第二ゲーム
さて、第二ラウンドの始まりだ。
アルフォンス君に抱きかかえられながら、転移の浮遊感を覚える。
次の瞬間には、再びあの殺人現場であるサロンへと立っていた。
アルフォンス君は移動後も変わらず僕が自分の腕の中にいることに、安堵の息を吐いた。と同時に、転移で奪われる恐れのためか、更にしっかりとその腕に力がこもる。
僕は抱え込まれたまま、さっと周囲を見渡す。
「もう~っっっ!! いったい何なのよ、いい加減にして!!」
少し離れた場所で、イネスの叫び声が聞こえた。
その周りには、キトリーと双子達がピッタリと寄り添っている。
「ええ~……またぁ……?」
割と近い距離で、ジュリアンの情けない声が聞こえた。母親のアデライドに腕をがっしりと掴まれている。
「ひとまず、助かった、のか……?」
ヴィクトールが、祖母のベレニスの肩を支えながら、どこかほっとしたように呟く。
「あ~あ……やっぱ、またあったな……」
一人立つクロードが、苦い口調で呻いた。
やはり昨日の件で一度経験しているので、みんな開演を知らせる音楽が鳴り始めるとともに互いに身を寄せ合ったためだろう。単独行動のクロード以外は、それぞれが家族単位でまとまって転移先に現れていた。
昨日は全体的にバラけていたが、今日は双子達の傍に保護者がいて、それだけでもほっとする。
そして、全員の視線は、残る一人に注がれる。
昨日のレオンと同じ場所で、僕達に囲まれるようにぽつんと立たされていた人物に。
さっきまでマンマークで僕達に付き添っていたクマ君達は、昨日と同じく、観客を迎え入れるようにキレイに整列している。レオンを処刑して退場した騎士クマ君はその列にはおらず、全部で十二体になっていた。まさに『そして誰もいなくなった』の人形みたいだな。軍曹の図書室にもあったから、ファンだったのかもしれない。
BGMは前回と同じく、軽やかな「おもちゃの交響曲」に切り変わった。さすがに「夜の女王のアリア」が流れる中での説明は頭に入ってこないからな。
「では、第二ゲームの始まりです」
僕のクマ君が、第一声を発して宣言した。
「二人目の犠牲者は、こちら~~~~~~!!」
ゴスロリちゃんの楽しそうな声に合わせて、クマ君達がふわふわの手を見事なシンクロ動作である一点へと一斉に指し示す。ああ、こんな状況でもすごくかわいいな。しかし「挑戦者」ではなく、いきなり「犠牲者」か。あいかわらずシニカルな子だ。
指し示された先には、処刑台に立たされた囚人。
そう、僕が見つけたゲームの挑戦者リストにも名前があった――十五年前の事件で殺人を犯した三人目がいた。
「ああ……やはり、私か……」
観念したような苦笑いで掠れる声を漏らしたのは、最年長者のベルトランだった。
全員が息を呑む。自分ではなかった安堵、次の死者が出るかもしれない恐怖が、その場に漂う。
「お父さん!」
「おじいちゃん!?」
アデライドとジュリアンの悲鳴が重なった。
二番目の挑戦者は、ベルトラン。昨日と違って、もう最初からその位置に立たされていた。
「お父さん、嘘でしょう!?」
アデライドが混乱して叫ぶ。駆け寄ろうにも、やはり足は動かない。
むしろ当事者のベルトランの方が落ち着いていた。
「すまない。できるだけのことはしてみるよ。お前たちにはショックな話になるだろうが、黙って見守っていてほしい」
さすがに年の功と言うべきか。おそらく昨日のうちからもしもの時の覚悟を決めて、この事態になることも受け入れていたのだろう。
その様子から、誰もが一つの可能性を見出して、ざわついた。
このゲームの参加資格は、やはり……と。
「ま、まさか、お父さんも……」
アデライドも、それ以上は言葉が続かない。これ以上騒いで、動揺を招いても害しかない。無理にでも沈黙を保つ。
人間達の緊張感などどこ吹く風で、クマ君達は段取りを進めていく。
「細かい説明はもういらないよね。サクサクとすすめちゃいましょ~~~!」
「はい、挑戦者さん、遺産リストです。どの魔法を選択しますか?」
さすがに二回目ともなるとこなれたものだ。
昨日レオンが選んだのと同じリストらしき画面が、ベルトランの目の前に現れた。
ベルトランは落ち着いた様子で、目を通していく。
途中、僕の方をちらりと見た。
おや、僕の能力が何かの見当を付けたかな?
驚いたり、意外そうだったりではなく、納得――といった面持ちで、再びリストに視線を戻す。
なるほど。
いくつかの情報が分かった。
選択肢のリストには、選択可能なものだけが並ぶ場合と、選択不可のものも暗転させるなどして併せて表示される場合があるが、あれは後者らしい。ゲーム挑戦者リストも、敗者は名前が暗転する仕様だったしな。
そしてベルトランはそこから、僕の魔法にアタリを付けたのだ。
おそらく僕とあと一人、すでに譲渡されている魔法は、選択不可になっていると考えられる。少なくとも、“設計図”ではなく“魔法”の方は。ベルトラン自身の分を除く、選択不可の二つの魔法。
二択なら簡単だと思うか?
――だが残念。多分それはハズレだ。
あの納得の表情。おそらくは、僕の魔法を始めから治癒や回復系だと思っていたのだろう。マリオンがラウルを殺して魔法を得た現場に居合わせた彼には、思い当たる何かがあったから。
まあそれは、大きな勘違いであるわけだが。
そしてそこからまた、別の結論が導ける。選択不可の魔法二つのうちの一つが、治癒系だった――すなわち、僕以外の残る一人の能力こそが、治癒系だと。
となると同時に、ベルトランの魔法も類推できるわけだが、それはもうすぐ判明するだろう。
ともかく昼食の時に僕が考えた可能性は、正しかったようだ。
人殺しの持つ魔法が攻撃系でないというのは、なによりの朗報だ。
あとは、選択不可の二つの魔法について、ベルトランから余計な発言が出そうになったら、すぐに妨害できるようにだけは注意を払っておこう。
これからゲームで死ぬ予定のベルトラン以外には、やはり知られるのは都合が悪い。治癒でない方が、僕の魔法なのだから。
挑戦者以外なら、ゲーム中も魔法が使用可なのは非常に助かるな。




