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剣術道場



 


 かつて剣聖と言われた“リックハルト・エムラス”が開いた『連地流』はいかなる武器にも通じる流派だと言う。多くの門下生を抱え、騎士団にも指導し、王国の剣術師範も多く輩出した――


まぁ、実績ある安全牌だ。



 幸いにも連地流の道場は宿で聞いたらすぐわかった。意外と近くだったんだ。

近くへ行くと、道場らしき建物から修練らしき声や音が聞こえてくる。

門をくぐり、道場の入り口の打木を鳴らして待つこと少し。


「どちら様でしょうか?」


対応してくれたのは稽古着の若い女性だった。


「入門をしたいのですが、見学させていただけないでしょうか」


「それはありがとうございます。まずはお話を聞かせていただいてもよろしいですか?」


「もちろんです。よろしくお願いします」


「ではこちらにお座りになってしばらくお待ちください」


案内された椅子に座り、女性が奥に戻り待っていると、お茶を持って戻ってきた。


「ただいま師範代が参りますので」


折り目正しく伝え戻っていった。

まだ20歳には届いていないだろう、ショートボブとでも言えばいいのか、緑の髪を短く切った穏やかな目をしているが、凛とした佇まいはさすが武芸に携わる人だと感じさせる。



 まもなく、汗を拭きながら現れたのは青い短髪の背の高い、180cmほどはあろうか、ムキムキではないが相当に絞り込まれた肉体の男性だった。


「師範代のシメンズ・ビセキズだ。入門希望者だそうだな?」


「Eランク冒険者でアジフと言います。素人ですが剣術スキルはLv2です。得物は片手剣と盾です」


頭を下げた。


「Lv2か、なぜ入門を? あとなんでウチの流派なんだ?」


「これまで魔物と戦ってきましたが、対人技術が必要となってきましたので。ですが、素人ですので流派の良し悪しなどわかりません。連地流の高名を伺いまして訪ねさせていただきました」


「なるほど、では見学と言わず1日体験入門でどうだ? 初日は稽古料はいらないぞ」


「それはありがたい! ですが、普段の稽古料はおいくらなのでしょうか」


「門下生となれば月に銀貨50枚。単日の稽古は銀貨5枚だな」


「む、冒険者の依頼をこなしながらだとどちらか迷いますね」


「入門を決めてから迷えばいいだろうよ」


そりゃそうか。


「ではよろしくお願いいたします」


 案内された道場は運動場のような外のスペースだった。鎧は自前で、武器は稽古用の刃の無い物を選ぶようだ。なるほど、実戦的だ。


 普段の得物とバランスの似た剣と盾を選んで道場へ入る。中では何人も稽古をしていた。こちらをちらちら見てる人もいるようだな。


「まずは腕前を見せてもらおうか」


シメンズ師範代はそういうと、両手剣を構えた。


「お願いします」


 声をかけて一拍置いてから切りかかる。

まずは様子見だが、力を抜いては様子など見れない。スエイとの立ち合いを思い出す。


<ガインッ>


 全力の薙ぎ払いを剣の根本を狙い叩きつけた。

剣を立てて当然の様に受けられたので、身を沈め跳ね返った剣を跳びながら相手の右足に切りつける。

 スッ、と一歩下がってかわされ、上段のナナメ切り降ろしが降ってくる。

だが、左足が下がっているので軽いはず。


 盾で回るように受け流し、その勢いのままその場で回転しつつ、低い体勢から立ち上がる勢いを乗せて逆手の剣を叩きつけた。


<ガィンッ>


 重い音がして受けられるが、師範代は受けの体勢だ。頭上で剣を切り返し首を狙った袈裟懸けを切り降ろす。

 トン、とバックステップでかわされた。距離を空けてはマズイ。振り切る前に左へ跳んで間合いを詰めながら切り上げる。


<キンッ>


 正眼に戻っていた師範代に万全の体勢で受けられ、その一瞬に圧力が高まり剣が弾かれた。ヤバっ


<ドンッ>


 剣が弾かれた勢いに乗って後ろに飛び退くと、目の前を両手剣が通過し、地面をえぐった。


「うっ」


 爆発するようにえぐられた土が視界をふさぎ、目を細めた一瞬で剣を突きつけられていた。

 

