表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/165

戦いの理由



「「「「「アジフ! アジフ! アジフ!」」」」」


 戦いが終わってもコールは止まなかった。


「アジフさん!」


 ルットマが駆け寄ってきてそばにへたり込み、泣きじゃくってしまった。


「怖かったな、もう大丈夫だ」


 肩を“ポンッ”と叩いてやると、泣きながらも何故か不服そうな顔をした。


 周囲に集まった冒険者たちの手によってワイバーンの口が開かれ、義足が外された。噛まれた義足は鉄板が曲がってしまっていた。あんなのに噛まれていたらと思うと恐ろしい。


 しかし、これでは歩けない。参ったな。

座り込んでいると、冒険者の一人から声をかけられた。


「アジフ、見せてもらったぞ、男の意地を」


「あそこまで応援されたら、やらない訳にはいかないでしょ」


 差し伸べられた手を掴み起こしてもらったが、義足が曲がっているのでバランスを崩してしまった。

 そこにルットマが“さっ”と、少し背の低い肩を貸してくれた。おっと、気が利くね。


「助かるよ、ありがとう」


 そう言ったのだが、顔を背けられてしまった。なんなんだ?


「いいもん見せてもらったぜ!」

「アンタ、凄ぇよ!」

「やるじゃねぇか」


 体を叩かれながら人垣を歩いた。いつの間にか周囲にいたのは冒険者たちだけではなく、領兵や多くの鉱夫たちにまで囲まれていた。

 むふふ、そうだろうとも。がんばったかいがあるというものだ。もっと褒めたまえ。


「ワイバーンは俺たちが運んでおいてやるぜ!」


 そう言ってくれたのは鉱夫たちだった。


「いや、それはありがたいが、なんで鉱夫までいるんだ?」


「下でおもしれぇ事やってるって聞いて見に来たってワケよ。固ぇこと言うなって!」


 体をバシバシ叩かれた。見せ物にされてしまった感はあるが、突発的なお祭りみたいなものだったから仕方ないか。

 歓声に手を上げて応えながら、鉱山を後にした。




「アジフさん」


 教会へ戻る途中、2人きりになった頃にルットマが声をかけてきた。ずいぶん真剣な顔つきだ。これは聞いてあげなきゃならないな。


「なんだ?」


「私を守らなきゃならない理由ってなんだったんですか?」


「同じ教会の仲間だから、じゃダメか?」


「それだけじゃ納得できません!」


 やっぱりかぁ。かと言って、リバースエイジで若返ってあわよくば足を戻す為、とは言えないよなぁ。

 とは言え、この際だ。直球で行くか。



「ロクイドルの街を出て行こうと思ってる」


「え!?」


「手にいれたい物があるんだ。ちょっと人には言えないけど、大切な物なんだ。その為にいつまでもロクイドルに留まっている訳には行かない」


「そんな!」


 ルットマの目が驚き揺れた。


「だが、ロクイドル教会の仕事量は多い。この街を出る時、お世話になった教会に、教会の皆に迷惑をかけたくない。ルットマにはその後の教会を支えてほしいんだ」


「そ、それだけの為にあそこまで体を張って私を守ったんですか?」


「もちろん、そうじゃなくてもルットマを見殺しにする気はなかったさ。ただ、自分にできる事より、ちょっとだけ頑張る理由があったってだけでね」


「で、でも! 私、今回のことで、ようやくアジフさんのことをちゃんと見ようって思ったんです! それなのにどこかへ行ってしまうなんて」


「なんだ、今までちゃんと見られてなかったのか? 良くないぞ、そういうの」


「そういう意味じゃなくて! いえ、そんな所もあるんですけど……すみません……」


 少しおどけて言ってみたのだが、それを聞いたルットマは“しゅん”として下を向いてしまった。責めるつもりはなかったのだ。



「あやまる必要はないよ。これからは他の人の事も、もう少しだけ周りを広く見てくれればいい。それで十分に間に合う話さ」


 気にしないように、と軽めに言ったつもりだった。

けれどルットマは、下を向いていた顔を“キッ”と上げ、こちらを見つめ、思いのほか強い口調で


「でも、その時にはもうアジフさんはいません! それじゃ間に合わないんです!」


