香澄の場合
あと十日でクリスマスがやってくる。
なのに!
まだ長谷良太と神村武蔵が行動を起こしていなかった。
もう花崎歌が香坂馨からクリスマスカードを渡されてけっこう経ったというのに。
新たな展開がない中、意外な人物が行動を起こした。
「歌先輩!」
「香澄くん」
クリスマスカードを渡すイベントがない香澄くんだった。
ふっ、放課後の帰り道、花崎歌をスト……あーあーたまたま、偶然後ろを歩いていてよかったー!
状況を見ると、香澄くんは花崎歌を待ち伏せしてたっぽい。
勘だけどあってるよきっと。
「どうしたの?」
「んとねー、十日後は何の日でしょう?」
香澄くんは人差し指をビシッとたてながら言った。
うん、可愛い。
でも私は香澄くんの弟の方が好み、いやショタコンじゃないけど。
「クリスマスだよね」
「ん~、半分当たりだけど半分ハズレ」
残念でしたー、と言って笑う香澄くんは天使にも悪魔にも見える。
「僕は十日後、十五歳になるんだよー」
「もしかして誕生日?」
「うん!」
うわぉ、タイミング良すぎだろ誕生日がクリスマスって。
でもクリスマスに近い誕生日って誕生日プレゼントとクリスマスプレゼント同じにされるよね。
花崎歌は驚いた顔をした後笑った。
「何かあげるね、ほしい物ってある?」
「ほしい物……っていうか」
珍しく歯切れの悪い香澄くん、まあ緊張している様子だしこれから言うことは何となく想像ができる。
香澄くんはいつもになく真剣な顔つきになって言った。
「クリスマスの日、一緒に過ごしてほしい」
「え?」
香澄くんってこんな声出せたんだ、っていうくらいいつもの甘ったるい猫なで声は遥か彼方に吹き飛んでた。
いやなにこれ、ギャップ?
「無理強いはしない。けどもし僕を選んでくれるならその時は」
いったん香澄くんは言葉を止めて、息を整えた後はっきりと告げる。
「ちゃんと僕を一人の男として見てほしい」
……普段からこうしてれば、花崎歌は嫌でも意識するだろうに。
と心の中で思いつつも、少しだけドキッとした。
花崎歌も同じだったようでかなり動揺している様子。
「か、香澄くん……」
「いきなりごめんね、変なこと言って。僕今日は先に帰るよ」
香澄くんはいつもより二倍ほど大人っぽい笑みを浮かべて去っていった。
変わりっぷりがヤバい。
花崎歌は前回(香坂馨のとき)とまったく同じような顔をして香澄くんを見送っていた。
何はともあれ、後二人。
長谷良太はまあヘタレだから勇気が出なくて渡せないんだろうけど、神村武蔵は相変わらず飄々としているし。
つまんないからさっさと行動起こしやがれ。
私にとっての唯一の楽しみなんだからさー。
でもこの楽しみも、もうクリスマスで終わるかもしれない。
あくまで私が知りたいのは、花崎歌が六人の誰とくっつくかという結果。
その後の二人がどうなるかなんて興味はないのだよ。
なーんて。
ま、せいぜいそれまで楽しませてもらうしいいや別に。