「参りました」


 頭を下げる。



「剣を振る基本はできているな。体もだ。今すぐにでも基本の型にかかってもいいぐらいだが、その前に一つ聞いておきたい」


「なんでもどうぞ?」


「アジフ君の膂力ならもっと重い剣が扱えるだろう。どうしてその剣を選んだんだ?」


「今使っている剣の切れ味がいいんですよ。使い慣れた剣に合わせました」


「うん? 切れ味のいい剣の戦い方ではなかったぞ。剣を見せてもらってもいいかな?」


 荷物から剣を持ってきてシメンズ師範代に渡すと、鞘から抜き放ち剣身をじっと眺めて言った。


「なるほど、効果はわからないが魔法剣だな。確かに物は良さそうだ」


「切れ味小上昇だそうです」


ほぅ、シメンズ師範代は感心するように剣を見る。



「今の戦い方には合っていないな。剣にあわせて戦い方を変えるか、戦い方にあわせて剣を換えるかするべきだ。膂力に見るところがありそうだから剣を換えるのがお勧めだな。それなら戦い方を変えなくても済むしな」


「その通りかもしれませんが、お金が足りませんね」


「この剣を下取りに出せば足りるだろ? 武器屋なら紹介してやれるぞ」


「それはありがたいです! 是非お願いします」


「なら紹介状を書こう、剣の重さが変われば振り方からやり直さなけりゃならない。稽古はその後の方がいいだろう」


「いろいろ親切にありがとうございます。早速行ってきます」


「なに、こういう事はよくあるのさ。だから初回は稽古料をもらってないってのもある」



 礼を言って道場を出ようとした時に、何やらこちらを見ている剣士に気が付いた。


 茶色の髪をした、身長は170cm以上はあるだろう、女性にしては体格のいいが、切れ長の目をした…ってあれ!? この人どこかで…


 そしらぬ顔をして道場を出た。危ないところだった! 前にキジフェイのギルド訓練場で素振りを注意してくれた人だ。連地流の人だったのか。


よし、今度会ったら全力ですっとぼけよう。


冷や汗をかきながら紹介してもらった武器屋へ向かった。


「いらっしゃい」


「連地流のシメンズさんに紹介されてきたのだが」


武器屋の主人に紹介状を手渡した。

主人は紹介状を確認してから


「なるほど、剣の交換をお望みとか。見せてもらってもよろしいですかな?」


剣を見せている間に店にある剣を見させてもらった。

より重い剣となれば片手半剣、バスタードソードか、片手でも両手でも使える剣だが、盾で片手がふさがっているので意味がないと思って今まで見てなかった。手に取ってみると確かに今の剣よりズシリと重いが、振り回せない感じはしない。


「同等の剣でバスタードソードを頼む」


「これと同等でバスタードソードだと店にあるのはこの2本ですな」


持ってきたのは無骨な剣と装飾の施された剣。対照的な2本だ。


「こちらは丈夫さ小上昇です。もう一本は丈夫さ微上昇に加え切れ味微上昇もついた一品ですぞ。剣の下取りでそれぞれ金貨1枚と金貨2枚と言ったところですかな」


無骨な方は丈夫さ小上昇で金貨1枚。装飾付きは効果2つついて金貨2枚か。馬が買えなくなるな。


「この丈夫さ小上昇の剣は下取り無しでいくらだ?」


「金貨7枚になります」


「今使っている剣はキジフェイで金貨8枚と聞いたぞ? いくらか釣りがでるのではないか」


「む、確かに。ですが釣りまでは言い過ぎです。銀貨50でどうでしょう」


「交換でもそちらには利があるのだろう?」


「ふむ…連地流の方々には世話になっていますからな、特別ですよ?」



 こうして新たな剣を手に入れ、翌日も連地流の道場を訪ねた。




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