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共通点

 食後のティータイムを早めに切り上げて、それぞれプライベートタイムとなった。

 アルフォンス君にはまだ仕事が残っているので、あまりゆっくりもしていられないのだ。

 ただでさえ機動城の内部調査を抱えている上、初日からあれだけのことがあったのだから、さぞ報告することが山積みだろう。


「俺のことは気にせず、先に休んでください」


 アルフォンス君は気軽に僕に声をかけ、机に持ち込んだ機器を並べて、資料作成の業務に取り組み始める。


「そうします」


 ありがたく同意し、僕も速やかに自分の支度に移る。いつものように自室に戻るわけではないから、仕事の邪魔にならないようにしなければ。


 僕自身、考えたいことが山ほどある。基本的にやることも特にない暇人スタンスなので、さっさと寝たふりに入ることにしよう。

 

 荷物から着替えとその他一式を取り出し、バスルームに向かう。

 ホテルの部屋のように、日常生活の大体のことが室内で完結できるようになっているので、本当に食事問題さえなければ、五日間ずっと籠っていたいところだ。


 歩きながら何気なく視線を壁に向ける。かかっている絵を確認するために。

 ゲーム参加者のリストから、レオンの名前は消えていた。よく推理物やデスゲーム物の物語だと顔写真にバツが付いたりするが、このリストでは名前が暗転している。

 

 まず一人退場――と言ったところか。

 残念ながら、僕の、いや、マリオンの名前は、変わらずある。


 ――やはり僕も、あれをやるのか。

 数時間前の惨劇を思い返して、さすがに背筋に冷たいものが走る。


 だからこそ、可能な限り考えを巡らせなければならない。さっさとお風呂に入ってベッドへ行こう。

 気持ちを切り替えて、バスルームの脱衣所へと入った。


 洗面台の前で服を脱ぎ、バスルームに入って、ああそういえばこういうのだったかと思い出し、少々がっかりした。


 機動城の設備は基本的にアメリカンスタイルで、しかも70年代以前のもの。バスタブにシャワーが付いた、洗い場のないユニットバスだった。


 そしてなにより、普通お風呂の準備は自分でしなければ、浴槽は空っぽのままなのだということを、たった半年で完全に忘れてしまっていた。

 本当に自分にがっかりだ。せめて事前にクマ君に頼んでおけばよかった。


 お湯を溜める時間を待つのも億劫だし、今日はシャワーだけで諦めよう。仕方ないとはいえ、日本人のお風呂習慣にすっかり馴染んでいる身としては、何とも物足りない。


 それにしても、やはり僕はすっかり怠け者になってしまった。

 お湯を入れ忘れていたことからしてそうだが、一連の作業でつくづく実感した。


 準備も洗いも流しも乾燥も掃除も、ハイテクバスルームが勝手にやってくれる生活。

 この半年間でそういうった全自動に慣れきってしまったため、髪を洗い、体を洗い、顔を洗い、タオルで拭き――なんて全部が手作業の現状に、「こんなに面倒だったっけ?」と奇妙な新発見をしている。

 おかしい。六十五歳まで毎日当たり前にやっていたはずなのに。


 やはり人間一度楽を覚えると、元に戻すのは大変だ。

 ドライヤーすらないので、濡れ髪にタオルをかけたままでリビングに戻る。


 アルフォンス君は、普段見慣れない作業をしていた。

 報告書や写真など、データのままでは記録が外部に持ち出せないため、今回のために開発された超小型のコピー機や用紙でプリントアウトしているのだ。やることが多くて大変そうだ。


 なのに忙しいはずの手を止めて、視線が僕に釘付けになっている。


 もし風呂上がりの様子を邪な目で見ているとしても、そこは気が付かないふりをしてあげよう。子供は叱りすぎると逆に反発するものなのだ。

 ――なんて思ったが、予想と違って、彼は明らかに驚いた表情で僕を見ていた。


「どうしました?」

「いえ、その鼻歌……」


 言われて気が付いたが、シャワーだけとはいえバスタイムでリラックスして、無意識に口ずさんでいたようだった。

 それに対し、アルフォンス君が、どこか切なげに呟く。


「懐かしい曲です。遺産相続騒動に巻き込まれる前に、マリオンのお気に入りでした」


 ――ああ、またやってしまったらしい。


 お手上げしたい気分で反省する。

 マリオンと重ねられないようにと極力注意を払ってはいても、やはり知らないところで粗が出てしまうのは防ぎきれないようだ。


「最近耳にして、気に入った曲なんですよ。懐かしいと言われても、こちらの音楽は僕には全て新曲なので」

「不思議ですね。チェンジリングになる対象は、年齢性別など共通しているというのは知られていますが、違いすぎるコーキさんとマリオンの場合、性格や好みの方が一致していたということなんでしょうか」


 アルフォンス君の指摘に、僕は思い出したように首肯する。


「ああ、内面の共通性というのは、多いにあると思いますね。十七歳の女の子と内面が似ていると言われるのは少々不本意ですが」


 それについては、まだざっとしか目を通していないが、軍曹の肖像からの手記で気が付いた。


 ジェイソン・ヒギンズの例では、三十二歳男性の軍人と、八歳の少女という異例のチェンジリング。共通点など探すのが困難な取り合わせだ。

 あえて挙げれば、全身穴だらけという無残な死因くらいかと思っていたが、むしろそっちの方だったのかと、読み進めていて腑に落ちる部分があったのだ。


 内面にあった二人のある共通点――おそらくそれが、二人を繋げたのだろう。

 そして、マリオン・ベアトリクスと、来栖幸喜の共通点もまた――。


「なので、マリオンさんと面影が重なるところがあっても、いちいち気にするのは不毛というものです。似ているからこそのチェンジリングなので」


 もういっそ開き直って言い切った。

 髪型を変え、来栖幸喜として振る舞っていても、やはりマリオンの姿である以上、限界はある。もう似ていてもしょうがない、という方向性に持っていくのも考え方の一つか。

 アルフォンス君を惑わせないよう心掛けてきてはいたが、もう大分手遅れになってしまっているようだ。


「――そう、ですね」


 アルフォンス君は少し寂し気に笑った。僕はそれに気が付かないふりで、本領発揮とばかりにあえて空気を読まない発言をする。


「それよりマリオンさんと間違えて、就寝中の僕に不埒な真似を働かないように」

「しませんよ! ホントに念を押しすぎじゃないですか!?」


 すでに条件反射になっているかのように、やけっぱちな否定が返ってくる。いい反応だ。とりあえず今は気を逸らせただけで良しとする。


 たから、ぼそりと続いた「――多分」の一言は、追及しないでおいてやろう。

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