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第63話 Sideアナベル


〈アナベル視点〉



何もかもが信じられなかった。驚く程の数の魔物が私達を襲う。




「また、結界が破られました!」


「皆、頭を守れ!!」


何度結界を破られただろう。その度に誰かが怪我をする。




怖い、逃げ出したい。そう思うが、皆が私に期待した目を向ける。『聖女ならやれるだろう?』


と。


焦りからか、私は聖なる力のコントロールが出来ずにいた。






「アナベル!結界を!」


「アナベル様!こいつの出血を止めてください!」


「聖騎士がやられました!早くなんとか!!」




結界に亀裂が入り、その補修をしようとした聖騎士の胴を、魔物の鋭い爪が貫いた。


「グフッ!」


聖騎士は血を吐いた。






彼女の鎧を貫通するほどのその爪が、次の狙いを私に定め、振り下ろされる。私は咄嗟に自分だけに結界を強く張る。魔物のその爪は黒い霧となって消え去った。しかし、魔物はそれに怒りを覚えたのか、殊更猛攻撃を仕掛けて来た。私は自分の身を守る事で精一杯だ。






「きゃあ!!」


また結界が破られる。もうダメだと思ったその時、


『ズシャッ!』


とその魔物の首が何処かへ飛んでいった。魔物の体はゆっくりと私の張った結界へと倒れ込み、その姿を黒い霧と変えて消え去った。






「大丈夫ですか?」


私を救ってくれたのは副隊長だったらしい。随分と多く居た魔物は、やっと姿を消した。彼は剣を鞘に収めると、尻もちをついていた私に手を伸ばす。その手は魔物の血で染まっていた。






「いやっ!!」


私は嫌悪感からその手を払う。副隊長はその私の行動に呆れた様に手を引っ込めた。






「それでは一人でお立ちください」


副隊長は私に背を向けた。自分から拒絶したくせに、何故か心細くなる。




もし……次に私が襲われた時、誰も助けてくれなかったらどうしよう。






此処に来てから力を使いっぱなしで、私はヘトヘトだった。結界もそのせいなのか不安定だ。何度も何度も魔物が結界を破る。次は私が魔物の餌食になるかもしれない。








「ちょっと!!私を癒しなさいよ!これじゃあ、ちゃんと力を使えないわ!」


私は少し離れた所で血に染まってピクリとも動かない聖騎士を今にも治療しようと手を翳す聖騎士に大声を出した。






仮面をつけていても、彼女が私を睨みつけているのが分かる。


私の声を無視して、彼女は倒れ込んだ聖騎士のお腹に手を翳す。白く弱々しい光が虫の息となった聖騎士の体に流れ込んだ。






「ちょっと!もうそいつに力を使ったって意味がないでしょう?どうせすぐに死ぬわ!それより私をどうにかしなさい!!」


皆が私をどんな呆れ顔で見ようとも、私は自分の言い分が正しい事を知っている。必要なのは私と私の力だ。他の者は単なる盾に過ぎない。






「……どうだ?君の力でどうにか出来そうかな?」


ウィリアム殿下は私の言葉には答えず、力を使っている聖騎士の肩に触れた。彼女は殿下の声も無視するように、倒れた聖騎士の治療を続けた。しかし……諦めた様に手を翳す事を止めギュッとその手を握りしめた。


悔しさからか、彼女の拳は小さく震えている。そして、彼女はゆっくりと首を横に小さく振った。






「ほら!言った通りじゃない!力を無駄遣いしただけよ!」


彼女の顎を涙が伝い、拳を濡らす。殿下は彼女の肩からゆっくりと手を離すと、


「先を急ごう。猶予はない」


と静かに言った。




そして岩陰に隠れていた私に顔を向ける。その視線はとても冷たい。






「もう君には期待しない。だから助ける事もしない。君は自分の身だけ守れば良い」


「そ、そんな!私に何かあったら魔王を封印出来ないんですよ!」


「君にはその力があるじゃないか。というか、君は元々ずっとそうたったじゃないか。自分だけを守ってきただろう?」


心外だった。私はずっとウィリアム殿下を守ってきた。それなのにこの言いよう。あんまりではないか。






「何を……っ!今まで私は殿下にも結界を!殿下と私、二人が揃って初めて封印を……!」


「それは感謝するよ。でももう僕に結界を張る必要はない。初代聖女は一人で封印を成し遂げた。最悪僕が死んだとしても、君一人で封印出来る可能性がある」


「そんな……っ!」


初代の力は桁外れだったと聞いている。それを私に押し付けるなんて……この人は本当にこの国の王になる気があるのだろうか?






地響きが轟く。足元が地震の様に揺れている。洞窟の天井には幾つもの亀裂が走っていた。






魔王の復活が近い。私は本能的にそう悟っていた。それは殿下も同じだった様だ。


「さぁ……早く行こう」


殿下は聖騎士の肩にもう一度手を置いた。彼女は立ち上がり殿下の肩にそっと手を翳す。






「気づいていたのか」


そう言った殿下に聖騎士は頷いた。そして同時にウィリアム殿下は私を憐れむようなな目で見ていた。







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