文化祭~2~
「歌可愛いっー」
えーとこんにちは、花崎歌です。なんだか前話と場面が変わったと聞きましたが、私には何のことかさっぱり。
ともかく、今私は女子更衣室となっている自分たちの教室で準備をしていました。瑞穂ちゃんいわく、最終段階とか。
「瑞穂ちゃん……本当にこれで出なきゃ駄目かな?」
「うん、だーめ。だってあたしたちはメイド・執事喫茶やるんだよ?分かってる?」
うう、でもこのヒラヒラがたくさんついた服……メイド服はちょっと嫌です、恥ずかしいから。
それに、瑞穂ちゃんは美人でスタイルも良いからとっても似合っているけれど、私なんかが着ても絶対似合わないと思う……。
ちらっと瑞穂ちゃんを見てみる、金色に染められた髪の毛はウェーブがかかっていて、猫ミミがはえていて。
「み、瑞穂ちゃんの方が、可愛いよ!」
「えぇー?可愛いってより綺麗のほうが嬉しいんだけどな」
「えっ、うん!綺麗だし可愛い!お客さんにモテモテだよ」
「なんか歌って本当に見た目も中身も可愛いわ……」
「!?」
わわわわ……可愛くないと思うんだけどなぁ。
でも瑞穂ちゃんに言われると、お世辞でも嬉しい。
「じゃあ歌、みんなのとこに行こう?」
「いやちょっと、待って、引っ張らないでってばー!」
瑞穂ちゃんに腕を引っ張られて、私はメイド・執事喫茶がある一年の教室へと向かった。
教室には既にほとんどの人が集まっていて、それぞれ自分でつくったメイド服や執事服を着ていました。
やっぱり恥ずかしい、自意識過剰かもしれないけれど。
「う、歌?」
後ろから聞き馴染みのある声が聞こえたので、振り返って笑おうとしましたが、
「あっ、良ちゃっ……」
その姿に、一瞬言葉を失いました。
いつもとは違い、きりっとした執事服姿の良ちゃんの姿がそこに立っていました。
「お前、なんていうかその、あの……かわ、かわ。めちゃくちゃ可愛い」
「良ちゃんもすごくカッコいい!似合ってるよ」
「そうか、似合うのか」
良ちゃんは嬉しそうに笑っていた、そのとき少しだけ胸の鼓動が早くなったような気がしました。
あれ、今なんかものすごい呆れたような目で誰かに見られたような。
「はいはいそこー!二人だけの空気つくらないっ」
隣で黙っていた瑞穂ちゃんも呆れたように注意をしているんだけれども、そういうのじゃなくてなんか。
半分馬鹿にされているような感じで?
「はぁ……」
誰かのため息が、一際大きく聞こえたような気が。気のせい、かなぁ?
「ではでは、皆揃っているようだし!気合いを入れて円陣をくもうじゃない!」
瑞穂ちゃんが高らかに宣言するとみんなも「うおおー!」と雄叫びをあげて円陣を組む。
なんでメイド服や執事服を着て円陣を組む姿は、なんだかおかしくて少し笑っちゃいます。
「ほら!歌も!」
「うん」
瑞穂ちゃん、クラスの代表だし気合い入ってるなぁ。
「あれ?池山、ひとり足りないんだけど」
クラスの人の誰かが、不思議そうに言った。
「えー誰よ、皆揃わないと意味ないじゃない」
「言わなくても分かるだろ。アイツだよ、花崎さんの前の席の」
「ああ。……まあなら仕方なくはないけど、うん。しようか」
瑞穂ちゃんは残念そうに笑った後、声を張り上げて言った。
「今日は頑張ろー!」
☆・☆・☆
開店時間が一時間過ぎた頃、予想以上のお客さんが来てみんな忙しそうに働いていました。
お客さんが来たら、決まっている言葉を言って。席に案内する。
男だったらご主人様、女だったらお嬢様らしいです。
私以外のみんなは誰かに教わることもなく知っていました。
いらっしゃいませ、ではなくおかえりなさいませ、と言うことを……すごいです。
と思いつつ、お客さんが来たのでお辞儀をして挨拶を。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「やあ、歌ちゃん」
「!香坂先輩?」
顔を上げると、香坂先輩が手をヒラヒラ振りながら私を見ていました。
「僕もいるよー」
「えっ?香澄くんも」
その後ろからひょこっと顔を出し出てきたのは、可愛らしく笑っている香澄くん。
「わー歌先輩可愛い!」
「あーあ香澄くん、それ俺が先に言おうと思ってたのになぁ」
「ふふ。お世辞でも嬉しい。ありがとうございます、二名様ご案内します」
「冗談じゃないんだけどなぁ」
「まあまあ香澄くん。席に行こうか」
二人を案内して、メニュー表を渡しあとはまた決まった言葉を言って立ち去るだけ……のはずなんだけど。
「あの。香坂先輩?」
「ん?何かな」
「手、離してくれないと動けません……」
なぜかがっしりと腕をつかまれて動くことができません。
「俺の専属メイドになってほしいな」
「え!?いやあの、そういうサービスはちょっと。みんなのメイドさんがモットーならしいので」
「うーん残念」
香坂先輩は特に名残惜しむこともなく腕を離してくれました。
これでやっと立ち去ることができます、さっきから背中に針のような視線を感じるんですよ。おそらく香坂先輩が好きな女の子たちからの。
「メニュー決まったから頼んでいーい?歌先輩」
「え、もう決まったの?」
「うん!えっとねぇ、この"ラブラブきゅん!☆のつまったオムライス大盛り"と"初恋のソーダ"ってやつ!」
決まるの早い。
ニコニコしながら香澄くんは言っていましたが、なんでそんな恥ずかしいメニュー名をさらりと言えるのかが謎です。
「じゃあ俺も、香澄くんと同じでいいや」
「あの……質問してもいいですしょうか?」
「ふーん、メイドさんの身分で主人である俺に質問するんだ?」
香坂先輩は目を細めて、意地悪そうに笑う。
そして更になんか視線が痛くなったんですが、香坂先輩は気づくことなく私だけを見ています。
「すいません、嫌なら別に……大丈夫ですから」
「あはは、うそうそ。何?」
「うわぁ馨さんってS?」
「え?俺は別にそんなんじゃないけど、それより香澄くん?そんな言葉どこで覚えたの」
「今時の中学生は知らない人いないってば」
どうしましょう、私このまま去っていいでしょうか。いやでも気になります。
今の時間は十時ちょっと過ぎなんですが、
「あのっ」
「なに?歌ちゃん」
「二人とも、朝ご飯食べてなかったりします?」
「?食べたけど」
「僕も食べてるよ?」
えっ、今ついさっき大盛りを頼みましたよね?
いくら高校の文化祭とは言え、朝ご飯を食べて二時間くらいで大盛りを食べれるものなのでしょうか……。
「そう、ですか。では、かしこまりました。どうぞごゆっくり」
段々と強くなってくる視線に耐えられなくなってきたので、私は逃げるようにしてその場を立ち去りました。
二人と話すのは楽しいんですが、周りの視線が痛くてほんの少しだけ疲れてしまいます。
「色々とお疲れ、歌」
「瑞穂ちゃんも。お疲れ様」
瑞穂ちゃんがすれ違いざまにポンと肩を叩いてくれたおかげで、元気が出ました。
午後は遊べるし、あと二時間頑張りましょう!




