第21話 焼き芋への情熱
重複してしまったので修正しております(;゜ロ゜)!
口走ったあとで「あ、これって結婚する前に話しておくべき案件だよな」と早くも後悔する。これでは騙して結婚したと思われても、しょうがないだろう。
アルバート様は真っ青な顔をしていて、シルエさんは手帳に何やら書き出している。
「サティ」
「は、はい! あ、えっと、結婚する前にこの辺りの事情も話しておくべきでした。失念していて本当に申し訳──」
「謝罪は良い」
私の肩に手を乗せて謝罪しようとしていたのを阻止する。アルバート様は怒った感じはなく、どこかあわあわと私以上に焦っていた。
「それよりもシルエ、婚姻そのものは無事に終わったはずだが、転属について誰か詳しい者はいたか? すぐさま調べてもらい適切な治療を」
「そうですね。やはりここはオベロン様とティターニア様に協力を仰ぐほうがよいのでは?」
「……笑い転げて馬鹿にされそうだが、その程度でサティが助かるのなら安いものだ! 緊急だと連絡を入れてくれ」
「承知しました、我が君」
シルエさんは黒煙のようになって、その場から消えて──沈黙と気まずさが残った。
「本当にごめんなさい。黙っていたとか騙そうと思って居たわけとかじゃなくて……」
「いい。……サティ。体内の魔力量と、現状肉体の負荷がかかっていないか確認したいので額を合わせてもよいだろうか?」
「額を……額を!?」
「うん。ダメかな?」
眉を八の字にして、しょんぼりするのをみていると罪悪感に押し潰されそうになる。なんだか狡い。心なしかノワールの姿まで浮かんできた。
「駄目……じゃないです。バッチコイです!」
「じゃあ、触れるよ」
アルバート様が前かがみになってコツン、と額を合わせる。これで症状が分かるのなら有難い。転生前は魔法と無縁な世界だったから、肉体の負荷などよくわかっていない。
「……施設に居た頃は、ノワールが時々魔力を安定させるために傍にいたが、貴族令嬢となってからはあまり体調管理や魔力検査はあまりしていなかったようだな」
「そういえば……検診はなかったですね」
アルバート様は私の膨大な魔力量を調整して、余分な魔力は桃色の透明な結晶に変えてくれた。普通の鉱物と形は変わらないのだが、結晶体がキラキラ光ってとても綺麗だ。
「わぁ、すごくきれいですね! スノードームみたいにキラキラしています!」
「スノゥドォーウム?」
「はい。こう丸い形のガラス細工の中に、スノーパウダーやラメがゆっくりと舞うようになった冬によく見かける置物です!」
「冬に?」
「そうなんです。あ、妖精都市にはそういうのは売っていないのですか?」
「どうだろう。あの都市では本屋にしか寄らないからな」
「じゃあ、今度行ってみませんか!?」
アルバート様は一瞬固まったのち、口に手を当てて目を逸らした。よく見ると耳が少し赤い。
(一緒に出掛けるのを喜んでくれたのなら嬉しいな)
「これからは毎日、魔力量の確認をしよう……。それと色々落ち着いたら妖精都市に行くのもやぶさかではない」
「はい!(…………そして、そろそろ《イポメィティア》の食材の毒消しが可能か試したいのだけれど、そんなことを切り出せる雰囲気じゃない!)」
テーブルに置かれている野菜を凝視していたら、アルバート様から作業の続行許可を貰えた。これは決して私が目で訴えたわけではない。
ノリノリで錬金術の錬成陣をかき上げると、その中心にくだんの野菜を置いてみた。
「錬金術解放――分解、再構築」
私には遺伝子組み換えとか交配育種とかの知識や技術はない。なので錬金術で一度物質を分解して、毒と、果肉を別々に再構築する方法を考えたのだ。
理論上は可能で、時間がある時にリンゴなどで試したこともある。そして毒となりそうなものは小瓶に入るようにして見た結果。
「私の鑑定では毒の除去はできていると思うのですが……」
「確かに……。俺──私の鑑定眼でも毒は完全に取り除いている。だが……」
「だが?」
「でん粉含有量も毒と一緒に殆ど摘出されているのは問題ないか?」
「問題ありまくりです。で、でもとりあえず焼き芋を作ってみましょう!」
「ヤィキィイム?」
ここまできたら味わってみたい。この世界に転生して早十六年、ずっと望んでいた焼き芋を食べるためにもさっそく中庭へと急いだ。
季節的に冬だと言っていたので落ち葉を集められると考えたからだ。
***
「わあ!」
空は夕暮れ色から宵闇に変わり、柔らかな月の光と星々の輝きが美しい。
秋は日が落ちるのが早いので、暗闇が夕焼け色を追いかけて色を染めていく。ひんやりとした風が私の頬を掠めた。
「コートを羽織っているが、寒くないか?」
「はい!」
「寒かったらいつでも温めるから、ちゃんと申告するように」
「(そうは言うけれど、いつも白手袋をしているアルバート様のほうが、寒そうな印象なのだけれど)わかりました!」
屋敷の外装は古く廃墟ともいえるほど長い間、手入れがされていない。シルエさん一人では室内はなんとか対応できていたが、屋敷の外装管理に手が回らなかったのだろう。あるいはアルバート様の魔力が安定していなかったから、こうなっているのかもしれない。
(まあ、屋敷の外見や庭が廃れていても、これからなんとかすればいいんだわ!)
屋敷の庭も丘から見える領土も主人の魔力が安定してなかったからか、草はぼうぼうに生えている。その更に奥には鬱蒼と生い茂る森が窺え、薄暗く嫌な気配を放っている。
「サティが嫁いでくれたから森のケガレも浄化されていくだろう」
「嫁ぐだけでそんなボーナスが」
「それだけ妖精にとっての結婚は重い」
「なるほど」
私は話を聞きつつ、庭の枯れ葉を箒で集めつつ聞いていた。いい感じに乾燥していてよく燃えそうだ。屋敷を一周すればある程度あつまりそうだなとほくそ笑む。
「……それでサティは何をしているんだ? 掃除なら──」
「焚火をするための枯れ葉や小枝を集めているんです!」
「そんなものが必要なのか」
「はい! 焼き芋をするのに大事なものです!」
「そうか。……《風よ、集え》」
アルバート様が告げた瞬間、北風が吹き荒れてあっという間に、山のような枯れ木の山ができた。風魔法と思われる現象に、私は目を輝かせる。
「アルバート様、今のって風魔法ですか!?」
「ああ。そうか、今まであまり魔法らしいものを見ていなかったのだな」
「そうですね。追手に追われていた時の魔法はやけくそでしたし」
「あんなことは、もう二度と起こさせない」
「!」
断言した言葉は、私の胸を温かくする魔法のように感じられた。それから適度な量の山にアルミホイルでいくつか毒を除去したサツマイモ──《イポメィティア》を包んで落ち葉の山の下に安置。それからアルバート様の星屑のような美しい炎によって点火してもらった。
「今のバチバチってすごく綺麗。花火のよう!」
「サティはこういう魔法を見るのが好きなのだな」
「はい! 大好きです」
「──ッ」
「お芋、早く焼けないかなぁ~。お芋~♪ 焼き芋が美味しくできなかったら、スイートポテトにしましょうね! 美味しくできていていたら干し芋にしましょう!」
浮かれる私にアルバート様は口元を緩めた。
「君は本当にいつも楽しそうだな」
「はい! 衣食住の安全と、信頼できる人がいて、一人じゃないですから!」
「…………そうだな。その通りだ」
その日、二人で作った焼き芋は──まったく甘くなくて、スイートポテトになりました。




