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花咲と約束

桜が舞っている道の中、前に歩いている小学生(たぶん一年か、二年くらい)がどちらがより多く桜の花びらをキャッチできるかという勝負をしていた。


あたしの隣でかすかに漏れる笑い声、よくこんな状況で笑えるなー本当に。



「ねえ、さっき電話で言ってたことって本当なの?」


「本当」



あたしの顔も見ずにしれっと言う神村に余計にイライラしてしまう。



「……明日引っ越すとか。なんでもっと前に教えてくれなかったの?」


「花咲が荒れるから」


「は?なにそれ」


「そのままの意味、悲しむんじゃないかと思って黙ってた」



感情が読み取れない、平坦な声でそんなことを言われた。

なんていうか、嘘ではないんだろうけど棒読みっぽいというか……なんだかなぁ。



「お前さ」


「何?」


「前に歩いてる小学生に混ざってくれば?昨日も花びら追っかけてたし」



本気で殴ってやろうかと思った、この空気で何をいきなり言い出すかと思いきや。



「馬鹿にしてる?明日から小学五年生になるんだもん、そんなことしない」


「してただろ」


「してない!てかそんな話するために呼び出したんじゃないんだから」


「してただろ」


「だーかーら、してな」


「してただろ」



なにこれ嫌がらせ?

最初から最後まで話がよく噛み合ってない気がする。

考えたら昔から神村は空気を読もうとしなかった気がする。読めないんじゃなくて、読まない。



「あーもう!してたとしても、今話すべき内容は違うでしょ」


「花咲」


「今度は何!くだらないことだったら殴るから」


「絶対戻ってくるから。何年かしたら戻るから、また会えると思う」


「なっ……」


「だからしばらくお別れってだけだから」



一方的に伝えられて、さらにあたしは混乱した。

何言ってんの?いや、また会えるの?本気で、本当に?いつになるの?信じられるわけない。

そんな文句を言おうとして出た言葉に自分でも少し驚いてしまった。



「約束して、戻ってくるって」


「約束?」


「待ってるから」



神村はここでやっとあたしの顔を見て、笑った。



「約束する、待ってて」



この時のあたしは、その約束は永遠のものだと思ってた。

もし神村が破ったとしても、あたしは破らないと自分を信じてた。


だけど、まさか。

自分が……あたしが、約束を破る、忘れるだなんて。




☆・☆・☆




体育館の中心には綺麗に飾り付けされた大きなクリスマスツリーが置かれていた。

とうとう来てしまったか。


リア充のためだけのパーティーの時間が。

いやー本当に体育館ごと爆発して吹っ飛べばいいと思うよ。そうすれば体育館でやる体育できなくなるし。


花崎歌ウォッチングの後、学校に戻って屋上で宿題をしていたらいつの間にやら夕方になっていたのだ。いや本当に。

準備の手伝いなんざするわけがない、サボリサボリ。


で、今体育館にいるわけだ。

花崎歌がいるかなーって思った来てみたけどけどまだ来てないみたいだった。

長谷良太とはどこで合流するのだろうか。


でも何となく、今は花崎歌を見たくない気もする。




「……はぁ」




また屋上に戻ろうかな、とか思って戻ったのが間違いだったようだ。


屋上には、カップルが座り込んでいた。



「今日で俺たちが付き合いはじめて一年だな」


「ふふっ、いろいろあったけどあっという間だったね。この一年、楽しかったなぁ」



何が楽しかったなぁ?だし。

てか屋上は私のエリアなんだけど分かってる?

分かるんならさっさと体育館行けよ、むしろ逝けよ。


二人は完全に桃色空気で周りが見えていない、から後ろに立っている私に気付いていないようだった。



「……邪魔なんだけど」



この二人は花崎歌たちと違ってすごくつまんないし。

放っておいてもなんかイライラするし。


追い払うか。

ま、この後の話は花崎歌どころか私にしか関係ない話なんで省略させていただくとするよ。


二人のイチャイチャぶりは凶器になるからね、マジで。


あともう少しで終わります。

更新が遅れてしまい、すいませんでした。



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