文化祭〜3〜
「馬鹿だと?」
ピリピリと張り詰めた空気の中、不良Aが言った。
なんかさぁ、不良Aが言ったとか響きが間抜けじゃね?
「何君、ビッチちゃんの知り合い?」
「……!!」
「別に知り合いじゃありません」
佐藤さんは目を見開いて、私を見つめている。
……そんなショック受けましたって顔で見られても私にはどうすることもできないんだけど、困るなぁ。
「私はサボり場所に最適だからここに来たら偶然三人見つけて何やらよろしくない空気だったので乱入してきただけです。そして邪魔なんで出てってください、私はもう休みたいんですよ。ただでさえ誰かさんたちのイチャイチャシーンや円陣くんでる熱血ドラマみたいな教室から抜け出してきて疲れてるんですよ。その上安全地帯を求めて来たら不良Aと不良Bは佐藤さん(仮名)を襲おうとしていますし、今日は厄日ですね。朝の星座占いでは四位だったんですけど、訴えたら勝てますかね?いや勝てないでしょうけど、それからあなたたちはモブにしては語彙があるようですが最終的にはビッチビッチばっかでつまらないですよ?ビッチちゃんってネーミングセンスなさすぎて、逆に笑えてくるレベルに到達していること分かってるんですか?で、結局この私が何を言いたいかと言うとっ……!?」
できる限りの早口で気持ち良く言っていたら、不良Bがいきなり頬を殴ろうとしてきたので避けてみた。
「うるせーんだよ!何言ってるかわかんねーし!」
不良Aが何やら文句を言っていたが気にしない。だってモブだもん。
それにあともう少しだから最後まで言わせてほしかったんだけどな、まあ気にせず続けるか。
「簡単に言うと、モブキャラは引っ込んでろ☆と言いたいんですよね」
「はぁ?頭おかしいんじゃねーのこの女」
「黙れよ不良A、髪の毛むしってハゲ男Aに改名してやろうか。それから私が頭おかしいことは自分でよーくわかってるわ」
「何言って」
「ひっさーつ、モブキャラキーック!出血大サービスメイドさんばーじょん!」
足を上げて不良Aの腹に蹴りを入れてみる。
良い子は真似しないでね、悪い子はまあ時と場合によっては。
「ふごおっ」
バタンと痛ましい音がして、不良Aが倒れた。顔面から。
地面とこんにちは状態。たぶんこれで私に関する記憶は吹っ飛んでいるだろう。
今度は不良Bを見る、わぁー特徴ない顔だなぁー。
不良Bは「ひっ」と可愛らしく声を上げながらも戦う道を選んだ、えらいえらい。
「女のくせに!メイド服着てるくせに!」
「大丈夫です。下にスパッツはいてますから」
「なっ!?なんなんだよお前」
うわぉ、仮にも女子に向かって顔面殴りにかかるとは鬼ですわ。もし顔に傷が残ったらお嫁さんにしてもらわなきゃかな!う、死んでも嫌だ。
「私は」
殴りにかかってきた不良Bの腕を掴み、上にあげて体ごと投げてみた。不良倒せる私カッコイイ!ギャルゲーのヒロインくらいならきっと惚れてくれる。
「女子生徒G!」
地面にひれ伏した不良Bを見て言う、自分で言うのもなんだが気が狂っとる。
さてと、二人を片付けたわけだが、結局私が助けてしまったわけだよな。絶対に私の役目ではないと思うんだけど。
ふと佐藤さんを見ると、ポカーンと見事な間抜け面を披露していた。美人なお顔が台無しだ。
「……なんで?」
私の視線に気づいたのかなんなのか、佐藤さんはそう聞いてきた。
私に聞いてるんだよねこれ、逃げたいな。
「……」
「私のこと、嫌いなんでしょ?ねえなんで助けたの」
「……」
「また迷惑かけちゃって、昔からいつも迷惑かけてばっかりで」
「昔って何の話?」
「え?」
「さっきから何言ってるの?意味分かんないし、それよりさっさと出て行きなさい。邪魔だから」
「私は、ずっとあなたと話したかったの!だから出ていけない」
聞き分けの悪い主人公だこと、まあ粘り強くなきゃ主人公なんてつとまらないか。
大体私と何を話そうと言うのだろうか。
その主人公特有の強い意志がこもったような瞳で見つめないでほしいんだけど、なんで私がこんなことされなきゃいけないわけ。
やっぱ佐藤さん助けなければよかったのかな、後悔。
「じゃあ私が出て行くからいい、そこの不良は恋人でも呼んで渡しとけ」
佐藤さんに背を向けて、格好良く退場しようと扉に向かい数歩あるくと、何かに腕を掴まれている感覚。
もうやだ面倒くさすぎる。私の見せ場台無しにしないで。
「待って」
「まだ何か?」
振り返るのも、面倒だ。
こっちはもう佐藤さんの顔を見たくないというのに。
「お願い聞かせて、あなたは私のことをどう思っているの」
「……」
悲劇のヒロイン気取りか、どっちかというとそれは私だよね。あーでもそれなら悲劇のモブキャラと言った方が正しいな。
それにしてもどう思っているかと聞かれましても。
話も噛み合わないし、私に話しかけてくる連中はどうしてこう会話が繋がらず言葉のドッチボール状態になるんですかねぇ!
