王都
春の陽気の中を、次の村へむけててくてく歩いた。
身体が動きたがっているので丁度いい。若いってこういう事か。
道中は魔物に遭うこともなく歩く。う~ん、出てきてくれてもいいんだけどな。
…好戦的になってる? いかんいかん、浮かれないようにしなきゃ。
夕方まで元気に歩き、1つ目の村へ到着して宿を取った。
翌朝出発して、途中コボルトとじゃれ合いながら、あいつら結構かわいいんだよ、トドメはさしたけど、陽が傾いて2つ目の村に到着する直前に馬車に追い抜かれた。
念のためにフードを被っておいたが、どうやら乗り合い馬車の次の便のようだ。馬に乗る護衛の冒険者に見知った顔はいない。
席空いてないかな?
後から村へ到着し、馬の世話をする御者を見つけて訪ねた。
「やあ、王都行きの馬車の御者さんかい?」
「ああ、そうだが、あんたは?」
「王都へ向かう冒険者なんだけど、まだ距離があるだろう? 席空いてないかと思って」
「ああ、まだ乗れるぜ。ここから王都なら銀貨8枚でどうだ?」
「ありがたい! 是非お願いするよ!」
「出発は明朝だ。馬車のところまで来てくれ」
助かった! これで日程短縮できる。
馬車の旅は順調につづき、王都に到着する日となった。
「いくらなんでも順調すぎじゃない? 魔物とか全然出てこないし、こんなにいないなんておかしくない?」
「はは~ん、お兄さん田舎から王都に出てきた口だな? 王都の周りは魔物が少ないし、街道沿いは特に定期的に駆除してるからね、魔物なんて滅多にでないのさ」
「そうなんですか、王都で冒険者やれるか心配になってきました」
「お兄さんランクは?」
「Eですが」
「それなら大丈夫だと思うよ、王都はFランクに厳しいから」
そう言えば、フィア王国でも王都は低ランクに厳しいって言ってたな。なんでだろ。
「なんでFランクに厳しいんです?」
「王都の周りに弱い魔物が少ないのさ。逆に強い魔物なら王都に依頼が集まるけどね、欲をいえばDは欲しいけど、Eランクならなんとか大丈夫じゃないかな?」
「なるほど」
しばらく走ると、馬車は低い城壁を越えて街の中へ入った。中世然とした街並みがそれほど混雑した感じはなく続く、割と普通な感じがする。
「これが王都か」
「いやいや、お兄さんここはまだ王都じゃないよ。まだ外周の街さ」
なんですって? そうだとしたら日本の地方都市くらいの規模はあるんじゃないの?
なお、ラズシッタは北エミモド小国家群と言われる地域の国の一つでそれほど大国ではない。それでこの規模とは。
「ほほ~う」
街中をさらに進むと一度畑が広がるエリアを通り抜け、見渡す限りの街並みと遠くに小さく城が見えた。
「城壁とかないんですか?」
「城壁は王城と貴族街の周囲にあるだけだよ。外側の街が実際の防衛線なんだ」
「はは~ん」
これだけの生活圏が広がっていれば、弱い魔物がいないはずだ。
馬車の停車場に到着した後、護衛の冒険者に案内してもらい冒険者ギルドに向かった。
王都の冒険者ギルドはキジフェイよりも小さいが、装飾の華やかな建物で大商人の邸宅と言われても納得しそうだ。
中へ入ると人は多くてざわざわとしてるけれど、にぎやかな感じはしない。そして何より武器を持ってない普通の服の人が多い。ここ冒険者ギルドだよね?
