雪解けの時
「…なにしてる」
シンがむにむにと頬を引っ張ったり押したりしている。
「ほひゃえりぃ」
アロウはシンの鼻をつまんでやると、ぷるぷると頭を振ってシンが逃げた。
「なにすんのさっ!」
「面白い顔してるから」
「それで息の根止めに来るの!?」
「…あまり笑わせないでくれ」
アロウが顔を背ける。その表情はシン以上に崩れていた。
「もう!」
ぷんぷん怒りながらシンは布団にぼすっと座り込む。…本当はアロウの布団なのだが、すっかり自分のソファ代わりだ。
「で、なにしてたんだ?」
「なんかね、顔が疲れちゃってて」
「…疲れる?」
「外にいた時はずーっとこういう顔してたから」
そう言って、シンは眉間にしわを寄せ、指で目をつり上げ、口をへの字に曲げてみせる。
寒さや飢えに耐え、楽しみも少なく、表情は乏しくなりがちだったのだろう。
「最近いっぱい笑ってたせいか、顔がなんかぴくぴくしてきちゃって。だから揉んでた」
そう言ってまた頬を両手でむにむにと撫でまわし始める。
固まっていた表情はほぐれ、今のシンはいつも表情豊かだ。
アロウは思わず手を伸ばした。シンの手をそっと包み、手のひら越しに頬をぐりぐり押す。
「よく伸びそうな顔だな」
「……!」
のぞき込まれたシンの顔がじわじわと赤くなっていき、やがて叫んだ。
「その顔禁止!!」
「…顔?どんな?」
きょとんとするアロウに、シンは言葉に詰まる。
「どんなって……!」
とんでもなく優しい顔してたなんて、素直に言えなくてシンは顔を逸らした。
「へ、変な顔っ」
「変な顔ね……お前のが移ったかな」
そう言って、アロウは今度はまっすぐにシンを見て笑ったのだった。




