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半分の天使と赫赫の盗賊王が作る空の色は?  作者: SIRO
第五章 赫赫の盗賊王と褐色の娼婦
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第一三三話 「復帰軍師」

 頭上で煌々と輝く月に唾を吐きかける男がいた。


「ああ、ちくしょう。なんでこんなことになっちまったんだ。ババアにこき使われた後は老け顔の王太子に捨て駒にされるなんて、あいつを信じた俺が馬鹿だった」


 アッシェの命令で棒に縛り付けられたシュトローは、下半身の衣類をはぎ取られ、三日間も拘束されている。まともな食事は与えられず、傭兵たちには散々からかわれ、恥辱の日々を過ごす彼の精神はすり減っていった。


 そして今日。アッシェ領主軍は突然陣営を引き払って突撃していった。その際に取り残されたシュトローは、誰もいなくなったこの場所で一人縛られていた。

 まともに身動きもできず、棒から逃れることもできない。彼に待っているのは孤独で無様な死だった。


「……ちくしょう」



「先輩、生きてるッスかー? って、なんスかその格好は。変態ッスか?」



 聞き慣れた声に思わず顔を上げると、見慣れた顔が目の前にあった。

 シュトローは俯いて肩を震わせる。


「チ○コ丸出しで何泣いているんスか」

「……うるせえ。うるせえうるせえうるせえ。来るのが遅いんだよ。バカ、アホ、間抜け面、デカ乳女」

「大丈夫みたいッスね」


 パッセルは、シュトローを拘束している縄を外してやる。ついでに自分のスカートを裂いてシュトローの股間に巻き付けた。


「さあ先輩、ヴァンさんのところに戻るッスよ」

「絶ッ対に嫌だね。俺はもうあんなクソ王太子のところへは行かねえ。このざまを見ろ。あいつのところに戻ったらまた似たような目に遭わされるんだ」

「じゃあ逃げるんスか?」

「ああ、そうだ。今の内にどっかに逃げてほとぼりが冷めたらまた盗賊を始める。もう二度と失敗はしねえ」

「先輩」


 とたんにパッセルから和やかな気配が消えた。


「なんのためにウチが来たと思っているんスか。雇い主が変わっても、ウチが元々先輩にとってどんな存在だったか忘れたんスか?」


 シュトローの顔から血の気が引く。


「……ああ、ちくしょう。やっぱりちょっとでもあいつを信じたのは間違いだったんだ。やっぱり王族貴族なんてもんは俺ら貧民を道具としか見てねえ奴らばかりだ」

「でも先輩もヴァンさんの作戦のことを領主様にバラさなかったんスよね。捕まったときに本当の事を言って領主様に付いていればウチらはやられてたッス。なんでそうしなかったんスか?」

「それは……」


 それは、自分でもわからない。

 だが、自分の夢を打ち明けたときにあいつ(ヴァン)は、馬鹿にもせず、わらいもせず、ただ微笑み、自分と共に来いと言った。そんなことは初めてだった。あんな気持ちになったのは初めてだった。


 今回の作戦をヴァンに頼まれたとき、シュトローはまず拒否した。当然であろう。あの傲慢なアッシェに対して嘘をつくのだ。それも陣営の真ん中で。成功すれば良し、失敗してもシュトローが死ぬだけという完全に捨て駒の役割だったからだ。

 嫌がるシュトローにパッセルは脅しをかけようとするが、ヴァンはそれを制して、『俺は友を、家族となった奴を見捨てない。信じてくれ。シュトローが俺を信じてくれるなら必ず上手く行く』と言った。

 貧民に生まれてから盗賊として生きてきた彼が、今更そんな言葉を信用するはずがない。


 しかしヴァンは誰一人監視を付けず、「頼むぞ。無事に帰ってこい」と言ってシュトローをあっさりと解放した。


 思いがけず自由となったシュトローは、当然そのままとんずらしようとする。

 助けてはもらったが、その見返りは死の可能性を極めて高い作戦だった。


 冗談じゃない。せっかく自由になったのにわざわざ危険なことをする必要はない。それに俺は元々カタストロフの人間なんだ。祖国を裏切ってマルブルなんかに肩入れできるかよ。


 だが、祖国が何をしてくれた?

 貧民の俺に、ただの一度だって何かしてくれたか?


 子供の頃からずっと今日を生きるのに必死だった。頼れるものなど何もない。自分で何とかしなければ死ぬだけなのだ。盗みに失敗して半殺しにされたことも何度もあった。それでも今生きているのは、俺の実力のたまものだ。


 死ぬかもしれない事をするのは、今日を生きられるかどうかの瀬戸際の時だけだ。そしてその全てを俺は乗り越えてきた。


 だが、今は違う。俺は解放され、このままどこかへ行ってしまうのが最良の選択だ。アッシェなんかのところに行かなくても生きていられる。むしろ行ったら殺される。考えるまでもなくそれは一番やってはいけない事だ。


 しかし、その思惑とは違い、彼の足はアッシェ領主軍の方へ向いていた。そして気づいたときには領主軍の見張りに捕まり、アッシェの目の前に連れて行かれていたのだ。


 なんでそんな馬鹿なことをしたのか分からない。どう考えても無駄死にに行くようなものだ。


「さあ、帰る(・・)ッスよ、先輩」


 今までは、ねぐらに戻る(・・)ことはあっても、帰る(・・)なんてことは無かった。俺が生まれた貧民街の下水の底でも、帰る場所なんて無かった。


 もしかしたら、俺が欲しかった物は金なんかじゃなく、ただ、帰る場所が欲しかっただけなのかもしれねえ……。


「ああ、わかったよ。ちくしょう……」

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