そう言ったその目は、今にも泣き出しそうなほどに潤んでいた。


 肩を借りたままの近い距離で、潤んだ茶色の瞳と目が合った。ルットマのほうが頭一つ分ほど背が低いので、少しだけ見上げられる角度になってしまう。


 派手に助けられた事もあって、感情が高ぶっているだけなのかもしれない。

それでも、そんな風に言われれば良く見てくれようとしている、とはわかる。けれど、そんなつもりで助けたんじゃないんだ。


 それに、その視線はあまりにも真っすぐで、そのまま見つめ返すには元おっさんには(まぶ)しすぎるものだった。


「ルットマにそう言ってもらえただけでも、助けたかいがあったさ。十分間に合っているよ。この先、ロクイドルの事を思い出す時、ルットマの悲しい顔を思い浮かべなくて済むからな」


 そう言ったのが精一杯だった。でも、それも、ルットマの目を見ては言えなかったんだ。


 それっきりルットマは黙ってしまった。

少し気まずくなった空気のまま、教会へ戻る歩みを再開した。



 

「アジフさん! 怪我ですか!?」


ルットマに肩を預けながら教会に戻ると、リネル君に心配されてしまった。


「いや、義足が壊れただけだよ」


 椅子を出してもらって座らせてもらい、義足を外した。


「誰か悪いけど、俺の部屋から予備の義足を持って来てくれないか?」


「私、行きます」


 そう言って、ルットマが部屋に走ってくれた。


「そうだ! アジフさん!」


リネル君が思い出したように声を上げた。


「さっき冒険者ギルドから連絡があって、サンドウォームは無事討伐されたそうですよ! 神父様たちも大活躍だったみたいです!」


 神父って大活躍する職業じゃないと思うんだが。

でも、それなら皆もそのうちに戻ってきそうだな。


「そういえばガイロ、MPはどれくらい残ってる?」


「今日は朝から患者さんが少なくて、1回ヒールしただけですよ。MPも少し戻ったからあと2回です」


「そうか、俺とルットマは鉱山で派手に使ったから、あと1回しか使えない。ポーションを使わなくちゃならないかもな」


 そう心配したのだが、幸いにも、サンドウォームが早々に退治されたのと、鉱山の操業も倉庫がいっぱいで休みになったことから、その日の患者はいつもより少なかった。




「アジフ、ギルドで聞いたぜ? やるじゃねぇか」


 戻ってきたペメリさんが、顔を寄せながらニヤニヤして、なぜか小声で言ってきた。もうギルドで噂になってるのか、まぁ、かなりがんばったからな。

 そばにルットマも居たが、別に聞かれて困る話でもない。胸を張って答えた。


「こう見えてもやる時はやるんですよ。ペメリさんも活躍したって聞きましたよ」


「お、おう、まぁな。アジフ、お前意外と軽く言うんだな」


 ペメリさんは少し驚いたようにそう言った。確かに強敵ではあったけど、別に前人未到の快挙ってわけでもないと思う。


「そうだ、ちょっと聞きたい事があるんです」


「なんだい? 言ってみなよ」


「ロクイドルでワイバーンを1人で倒す意味ってなんなんですか?」



 それを聞いた時のルットマとペメリさんの目は、信じられない物を見るような目つきだった。


「いや? それは、お前がルットマを守る男を立てるためだろ?」


「「え?」」


 ルットマと声がそろった。


「「「え゛え゛え゛ーーーー!?」」」



 それにペメリさんが加わった叫びが、ロクイドルの教会に響きわたった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] いえいえ。 勘違いのまま何話も引っ張っても、飽きてきますので、 今話で終わって貰って良かったですよ。 展開の速さが魅力の作品だと思っています。
[一言] 外堀が埋められてルットマもその気になってるのに 肝心のおっさんに脈が無さすぎて 建ったフラグが早くも折れる寸前に(笑) 秘密を話せない限りおっさんに春は来ないですね。 仮に話せるとしても相…
[一言] このままロクイドルを出ればルットマに振られて傷心の旅に出たと噂になるな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