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103話

 さて。とりあえずはこれでいいかな。

 離脱離脱、と。

 離脱したらなんだか久しぶりに酸素を吸ったような、そういう爽やかな気分になった。

 まあ、実際吸ってる空気はどことなく黴臭いような湿った空気なんだけども。

「あ、舞戸さん。お帰り」

「……ごめん、鳥海。私、何時間ぐらい」

「んー、ざっと7時間ぐらいかな?」

 ……。現在、草木も眠る丑三つ時。

 ……ホントに、この『共有』の時の時間の流れ方、なんとかならないんだろうか。

「なんかごめん。ちょっと眠いって人は寝ちゃったんだわ」

 見れば起きているのは私と鳥海と社長と……加鳥も起きてるらしい。人型光学兵器が腕を振って見せてくれた。

「皆疲れてるだろうからね、しょうがないよ。……さて。多分必要な情報はかなり手に入ったと思うよ。で、このオッサンどうする?」

 首から下が土に埋まったまま寝ているこのしょーもないオッサン。しょーもないけど捨てちゃう訳にもいかない。後から必要な情報が出てきちゃった時にこのオッサンが居ないっていうのはまずい。

「……とりあえずもっかい『眠り繭』しといてもらっていい?」

「了解了解」

 ま、それが妥当だね。という事で、またしても大司祭は『眠り繭』の中に。また一か月ぐらい寝ててください。


「よし、これでいいね。……どうする?ここにコレ放置して帰る?」

「そうね」

 ここなら、多分大丈夫でしょう。あとは……万が一、神殿関係者とか勇者とかに見つかっちゃった時のことを考えよう。

「念のため社長にもうちょっと細工してもらってからにしようか」

「『眠り繭』状態ならどうなっていても死なないですからね」

 社長ははりきって土魔法を使い、大司祭を石碑みたいなものの中に埋めた。

「何かそれっぽい事を石碑に刻んでおけば、まさかこの石碑を壊してまで大司祭を見つける人は居ないでしょう」

 そう言いながら社長はがりがり石板の表面を削っていって、『元の世界に帰る方法』を刻んだ。勿論、教室を集める方。

 うん、万が一ここを見つけるとしたらどう考えても勇者。だったらそいつらに教えてあげるという意味でもこれは良い文面だね。

 ……。よし。

「帰るか」

「ね」

 寝てる皆さんと外にいる人型光学兵器を巻き込んで、『転移』。

 くそう、眠い。早く寝よう。そうしよう。いい加減寝ないと体がもたんぞ、これ。




 満を持してのケトラミもふもふ睡眠を経て、朝です。

 ……うわあ。

 目を覚ましたら角三君と目が合った。

「……どしたの」

「……なんか、ごめん、その、起きて講義室出たら、すぐの所にケトラミ丸まってたから、何なのかなって見に来たら……ごめん」

「ケトラミさんは貸さんぞ、ケトラミさんは私のお布団だ!」

 角三君はしどろもどろになりつつなんか言ってるんで、釘を刺しておいた。

 起きると、ケトラミさんが『やれやれだぜ』みたいな顔してハントルと一緒に朝ごはんに行ってしまった。すまんね、私の布団になってたばっかりに朝ごはんが遅れて。

「……うん」

 角三君も納得してくれたようなので朝ごはん作りましょう。

 神殿では勿論和食なんて出なかったらしいので、今日はご飯で朝ごはんにしようかね。




 実験室に入ったら、角三君以外にも既に刈谷と羽ヶ崎君も起きてた。

 うわあ、よく考えたら普通に寝て皆さんより寝坊したのって初めてな気がする。

 いかん、急いでご飯炊かねば、と思ったら、こっちは既にメイドさん人形達が炊いていてくれた。気の利く部下がいっぱいいてよかったです。はい。

 後は味噌汁とお魚の切り身焼いたのと漬物出せば終了。

「舞戸、昨日の大司祭からの情報はどうだったの」

 後は皆さん起きてくるまで待ち、という所で、羽ヶ崎君が聞いてきた。うん、気になるだろうね、そりゃ。

「うん、ご飯食べ始めたらもっかい説明するけどさ、とりあえず『霊薬』の作り方、儀式のやり方、神殿の教義っていうか神話?と、あと光魔法の云々、神殿の隠し扉についてと、王都のお偉いさんたちの情報、あたりかなあ」

