表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/42

リップクリームの距離

「あっ…血が出てる」

「え?」

 アロウの視線を追って、シンは顔を手でこする。

 指に血がついていた。

「ほんとだ」

 唇ががさがさしている。切れて血が出ているようだ。

 冬にはよくあることだった。

 気にせずそのまま歩き続けようとするシンをアロウが止める。

「そのままにするんじゃない」

「ええー?冬はこういうもんでしょ。別にぜんぜん痛くないし」

「見た目に痛いからやめてくれ」

 アロウは頭痛をこらえるような顔になる。

 シンにはよくわからない。

 人が痛そうにしていて、アロウまで頭を痛くするなんておかしな話だ。

「痛いのはアロウじゃないじゃん」

 シンは唇を尖らせて不満を口にする。

 誰かが怪我をするたびにアロウが頭を痛めていたら、そのうちアロウが病気になるんじゃないかと思う。

「気にしすぎ」

「気にならないようにしててくれ…」

 ため息をつきながらアロウは荷物を探っている。

 また手当てをするつもりなのだろう、とシンにも見当がついた。

「触っていいか?」

「ん」

 ゆっくりアロウの手の甲が差し出され、シンは少し見上げるようにして顔を寄せる。

 ひんやりした指が頬をかすめる。ちょっとくすぐったかった。

「頬も荒れてるな」

「そう?…ひゃっ」

 つるりと湿った感触が肌を撫でていく。

「なにこれ」

「保湿用の塗り薬」

 つんとした香りが鼻を刺す。とはいえ、表面を覆われた分、風が直接当たらない。たしかに肌荒れを防ぐ効果はありそうだ。

「ねえ、口に塗ったら食べちゃうんじゃない?」

「ちゃんと飲み込んでも害はないもので作ってる」

 シンの疑問に答えながら、アロウは反対の手に別の薬を取った。

「口には傷薬も塗るからな」

「ふあい」

 アロウの気が済むようにさせるしかない。

 傷薬をすくったアロウの指が、がさがさの唇を端から慎重になぞっていく。

 シンは任せて目を閉じた。

「……」

 アロウの指が途中で止まる。

「ん?どしたの?」

「……目は開けててくれ」

「??わかった」

 間近で顔を合わせるのは気まずいのではないかと思いつつ、シンは言われたとおりにする。

 案の定、真面目腐った顔で薬を塗るアロウの頬は荒れてるわけでもないのにちょっと赤い。

 シンはピンときた。

「なあに、ボクが可愛いから照れてんの?」

「うるさい」

「かわいいー」

「おとなしくしろよ…ああもう、はい終わり!」

 アロウは雑に保湿薬を重ねるとべちんとシンの頬を両手で挟んだ。

「ふぁにひゅんにょ」

「手当の代金回収だ!」

 むにむにとシンの頬をなでくり回して、アロウはぱっと手を離した。微妙に緩んだ顔をしている。

「変な顔!」

「お前がな!」

 言い合って、ぱっとお互い距離を取った。

 シンは頬を両手で押さえる。

 そこはやけに熱くなっていた。

(薬を塗ったせい。きっとそうだ。)

 そういうことにしておこうと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