「他のギルドとは違うだろ?」
案内してくれた護衛の冒険者がにやりと笑った。
「王都ではギルドから直接依頼に行くなんてほとんどないんだ。他の街から依頼が来て、依頼先まで距離がある場合が多くてな。だから馬が人気なんだが、街中には厩舎のある宿が少なくてな、冒険者は外側の宿に集まってる。どうせ依頼で外側に行くなら宿によっても手間じゃないって訳だ」
馬か…心の傷が…
とも言ってられないか。仕事しなきゃならないからな。
「よい馬が手に入る伝手はありませんか?」
「そいつは自分で探すんだな」
それもそうか。
受付の順番が来たので礼を言って別れた。
「到着の報告を頼みます。あと街の案内を下さい」
冒険者プレートを差し出す。
受付嬢はプレートを受け取ると
「アジフ様ようこそ王都へ、王都は初めてですか?」
話しかけてきた。
「ああ、はじめてなんだ。しばらくはここで依頼を受けるつもりだからよろしく頼むよ」
「受付のエイリといいます。こちらこそよろしくお願いします。こちら王都の案内と冒険者プレートをお返しします」
「ありがとう、また依頼の時に」
受付嬢の名前なんて初めて知ったよ、応対もにこやかだし、職員の教育はさすが王都って言えるな。
さて、王都にはしばらく世話になるから、まずは拠点になる宿屋をしっかりえらばなくちゃ。馬の購入も視野に入れて厩舎のある宿に泊まってみるかな。
案内を片手にギルドのオススメ宿へ行ってみた。
“宿と食事メイへ”だ。
「いらっしゃいませー! お食事ですか?」
「泊まりと両方頼むよ。一泊一人部屋で」
「朝夕ついて銀貨7枚、厩は銀貨2枚だよー」
を゛っ! いいお値段だ、さすが王都だ。
「厩はなくていい」
動揺を気づかれないように銀貨を取り出し、手渡した。
「ありがとうございます。部屋に案内しますね」
つれていかれた部屋はかなり綺麗にしてあった。
「夕食は今日は準備できてるので、遅くならなければいつでもいいです。朝食は日の出頃からですけど、早いときは前もって言ってくださいね。湯が要るときは銅貨10枚で呼んでください」
「湯も欲しいが先に洗濯したい、どこで洗える?」
「裏の井戸です。湯が必要な時に食堂で声かけてくださいねー」
旅装を解き、洗濯物をまとめる。今着ている服も洗いたいのだが、裸で洗濯するわけにもいかない。
ゴシゴシ洗っていると、裏の厩舎に気が付いた。中をのぞいてみると藁も新しいし、床もきれいだ。厩番が馬の世話をしているので聞いてみた。
「寝藁はいつも新しいのか?」
「まさか、農家と契約してるけど2日に一度が限度だよ」
「それもそうか」
2日に一度なら良心的だと思う。
湯をもらい、部屋で身体を拭いて王都ガイドに宿情報を書き込んだ。
食事は手が込んでいた。
翌朝、朝食を取ってから宿を出払った。街の案内を見ながら次の厩のある宿へと向かう。
どこに行くにしても荷物が邪魔だからな。
次の宿に選んだのは“冒険者の宿 冬狼”。
いかにもなウエスタンゲートを開けて中へ入る。ここが冒険者ギルドと言われても信じそう。宿でまず出迎えてくれたのは巨大な白い狼の首のはく製。
「おお!」
思わず驚くと
「ハハハ、そいつは7年前の冬に王都の近郊を襲ったスノーウルフのボスだ。朝食か?」
カウンターに立つのは筋骨隆々な店の主人、いや、マスターだな。もうあなたがギルドマスターでいいよ。
食堂は冒険者の宿をうたうだけあって、冒険者らしき姿でにぎわっていた。
こんな調子で王都の宿を実際に体験していくつもりだ。王都には長くいるつもりなので、宿にはこだわりたい。
全ての宿を体験したら王都で宿案内ができるようになってしまいそうだが。
荷物を宿に置いて、王都へ繰り出す。店めぐりや、依頼の確認、護衛冒険者の言う様に馬が必要そうなら馬探しに行ってもいいのだが、王都にははっきりとした目的を持ってきている。
そう、剣術の修行のためにわざわざここまで来たのだから。
王都の初日を飾るのはこれでなくては。いくぜ! 剣術道場へ!