「あ、光魔法について、俺、知りたいです」

 そうね。これは私が持ってても役に立たないし、さっさと刈谷に渡しちゃった方がいいだろう。

「んじゃあちょっと失礼するよ」

「あ、はい」

 刈谷は察しが良くて助かるね。椅子に座って前髪掻き上げておいてくれる。

 ということで、実にスムーズに『共有』。

 光魔法に関するうんたらかんたらを全て刈谷に横流しして、スムーズに終了。

「……どうよ」

 私には光魔法はさっぱりだからね。どんなもんなのかよく分からなかったのである。

「……凄いです、これ。でも正直俺のMPで何発撃てるか……」

 ……そんなに大技なのか、それ。

「ええと、つまり全体回復魔法、みたいな奴なんです」

 成程。そりゃMP食いそうだね。

「でもこれがあれば回復が間に合わなくなることが減りそうですから、よかったです」

「あんまり無理はしないように頼むよ。刈谷が居なくなると回復が一気に薄くなるから」

 そうなんだよね。私たちの問題点ともいうべきところは、専業回復役が1人しかいないっていう所なんだ。

 羽ヶ崎君と加鳥も一応使えるけど本業じゃないし、効果も小さい。だからある意味では、刈谷が私たちの生命線であったりする。

 ここら辺がアイテムで何とかなったらいいんだけどね。とりあえずは『霊薬』に期待、っていう所かな。




 しばらくしたら全員起きてきたので朝ごはん。やっぱりいいよね、味噌汁。

 そしてこの場で得た情報を全部話す。

 ……といっても、私がよく分かってない奴は説明のしようが無いので、霊薬云々は社長に全部渡した。

「……成程、分かりません」

 ……あれっ?だって君さあ……そういうスキル、もってたじゃん、たしか。薬関係の。

「多分刈谷と羽ヶ崎君あたりにも手伝ってもらう事になりそうです」

 社長曰く。

『霊薬』は薬で、確かに社長は薬関係のスキルを持ってる。

 しかし、それは例えて言うならば、さっきのと一緒だ。英語ができれば英語で書かれた化学の論文理解できるのか、っていうような問題。

 どうも光魔法とか水魔法とかが関わってきそうなかんじらしく。そうなればしょうがないので、羽ヶ崎君と刈谷にも同じく『霊薬』の情報を『共有』。

 ……朝っぱらからMP酷使する羽目になるとはなあ……。




 さて。『霊薬』を作る3人組が協議に入った所で、他の人たちはやらなきゃいけないことがある。

 ……現在。1Fの南は大方回収して、残りは相良君達に任せてある。1F北は、穂村君達が回収してくれてるはずだ。

 2F北の教室は全て回収が終わり、2F西のホールも回収、残す所、2Fは南のみ。

 そして3Fは三枝君達がやってくれているので任せてしまおう。

 ということで、まず私たちがやるべきなのは2F南の回収だ。これは普通に教室だね。あとトイレとか更衣室とか。

 そしたらその次は、2Fから渡り廊下を伝って行けるはずの課外学習棟の回収か、そっちは放置して……体育館とかの方に行くか。

 ……ということで、現在じゃんけんで負けたらしい角三君がケトラミライディングして2F南の教室を回収に行った。

 そして残る人たちはというと、学校の地図を思い出せる限り書き起こしている。

 体育館あたりってさあ……私達授業でしか使わないしさあ……小体育館とか、1年に数回しか縁が無いしさ、グラウンドなんてもっと縁が無いしさ……。分からんのです。はい。

 しかしそんなんでも人が集まればなんとかなるもので、とりあえず学校の元在った姿、といったものが紙面上に書き起こせた。

 あとはこれにチェック入れつつ回収していこう。

 ……そして、まあ、こっちが本題ともいえるんだけど……課外学習棟とどっちを先にするかは別としても、体育館を回収に行くのは私達だと思う。

