104話
鳥海から5組発見の連絡があったので『転移』。
「おー……ん?なんか少なくない?」
「霊薬製造チームは霊薬の材料を探しに神殿へ旅立っていったよ」
「んー……ああ、鍵かあ」
鳥海は察しが良くて助かるね。
「何と言っても神殿の大司祭しか入れない場所だからね、多分相当変なものがあるんじゃないかと思うよ」
「それであった物が碌でもない物ばっかりだったりしたら笑えないよね」
「ね」
……まあ、多分、それなりのものはあると思う。思いたい。
そうして加鳥がケトラミライディングして6組を探しに行き、その間暇を持て余した角三君と、割と元気だった鳥海が連れだって近くのお肉を狩りに行った。
机に突っ伏してぐったりしている鈴本はほっといて、私はというと昨日もちょっとやってたけどもベーコンの続きだね。
昨日の時点で塩抜きと乾燥までやってあるので、今日は燻煙掛ける作業。
糸を通したベーコンをひたすら燻煙器の中にぶら下げて……あ、燻煙器一回じゃあ足りないや。うん、じゃあ数回に分けよう。
ぶら下げたら少し火を焚いて乾燥、その後燻煙を掛け始める。ふふふふふ、だんだんと、こう、ベーコンの香りになってくるわけですよ、これが。熱せられて滴り落ちる脂の甘い香りと香辛料のスパイシーな香り、そして燻煙の香りと合わさって匂いだけでご飯が進みそうです。はい。
……食べたいけど、一晩寝かせてからだから。食べられるの、明日以降だから。と、自分に言い聞かせるものの……現代日本では高級品である猪の三枚肉でベーコン……香辛料も使いたい放題の一品……それが猪数十頭分……涎が止まらん。
ひたすら燻煙を掛けつつ待ち時間では縫い物をして待っていた所、針生が遂に1組とトイレを発見したとの事。でかした!
……しかし、ここにも生徒はおらず。生活の痕跡も無いとの事。
やっぱり1年生はそんなに居残りしないのかね。普段だったら吹奏楽部がパート練習してたりしてたはずなんだけど、ホールに全員居た所を見ると合奏の日だったんだろうしなあ。
とりあえず針生を回収するべく『転移』。
移動先は花畑。適度に樹も有ったりして、中々住み心地の良さそうな土地だね。
一応。一応、念の為、この近辺に人が居た時のことを考えて。……看板を、だな、針生に作ってもらった。
つまり、ここで呼んでくれれば私たちが保護しますよ、みたいな。
そしてその看板の下に、小さな木の小屋を作ってもらって、そこにメイドさん人形を3体程常駐させておくことにした。
メイドさん人形なら起きた異変を私に知らせてくれるし、『転移』の為のとっかかかりにもなるし。時々ミント抽出液の補充にだけ来てあげればいいし、その補充に関してもメイドさん人形の方から知らせてくるし。
……まあ、何事も無いのが一番なんだけども。
さて、針生を連れて帰って少ししたところで加鳥が6組を発見したのでこっちもタクシー。
……最近『転移』でタクシーしまくってるからだんだん精度が上がってきた気がする。うん、いいことだね、うん。
そしてお肉を取りに行っていた角三君と鳥海も帰還。鶏肉が豊富になりました。から揚げで食べつくしちゃって鶏肉が無くなってたので丁度良かった。中々分かってる連中だなあ。
一度ここらで霊薬製造チームの様子を確認してみよう。それからお昼ご飯どうするのかも聞かないとね。
ということで、社長にくっついていったメイドさん人形、さくらの視覚を借りる。
……ふむ。今なら『交信』しても大丈夫かね。
「もしもーし、こちら『メイド長』。応答せよ、応答せよ」
『交信』の腕輪越しに呼びかけると、さくらの視界で社長が反応したのが見えた。
『はい、こちら『サクラ』です』
「そっちの首尾はどう?」
『とりあえず大司祭から入手した情報の中にあった場所を片っ端から探したら材料の半分ぐらいは見つかりました』
そう言って社長は何やら鳥の羽っぽいのとか、よく分からん乾燥した草みたいなのだとかを、さくらの眼前に持って来て見せてくれた。成程、何が何だか分からん。
『一旦帰った方がいいですか?』
「そうね。お昼ご飯がそろそろできるから一旦帰ってきてくれると嬉しい。今迎えに行っても大丈夫?」
『はい。こっちは大丈夫です』
「じゃあそっち行くからよろしく」
ということで霊薬製造チームを迎えに行って帰ってくる。この往復もいい加減馴れたもんだね。いやー、人間成長するもんですなあ。
お昼ご飯は久しぶりにパスタです。フィットチーネのトマトソースとサラダとキャベツのスープ。……製麺する機械が欲しいと思った。スパゲティが作れないっ!
