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第78話 Sideウォルフォード侯爵


〈ウォルフォード視点〉




彼女は考え込んでいる。もう一押しだ。




「些細なものでも構わない。君の証言を裏付けるものが必要だ」


彼女は少し考えた後、私に言った。






「王宮の……アナベル様の部屋を調べることはできますか?」






「王宮?」


侍女の言葉に私は頭を抱えそうになった。それはハードルが高い。






「無理……ですよね。であれば……教会のチャールズという司教を捕まえて下さい。口を割るかはわかりませんが、彼の証言があれば、私が今から言う事が立証されます」


わけがわからなかったが、私はとにかく頷いた。


彼女が話す気になってくれたと感じる。ならばこれを逃す手はない。しかもアナベル嬢と教会の司教……間違いなく、例のあの事件に関与している物のはずだ。






「分かった。直ぐさま手配しよう。ならば話してくれるね?」


「絶対に弟を治して下さいますよね?私の家族を守って下さいますよね?」


「もちろんだ」


気が急いてしまいそうになる。


私は自分を落ち着かせるために大きく息を吐いた。






「私が古道具屋に注文した物は……水晶です」


「水晶……?」






侍女の言葉はちゃんと聞こえているのに、私は何故かその言葉を聞き返していた。心臓が大きく音を立てる。私の中で想像が膨らんでいく。あの水晶が偽物だったとしたら?今まで話を聞いた者達の顔がちらつく。何度か私の中でも疑った事だった。あの水晶が偽物なのではないかと。






「はい。聖なる水晶を模して作られた物です。大きさや形はそのチャールズっていう司教からアナベル様が聞き出したものです。しかもその水晶にはある仕掛けが」






「ど、どんな?」


あぁ……やはりクラリスは嵌められたのだ。あのアナベルに。






「水晶に力を加えると黒く染まる。聖なる水晶は力を蓄える時、白く光るそうです。ならば黒く染まれば皆、その力が邪悪なものと錯覚するはずだと。アナベル様はそう言ってある程度の力を加えると黒く色を変える水晶を用意するよう私に頼みました。

あの古道具屋は自分で発明した物を色々と売ったりしていたのを知っていましたから、私がこんな物が欲しいと訪ねて行ったら『出来るかもしれない』と。そこで、彼に頼むことにしました」




「で、では……クラリスがあの時あの広間で手を翳したのは……」


「偽物です。聖女試験の最終試験でアナベル様が王都を離れている間に出来上がったので、それをチャールズ司教部屋に私が持って行きました」






「チャールズ司教に……?」






チャールズという男は聖女試験全般の責任者だ。彼は最終試験について行っていたはず。そしてあの広間に居て……ハッ!






「そうか!彼が聖なる水晶を取りに戻ってその時に入れ替えたのか!」






「あの時、私はアナベル様にそのことを伝える為に王宮で待っていました。……と同時にチャールズ司教にもそのことを伝えて、私はその場を去りまた教会へと戻ったのです」






「だからあなた、あの時アナベル様の馬車に駆け寄っていたのね……」


彼女の隣のアメリが独り言のようにそう言って頷いていた。






馬車はもう少しで目的地に着く。私はその前にまだ彼女に訊きたいことがたくさんあった。






「何故チャールズ司教に?」


「彼は賭け事が好きで随分と借金があることが分かっていました。それを全て肩代わりしてアナベル様が支払ったので……」


「それで脅した……そういうわけか。アナベル嬢は人の弱みにつけ込むのが上手いようだな」


私の言葉に侍女は苦しげに顔を歪めた。






「私の弟の病も何度かアナベル様に治療を施していただいたのですが、アナベル様の力をもってしてもなかなか完治せず……。アナベル様もこの病は聖なる力でも治せないかもしれないと常々仰っていて……」


そう言って侍女は唇を噛み締めた。






彼女はそう口に出しながら、それが嘘じゃないかと心のどこかで疑っていたのだ。


だが、ここまできて、アナベルの嘘を認めることなど出来なかったのだろう。アナベルを信じてアナベルの言いなりになって……クラリスを魔女として追放した。アナベルが自分を騙していたと気づいてもそれをみて見ぬふりして……。いつの日か本当にアナベルが弟を治療してくれる……そう信じるしか無かったのだろう。






「だからチャールズ司教を捕まえろと言ったのだな。で、王宮の部屋を探せ……とは?」






「あの日教会に聖なる水晶を取りに戻ったチャールズ司教は、本物を私に渡し、偽物を自分の部屋から持って行きました。……私、それをどうしたら良いのかわからなくて、アナベル様の荷物の中に。教会に用意されていた聖女候補の部屋は全て片付けて、荷物を王宮に一度持って行ったんですが、忘れ物があったので、その中に隠しました。そしてそれを王宮に。しかしそこから聖女になったアナベル様には王宮で用意された侍女がつく事になったので、私達公爵家の者達は帰されました。……もう弟の治療をアナベル様に頼めない……弟は最近、食事もとれなくなって……」


侍女は顔を掌で覆って泣き始めた。


弟のことは可哀想だと思うが、目の前の女がアナベルと共にクラリスを嵌めたことは間違いない。私は何とも言えない感情に支配されていた。


この女を罵倒したところで、私の気持ちが晴れるわけではないが、このモヤモヤした気持ちをどうすれば良いのか……私はそれを持て余していた。







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