思い出したらイライラしてきたわ、この前の神村武蔵との会話。
「そんなの聞いてどうするの」
「どうしもしないよ、こういう質問をしないと私とまともに話してくれないからしただけだよ?」
「だったら答える必要なんてないじゃん、もう離して。女の子にはあんまり手荒な真似したくないんだけどさ」
「答えたら離す」
どうして佐藤さんは自ら泥沼につっこんでいくのだろうか、傷つきにくいのだろうか。
もしかして今佐藤さんが主人公な話は続編に入ってるわけ?
本編では親友と和解することはなくそのまま幕が閉じたけど、続編で和解イベント?
ふ ざ け ん な !
「……あんたなんて、大嫌いに決まってるじゃない」
思ったよりも冷たくなってしまったけどそれでいい。
本当馬鹿だ。聞くまでもないことなのにね。
わざわざ自分から傷ついていくこともないだろうに。
「っ!や、やっぱり」
「あたしは許せない、今でも。悪いのはそっちなのに、なんであんたは今泣きそうな声してんの?」
「私……わた、しは!」
「言っておくとさ、私はもうあなたには関わりたくないし興味も湧かない。助けたのはしゃしゃりでる不良がウザかっただけだから」
あたしがまだあんたを許せなくても、私はもう佐藤さんには興味がないし他人。
「もういい?離して」
佐藤さんが力なく手を離したのが、背後から感じた。
……馬鹿みたいじゃなくて、本当に馬鹿なんだな。
今度こそ私は、美術準備室からでてひと気の少ない廊下を歩いた。
もう冬が近づいてきているのか、ひんやりとしていて寒い。
「……どこでサボろうかな」
この世界はご都合主義なんかじゃない、あの子とあたしは和解できる日なんてもう来ないんだと思う。
きっとあの子は選択肢を間違えたのだろう、どこかで。
ぼんやりと考えていると、前方から一人の男子生徒が歩いてきた、長身でまあまあイケメンの。
なんかこれじゃこの話に出てくる男子全員イケメンじゃね?ってことになるよね。
てか登場が遅すぎやしませんかねぇ、もう終盤なんすけど。すべて終わった後なんすけど。
男子生徒は私に気づいたのか、一瞬顔が強張った。
ひどい、仮にも女の子の顔見て強張るなんてデリカシーのない男。
「……」
すれ違い際に何か言いたげな顔をしているのが見えたけど無視した、私はもうこんな面倒なカップルには関わりたくない。
ある意味花崎歌+その他より面倒だわ。たった二人であの破壊力はやばい。
なんとなく後ろを振り返ってみると、男子生徒が美術準備室に入っていくのが見えた。
よしよし、これにて一件落着でいいのかな?
それにしても、
「この格好どうにかなんないかな」
メイドさん装備。
いかにも攻撃力も防御力も低そうな。
「……あ」
私は足を止めて、とあることを思いついた。
目の前には“関係者以外立ち入り禁止”
とでかでかと書かれている紙が貼ってある扉。
私は躊躇なくその扉を開けた。
これはラッキーだ、花崎歌をやすやすと観察できる道具を見つけたのだから。
さてさっきの重々しい空気を切り替えて、いつものモブキャラに戻りますか。
半年以上ぶりの更新です。
本当に遅くなってしまいすいませんでした。




