尽きるね。
「だからドレスが多すぎて困るって事は無いの。舞戸さんには迷惑掛けるけど……」
「いやいや、全然問題ないよ。次回からは歌川さんが着ることを前提とした奴作るね」
言うと歌川さんは、ありがと、と言って、ちょっとはにかんだみたいな笑い方をした。眼福。
「そういや、王侯貴族の情報ならちょっと今持ってるから渡しちゃっても平気?」
「え?渡す、って……別に構わないけれど」
「うん。やってみると早い。じゃあ行きます。『共有』」
いつものように『共有』で、大司祭から引っこ抜いてきた情報を歌川さんに流して離脱。
「どうよ」
「……新感覚、だわ。なにこれ……ちょっと混乱するけど、うん、大丈夫」
手段はちょっと不評だったけども、情報は凄く喜ばれた。
……あの大司祭、貴族の弱みとか、握りまくってたらしいからね。そりゃあ役に立つでしょうよ。
うーん、歌川さんが貴族の弱みを振りかざしながら華麗に社交する所を見てみたい気もする。
それから『転移』でまた帰って来て、神殿から霊薬製造チームが持ち帰ってきた服の中でも性能が良い奴に刺繍したり、夕飯の支度を始めたり、8組、9組、トイレの回収を無事終えた針生を回収したりしながら待っていた所、遂に鳥海から『交信』が入った。
『もしもーし。ええと、演劇部の人たちにエンカウントしましたー。全員無事でーす』
お、それは良かった。
『でも全員衣食住が貧困なんで舞戸さん召喚したいんだけど、今迎えに行っていい?』
「よし、来い!」
よし、出番だな!任せろーっ!