「社長たちはどうやって神殿に侵入して怪しまれずに済んだの?」
「何言ってるんですか、そもそも神殿は3階より下ならだれでも入れます」
……えっ、あ、そうか。神殿っていうのは……民衆に対しても開かれた場所であるのか。うん、そうよね。王都からも割と近いし、人生で一度ぐらい巡礼しとくか、みたいな人がいてもおかしくないし。
「なので、『改めて巡礼に来た』と言えば普通に通りました。刈谷が神官っぽい恰好をしていることも功を奏したと思います」
まあ、遠目に見る分には神殿の関係者が案内しているように見えないことも無いのか。……つっても、ここ3人は全員神殿で顔を知られまくってるのによくやるね、全く。
……多分、結構この3人の演技力というか、しれっと嘘を吐く能力が高い、って事なんだろうなあ……。
お昼ご飯が終わったらまた霊薬製造チームは神殿へ。ただし、今度は針生も一緒。神殿の3階以上って、高位の神官じゃないと入れないから、針生が頑張って不法侵入することになるね。うん、もう何度目だっていう話になるから不法侵入とかいうのもナンセンスなんだけどもね。
そして7組は角三君が探しに行くことに。我らが侍殿はご飯食べる前に何とか復活したものの、こいつが使い物にならなくなるのはいざという時の事を考えるとあまり良い事じゃないのでケトラミさんに乗せるのは……少なくとも、今日はもう無し。
……ホント、ね。いい加減そういうスキル入手すればいいのにね……。『乗り物酔い耐性』とかさあ。
午後は午後で残りのベーコン製造をしながら、そういえば『アライブ・グリモワール』さんにまだ報告してなかったよなあ、と思い立ったので報告に行ってくる。
……神殿は……これ、潰せた、よね?少なくとも、元々あった神殿とは別物になろうとしてるもんね?いいよね?私はアリアーヌさんを信じるよ!
という訳で、ちょっと久しぶりに本の表紙に頭突きして『共有』。
『ふむ、来たな』
「うん。とりあえず、神殿の大司祭とっ捕まえて簀巻きというか石板に詰めて放置してきたよ。それから、神殿の方は意識改革を行うように仕向けてきた」
『単純に破壊するのではなく、か。ふむ……中々面白いな、汝らは』
そうでしょうそうでしょう。面白いんだよ、皆さん。……この場合は特に社長。
『さて。覚えておろうな。汝が神殿を潰したならば、譲り渡すものがある、と』
「そして私は言ったぞ、厄介なものならいらん、とな!」
『受け取らぬなら益々厄介なことになるぞ。……元凶に、根こそぎ魔力を吸われたのであろう?』
……何故知っている!
『……元凶を抑える術を授ける。役に立つであろうな』
「あっそれ欲しいです」
そしたらステルス状態で元凶2つ持ってても大丈夫になる可能性が高いって事でしょう?そりゃあ……思ってたよりもずっと役に立つものくれるんだなあ。
『ふむ。……元凶と『共有』してみよ。さすれば抑えられようて。……それから、だな。『YESかNOかで答えられる質問を10回する権利』も授けようぞ。何でも聞くがよい』
おっ。これは……楽しそうだね。ええと、でもYES/NOの質問だけっていうのは……うん、ちょっと考えたいな。
「その権利の行使って次に来た時じゃ駄目?」
『この権利を今使うまで返さぬ』
……この本、単純にまた私と『知的なやり取り』がしたいだけなんじゃないの?
まあいいか。折角だし。
「じゃあ、質問ね。私たちが元の世界に戻るための方法は3種類以上ありますか」
『YES』
お、ほんとにYESかNOしか答えないつもりだな。ふむ。さて……。これは……どうしたもんか。まさかの第三の手段が出てきちゃった訳だ。……詳細不明だけど、それはその内聞けばいいか。
「じゃあ二問目。この世界に落とされた同じ学校の生徒たち全員が帰る為に最も適した手段は世界の欠片を全て集める方法ですか」
『YES』
おおお!これはいいYESを頂いた!……つまり、存在するらしい第三の解は相当非効率的か、全員で帰れないか、ってことになる。ならほっといてもいいだろう。うん。
「じゃあ三問目。ジョージさんの居た世界と私たちの居た世界は同じ世界ですか」
『YES』
お前はYESマンか。さっきからYESばっかりだな。
……ジョージさんも、さ。もし。もし……帰りたい、っていうんであれば、連れて帰れるなら、連れて帰るのもアリだよな、っては、思っていたんだ。
「ジョージさんを元の世界に連れて帰った時、ジョージさんは浦島太郎状態ですか」
『……浦島太郎とは』
「……ジョージさんは十数年間行方不明だったという扱いになるのですか、っていう」
『NO』
……しまったな。質問の仕方間違えた。これじゃあ、浦島太郎になるのか、消滅、とかいう恐ろしい事になっちゃうのか、よく分からん。これがYES/NOの難しい所だよなあ……。
「じゃあ5問目。ジョージさんが元の世界に帰ったとしたら、ジョージさんはこの世界に落とされたときの状態でこの世界に落とされたときの時間に戻りますか」
『……NO』
……この間は……あ。
「記憶は戻りませんか」
『YES!』
ほー。……うん、だったら……ジョージさんも連れて帰っちゃってもよさそうだよね。
……他にもいるんだろうか。この世界に落とされてずっとここで暮らしてる人って。
……流石にそっちまで手出してたらきりがないけど、さ。
……さて、それよりも気になることがあるっちゃあるんだ。うん。
この本、一体何者なのか。
……気になりません?
「七問目。あなたは過去に魔王だったことがありますか」
『NO』
……。
あれっ。私はてっきり……この本は……魔王に非常に近しい、もしくは本人だと思ってたんだけど。という事は、この本は魔王に近しい誰か?
「八問目。あなたは魔王陣営でしたか」
『NO』
えー?……ええっと、魔王陣営じゃない、魔王に近い……ええっと……。
「あなたは魔王と会ったことがありますか」
『YES』
お?……じゃあ、じゃあ……え、でもさあ……いや、ありえない話じゃ、ないのか。うん。
どうせ質問はあと一回だし、決め打ちしてしまえ。
「あなたは、過去に魔王と戦ったとされる、この世界を創った女神ですか」
『YES』