 となると……船が、要るんですよ。船。

 ……多分、ね?体育館、デイチェモールだの王都だのから遥か南西の海にあるんじゃないか、と……。

 ……どうしようね。




 まあ、そこら辺はおいおい考えればいい話だ。最悪購入という手もある……というか、そっちの方が早そうだし。

 とりあえず角三君から連絡が入ったので全員『転移』。

 ふむ、2F南は結構きれいな所だね。花が咲いてて、生物も大人しいのが多い。……それでもモンスターなんだけどもね。


 角三君が見つけたのは1年3組。ここから東に行けば2組と1組も見つかるはずだね。

 中を確認してみた所、誰もいなかった模様。しかし。

「なんか……教室の中見たら凄く懐かしくて」

 ふむ、どれどれ……。

 ……わ、壁に色あせた掲示物。黒板に消し残されたチョークの文字。机の横に体操着が入った袋がぶら下がってたり、ロッカーに乱雑にプリントが突っ込んであったり。床に溜まった埃すら懐かしい。

 ……うわ、うわあ……やばい、なんか、なんか泣きそう。

 こういうのが当たり前だったはずなんだよ。こういうのを毎日見て、ちょっと退屈気味ですらあったんだよ。なのにさあ、今見たらさあ……凄く、懐かしい、んだよ。

 ……しんみり。




 しんみりしてても教室は集まらない。

 早速じゃんけんが行われ、今度は鈴本が負けてケトラミライディング。……あれ、鈴本って乗り物に弱いんじゃなかったか。大丈夫か?


 船は一旦保留って事にして、とりあえず順番だけ決めちまえ、ということになった。

 ……ま、当然の如く、課外学習棟が先。

 だって、明らかに人数がさ、体育館とか、多いじゃない。多ければその分、生存率って上がるはずで、だとしたら……演劇部が細々と活動していたであろう課外学習棟を先に見た方が、良さげ、という。

 ということで、鈴本には1年2組より先に1年4組の方へ探索に行ってもらっている。課外学習棟への渡り廊下が1年7組と8組の間にあったはずなんだよね。

 その間、2組へは針生が『影渡り』を駆使して移動中。こっちにも人が居ないとは限らないからね。


 予想していたよりも早く鈴本が4組を見つけてダウン。何時ぞやのようにぐったりしつつ、鳥海にバトンタッチして今度は5組へ。

 鳥海が出てしばらくしたら、今度は針生が2組に到着。人は居なかったらしいので、そのまま1組とその先にあるトイレも回収してきてもらう。回収さえできちゃえば後は私がみなもに接続して『転移』で帰れるからね。




「舞戸さん、ちょっといいですか」

 縫い物に勤しんでいたら社長に呼ばれた。

「材料が揃わないんですよ。正直、竜の血がある時点でかなり恵まれては居るんですけども」

 うん、まあ、そうだろうね。『霊薬』ってぐらいなんだからさ。

「ですが、大司祭がこの作り方と材料を知っていたという時点で、材料は神殿にあるんじゃないかと考えられます。ということで俺たちは神殿の探索に行ってきます。滝の裏の洞窟、というのも怪しいですし。という事で舞戸さん、『転移』おねがいします」

 ……。ええと、いいの?神殿に入っても。

「多分大丈夫です。巧くやりますから」

 心配だなー、せめて針生が帰って来てからとかじゃ駄目なんかい。

 ……まあ、うん、時間が勿体ないもんね。うん。


 ということで、社長たち霊薬製造チームをタクシー。神殿の中庭なら間接的に見たことがあるんで、そこにタクシーした。


 さて、またこの間の様に別行動になってしまった。効率的でいいんだけども。

 それぞれがそれぞれできる事やってるんだし、私は私の仕事しよう。つまりはお昼ご飯の仕込みだな。うん。


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