文化祭〜5〜
この文化祭は時空列でいうと、
第15部の数日後です。
よっこらしょっと。
そんな年寄り臭いことを心の中で呟きつつ、私は今関係者以外立ち入り禁止らしい部屋にいる。
いやー紙にさ関係者以外立ち入り禁止って書いて貼るだけで鍵はかけてないとか設備ガバガバだよね。
盗みたい放題じゃん、まあ盗むものがあるのかは別だけども。
もし鍵がかかっても開けるけど……え?道徳的にどうかってそんなのを私に求めるなんて間違ってるよね?
それにしても、この部屋はドレスやら海賊やらの衣装や模造刀などがたくさん置かれている。
うーん、あれかな、演劇部!
寝床にちょうどいいかなって入ったけど予定変更!
私が女子生徒Gだってばれないように変装して花崎歌ウォッチングに励もうじゃないか。はてさて、何かいい衣装はないかな。
と周りを見渡し衣装を探している途中、しっかりと閉めた扉が躊躇とかなく思いきり開けられた……って、は?
今の私はモブキャラ補正かかってて他の生徒とかち合うはずなんてない、こうなったら本日二度目のモブキャラキックをするしかない。
その意気込みで振り返ると、そこにはなぜか息を切らしたかがついてみがついてむがつく私の嫌いなイケメンが立っていた。
「……」
「やっぱりお前か」
「……神村くんはいつから演劇部になったの?剣道部のエースだって風の噂では聞いたんだけど?」
「お前とは変な場所でよく会うな」
「私の話聞いてる?」
「ファミレスやら夜の学校やら」
「何が目的なの?ついこの間もう関わるなっていったばっかなんだけど」
「了承した記憶はない」
「……」
頭痛くなってきた。もうだめ、この男と話すとすごい腹が立ってくる。要するに、苦手。
モブキャラパワーが効いてない気がするし、何より花崎歌じゃなくて私に関わってくるのが最早意味不明の領域だし。
あーあ、ずっとこのまま余計なことを考えずに花崎歌を“はなさき”だと思っていればよかったものを。
「神村くん」
「なんだ」
「私これから着替えるから出て行ってくれる?」
「は?」
「それとも、ここで私の着替えを見てる?社会的に死ぬけど」
「ここにあるものって演劇部のじゃ」
「いいから!ほら、出てけ!」
少し強めに言うと一瞬神村武蔵が怯んだので、その隙に肩を少し強めに押した。
どうせキックいれても記憶失わないだろうからこうするしかない。
神村武蔵の体が後ろに動いたと同時に扉を閉めた。鍵はまあ……かける必要はないな。
「着替えるから開けないでよ」
「これは……手強いな」
神村武蔵は性格を考えたら着替えを覗くほど非常識なことはしない。
なので扉は開けないで、扉の目の前で待機しているだろう。
かなり動きづらかったメイド服を脱ぎ、ちょうど近くにあったうさぎの着ぐるみを着る。
よかったよかった、これで私が女子生徒Gだってバレない。
私はモブキャラなのだから!!
そしてこの部屋、人が出入りできそうな窓が一個ある。……ここ二階だけど、私は割とチートだから二階から飛び降りるくらいしてやるさ。
神村武蔵から逃げるために。
扉越しにいる神村武蔵に気を配りながらも音をたてないように窓を開ける。
そして淵に足を乗せて、よし周りに人はいないな。
「アンタのその格好、似合っていたのに勿体無いな」
……はぁ?
少しくぐもった声だったがまさしく神村武蔵のものだ。
思わず声をあげそうになるが我慢してれ い せ い に返事をする、誰か褒めてよ今私気持ち悪くて鳥肌たちそう☆
「そ、そんなこと言うの、神村くんだけだよ」
かなり声が引きつっているが大丈夫だろう、よし、行こう。さらば、神村武蔵。
勢い良く飛び降りる!
視界が目まぐるしく変わったり、ドスッと鈍い音がして足がじんじんしたりしてちょっと涙目だけど痛がってる場合じゃない、走らなきゃ。
私は走るよどこまでも、ピンクうさぎの着ぐるみを着て。
「……!おい!」
神村武蔵の叫ぶ声が演劇部衣装部屋から聞こえた気がするけどきっと気のせい。
そうだって私はモブキャラなのだから。
さて、と……残りの文化祭を楽しもうじゃないか!
え?クラスの手伝いはしないかだって?
そんなのするわけがない、サボりサボり、協調性ゼロでごめんなさい。
それにしても、あんなに急いで神村武蔵は一体何がしたかったのだろうか。
そんなに、私をストーカーしたいのか?
ほんっと馬鹿みたいだね。
それじゃ、花崎歌の元に行きますか。




