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第83話 Sideウォルフォード侯爵


〈ウォルフォード侯爵視点〉





私は大司教からの話に動揺を隠せなかった。





「大司教……何故私にこの話を?」






正直言って知りたくなかった。目の前の男が王族の隠したい汚点であることを。しかし……何故彼は大司教にまでなったのか……。






「そうですねぇ……。何故でしょうか。母が亡くなり、前大司教も亡くなり……私にはもう後ろ盾はない。最近思うんです。もうこの職を降りてどこか遠くへ行きたいと。もう自分という人間の存在を消し去りたい……と。だから最後に誰かに聞いてほしかったのかもしれせん」






「でも……先ほどもずっと祈っていたのでしょう?この国が魔の力に支配されないように……と」


「私にそんな力はありませんよ。ただ……聖女の息子だった事で、殺されなかったにすぎない。ただの無能な男です。祈ることしか出来ない」


大司教は淋しげに微笑んだ。






「何故貴方は大司教に?」


私は不思議だった。存在を消されはしなかっただろうが、隠し続けたかった彼を何故目立つ大司教という職に就かせたのか。






「前任の大司教は私の正体を知っていました。彼も王太后からの信頼に厚い人物でしたから。私がこの地位に就いたのは、監視できる場所に置きたかった前国王の意思です。前任の大司教と母は私が大司教になれば自分たちが居なくなった後も私の命が狙われる事がなくなるかもしれないとそれに同意しました。それで私は教会の世話になる事に。それから三年後、前任の大司教が亡くなり、私が大司教に」






三年。確かにそれは裏があると勘ぐられても仕方なかっただろう。


私の考えを読んだように大司教は続けた。






「色々とすっ飛ばして大司教になりましたから、周りにあることないことを言われて当然です。妬まれることも覚悟の上でした。……チャールズは前任の大司教から可愛がられていた。彼に良く思われていなかった事は承知していましたが、私を騙していたとは」


「本当に私の言葉を信じてくださるのですね」


「先ほどの老婆の言葉と今ウォルフォード侯爵から聞いたこと。その二つから導き出される答えがあります。ウォルフォード侯爵もそれに気づいていますね?」


「王都に魔物が出ないことが不思議でしたが……まだ本物の聖なる水晶が存在しているのなら、説明がつきます。その……引退した聖騎士の言葉を信じるなら……」


「聖なる水晶は王宮の中。……陛下に頼んでアナベル嬢の部屋を探しましょう」


「それは可能なのですか?」


「陛下には私が。彼に頼みごとをするのは初めてだが、何とかなるでしょう。だが、今日はもう無理でしょうな」


ステンドグラスから入り込む光は随分と傾いて、私達の居る大聖堂をオレンジ色に染めていた。






「では……明日にでも」


「そうしましょう。ところで侯爵、これからどうされるおつもりですか?」


「今、チャールズ司教を探させております。見つけ次第我が屋敷で彼から話を聞くつもりです。私の唯一の目的はクラリスを助け出すこと。全てはそのための手段に過ぎない」


「あの時の聖なる水晶が偽物だと証明されれば、クラリス嬢の汚名をそそぐことになります。それが一番の近道でしょう。一つ侯爵にお願いがあります」


「それはどういった?」


「私もチャールズの話を聞きたい。何故彼が私や陛下を騙したのかを」


私はまだチャールズの借金のことを大司教に話してはいなかった。彼はそのことを聞いて何を思うのだろうか。






「分かりました。では大司教、我が家へおいで下さい」






私は大司教を伴い家路に着く。私も色々と動揺していたようだ。改めて外套すら脱がずに大司教と話をしていたことに気づいた。







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