花崎歌と天使な中学生
屋上で寝ていて、目が覚めたらもうお昼だった。
やばい、私三時間も寝てたんだ。
とりあえず起き上がり、屋上から見える景色を楽しむことにしようかな。
「少しやりすぎたかな」
今になって、思い出したかのように指先が少し震えているのに気が付いた。あのサラサラとした紙の質感がまだ残ってる気がする。
まあ後悔しても仕方ないし、何とも思わないはずなんだけど。
……よしっ、こんなこと考えるのはやめよう!それがいい。
校庭見よう。誰もいないけどって。
校庭に誰かいるし。
細かく言うと校門に向かって走ってるというかなんというか。
「花崎歌?」
自然に声が出ていた。
あのこじんまりしたシルエットは間違いなく花崎歌。
いやでもなんで?
あ、ウォッチングすればいいのか!何回も言うけどストーカーじゃないよ?
そうと決まれば早速行きますか!!
え?こんなに離れてるから無理だろうって?
モブキャラなめてもらっちゃ困る、私は超スーパーなチートモブキャラなのでどんなことも可能なのだよ!
よしよし、テンションが良い感じで上がってきた。
*・*・*
はい前振りが長引きましたが、皆さんごきげよう。
サボり魔です。
今私は学校の近くの公園にいます。詳しくは公園の中央にある木の上にいるわけだけど。
「歌先輩」
公園の中央(木の下)に立つ香澄くん。いつもの女の子らしい可愛さはどこへいったのやら、まるで別人のような声だ。
よっしゃ、今回は超近い。ベストポジションというやつですね。
「抜け出すのに時間がかかちゃった、遅くなってごめんね」
「それは別にいいんだけど……なんでそんなに泣きそうなの?歌先輩には涙なんか似合わないよ」
うわぁぁああ!!
久しぶりの王道台詞に思わず吹きそうになった。
心の中で叫んで対処。
このありがちな台詞が聞けただけで私はもう満足、ではないけど尾行という名のウォッチングをして正解だったかな。
「ああうん、ごめんね」
見事なスルースキルを発動させやがった。
スルーしてはいけない場でスルーしやがりました花崎歌。
「むー。僕といても上の空って感じ」
少しだけいつもの香澄くんに戻り頬を膨らます仕草。
なんで香澄くんは男なんでしょうか?こんな可愛い子が男なわけがない。
そしてごめんと言いながらまだ落ち込み続ける花崎歌。
「ねえ歌先輩」
「……?」
「歌先輩はさ、良ちゃん先輩が好きなんだよね?」
確信ついたまさかの展開よりも私は香澄くんが長谷良太(変態馬鹿)のことを良ちゃん先輩と呼んでいることに驚き!
不意打ちすぎるわ!
「……」
「なんか言ってよ」
花崎歌は気まずそうな顔で黙ってしまう、逆に今度は香澄くんが泣きそうな表情になっていく。
ざまぁ、花崎歌ざまぁ。
「僕は、歌先輩……花崎歌さんが好きだよ」
黙っている花崎歌にとどめを刺すように言う。
香澄くんって絶対古城勇人とキャラ被ってるよね、割とエグい。
「だから素直に答えて」
「……私は」
驚きと戸惑いと悲しみ。
ハーレム系の主人公は皆を幸せにすることができるのだけれど。
攻略キャラは本当の意味で幸せだったのかと考えると微妙かも。
「良ちゃんが、好き」
やっぱりそうなのか、花崎歌は一番王道な幼なじみを選ぶのか。
良かったね、一番安全そうなルートを選んだ。
つまらない選択だけど、もしここで誘いを受けてない神村武蔵でも好きだと言ったらどうなる?
完全にラスボスは花咲。
周囲から見たら面白い展開かもしれないけど私はマジ辞退したい。まあこの話は置いといて。
「うん」
「ごめんなさい、香澄くん」
「最初から振られるって分かってたけど、けっこう辛いなぁ」
「……っ」
目を逸らして俯いてしまった花崎歌を見て、香澄くんは困ったように微笑んだ。
「と、歌せんぱーい、もうすぐでお昼休み終わるから僕帰るね」
香澄くんはそう言って、花崎歌に背を向けて歩き始めた。
「……ありがとう、ごめんね。香澄くん」
花崎歌は俯いたまま言った、声が震えているのでたぶん泣いているのだろう。
本当はざまぁと言いたいところだけど、あんまり言うと私はただの人間のクズになるからやめておこう、うん。
別に言われても良いけど。
「だーかーら、何勘違いしてるのか知らないけど、僕は諦めないよ?」
強っ!香澄くん強っ!
「それに僕は歌先輩と同じ高校行くしね」
「えっ」
ヤバいぞ長谷良太。
油断したら本気で花崎歌をとられるかもしれないぞ!
強かな発言をした香澄くんは呆然としている花崎歌を放置して公園から去っていった。
花崎歌放置プレイリターンですか。
「あ、戻らないとっ!準備手伝わなきゃ」
しばらく香澄くんの後ろ姿を眺めていた花崎歌だが、急いで走り始めすぐ公園から消えていった。
「残酷だなぁ本当に」
花崎歌は。
さてと、私ももうそろそろ戻りますか。
ウォッチングはあの長谷良太で締めくくりか……つまらん。
とりあえず木から下りて、私も学校へ戻ることにした。




