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第67話


「あれは?」


「アナベルだ!!」



私は魔王と反対側の盾の壁を崩す。ウィリアム様がそこから真っ先に飛び出した。私も慌てて後を追う。もちろん、ウィリアム様に結界を張る事は忘れない。




アナベル様が隠れていたであろう岩場が粉々に砕け散っている。アナベル様は自分にはしっかりと結界を張っているので、彼女自身は傷付いていないようだ。


しかし、私達がそこにたどり着く前に、牛のような魔物が結界目掛けて突っ込んで行った。




「キャー!!止めて!止めて!」


アナベル様は真っ青な顔で立ち尽くす。恐怖で一歩も動けないとでもいう様子だ。




私より先にアナベル様へ辿り着いたウィリアム様が剣でその魔物に斬りかかる。しかし一撃ではその魔物を倒すには至らない。魔物は次にウィリアム様を狙う。そこを私の横を駆け抜けたティグレが魔物の目を鋭い爪で引っ掻いた。




『ヴォーォー!』


魔物は雄叫びをあげる。その隙に私はその魔物目掛けて矢を放った。その矢は魔物の胴体をしっかりと貫通し、その瞬間黒い霧となって魔物は消えた。




「アナベル大丈夫か?」


ウィリアム様がアナベル様の肩に手を置く。しかしパニックになったアナベル様はそれを全身で拒絶した。




『パシッ』


ウィリアム様の手をアナベル様ははたき落とす。




「大丈夫なわけないじゃない!!どうして誰も私を守らないのよ!!」


彼女は泣きながら叫ぶ。


私は急いでそこにまた結界を張りながら、




「アナベル様!しっかりしてください!一緒に戦いましょう!私と力を合わせて……」


「嫌よ!!魔王よ?!魔王が復活したのよ?!無理よ!皆死ぬわ!」


ダメだ。アナベル様はパニックになって話すら聞いてくれない。




「おい!気をつけろ!!」


ロナルド様の鋭い声が飛ぶ。




その瞬間、魔王の掌と赤い瞳からまた光線が放たれ、今しがた私の張った結界を粉々に打ち砕いた。




「キャー!離れて!私から離れて!貴女のせいで魔王に狙われるじゃない!!」




そう叫んだアナベル様はまた自分にだけ結界を張ると、私達に背を向け走り出した。




私も次の攻撃に備え、結界を張る。




「アナベルはダメだ。逆に何処かに隠れて貰っていた方が良い」


ウィリアム様の言葉に私も頷いた。




『遊びは終わりだ』


そんな声が聞こえた。すると今度は空から大きなバザバサという音が聞こえ、風が吹き荒れる。




ふと上を見ると、数メートルはありそうな翼を広げた魔王が空高く舞い上がっていた。




狙いは光の壁の中のロナルド様だ。




私は駆け出した。結界を張るにはロナルド様から離れすぎている。掌に力を集めると、白い矢を放った。


魔王の巻き起こす風で軌道が反れる。矢は魔王の翼をかすめただけだった。


しかし、ロナルド様から意識を逸らす事が出来た。直ぐ様魔王は私の方へと急降下して来る。




てっきり私を狙ってくるものだと思っていた。私は自分の前に光の盾を出現させ、魔王の攻撃に備える。……しかし魔王は私の後方、アナベル様が先ほどまで隠れていた場所に居たウィリアム様目掛けて掌を向けた。




(間に合わない!!)


私はウィリアム様と魔王との間に割り込む様に自分の体を滑り込ませた。




「あぁっっ!」


先ほど腕に纏った小さな盾を貫いた魔王の光線が私の腕を焼く。痛みに思わず怯みそうになるが、私は怪我をしなかった方の腕でウィリアム様に急いで結界を張った。




「クラリス!!」


光の盾の一つを抱え、自分の体を守りながらロナルド様が私の元へと駆け寄った。




「大丈夫か?」


ロナルド様と共に、ディグレも私の側で心配そうに私の顔を覗き込む。




「はい……何とか」


嘘だった。力が入らない。しかしここでそれを口にすることは出来ないと私も理解している。




洋服の袖は焼け焦げ、そこから覗く私の腕は赤黒くケロイドの様に爛れていた。


自分で自分を治療する事は出来ない。しかし、悠長にしている時間などないのだ。私は怪我をしていない方の腕でありったけの力を込めて、結界を張った。……これでは防戦一方だ。




「どうすりゃいいんだ!!」


ロナルド様が自分の膝を思いっきり叩いた。




このままでは魔王が作り出す魔物を狩る事で精一杯だ。


魔王には私の攻撃も届かない。私達はただ此処で体力が無くなるまでいたぶられるだけなのか。


私はふと思う。




「あの……ウィリアム様は聖なる剣の在処をご存知ですか?」


「あぁ。知っているには知っているが……危ない!!」


またもや攻撃が私達の結界を破る。


何度も何度も……私はまた結界を張り直す事しか出来ない。




「何の話だったかな……あぁ、聖なる剣か。たがあれは……単なる鍵だ。封印された扉の文様の中にあの剣を突き刺す場所がある。聖なる力を纏わせた剣をそこに入れ込むと、再度新たに封印を掛け直す事が出来るんだ。だが……剣とは名ばかり。今ではその剣先は欠け、何も切り落とす事など出来はしない」




「でも……私の矢もあの槍を折った後からは、一度も魔王に届いていません。先ほども翼をかすめただけです。どんなに力を込めても……」


悔しかった。グッと下腹に力を入れていないと、涙が溢れそうになる。




「……試してみよう。攻撃ではなく、また封印する事はが出来るかもしれない」


ロナルド様が言った。




「よし……そうだな」


ウィリアム様も頷いた。でも続けて……


「だが、既に封印の扉はバラバラに壊されている。鍵穴になる部分が残っていれば良いが……」


と唇を噛み締めた。




「私が各々に結界を張ります。ウィリアム様とロナルド様は剣を取りに行ってください」


王族にしか抜けない剣だ。そこは二人に任せるしかない。




「で、兄さん場所は?」


そう言うロナルド様にウィリアム様が指差した場所は、先ほどまで魔王が立っていた場所の直ぐ側だった。




「今、魔王が空中に居る時がチャンスです。急ぎましょう」


私はその言葉と同時に、私、ロナルド様、ウィリアム様、ティグレと別々に結界を張る。正直、怪我をしていない腕のみで結界を張るのも、中々難儀だった。




ロナルド様とウィリアム様が駆け出す。一縷の望みを賭けて。


それを見て私が魔王へと光の矢を放った。今は私が魔王の標的になるしかない。私は腕の痛みに堪えながら、何度も何度もその矢を放った。





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