きのこパニック
「くしゅん」
ずずっとシンが鼻をすする。
玄関を入るなり三連続でくしゃみをしたシンに、いつもは無言の女将も怪訝な顔を向ける。
「なんだい、風邪かい?」
「いや、フサゲタケの胞子だ。そのうち治る」
アロウが疲れた様子で宿帳に記入し、女将から鍵を受け取る。彼の目も少し赤く充血していた。
「うええ、これいつ治るの…へくしゅ」
シンは文字通りの涙目だ。ぽろぽろと涙をこぼしている。
「洗い流したけど、しばらくは治らない。これに懲りたら興味本位でいきなり手を出すのを控えてくれ」
「うう……っぐしゅ」
アロウに渡された布巾でシンはごしごしと顔をこすっているが、くしゃみも鼻水もしばらく止まりそうになかった。
「なんでくしゃみ止まらなくなるのお」
「体が悪いものを取り込んだと思って外に出そうとしてるんだ。一度反応したらすぐには止まらない」
アロウはできるだけ簡単に伝えようとするが、難しい。シンの顔色が悪くなる。
「悪いものって…毒きのこだったの!?」
「えっ」
「ボクくしゃみ出すぎて死んじゃわない?」
目や鼻から止まらない水分の流出に心配になったらしい。
突飛な発想に、アロウは思わず噴き出した。
「くっ…あはは!大丈夫、しばらくしたらちゃんと治る」
「ほんとう??」
「本当、本当。部屋に帰ったら炎症を抑える薬作るからちょっと待ってろ」
アロウは笑って、シンの肩を押して会談へと向かう。
にぎやかに去っていく二人を女将は黙って見送った。
しばらく見ない間に随分表情豊かになったものだと思いながら。




