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第62話


「貴女は……!」


「お……覚えて……?」


「シーッ。大怪我だったのよ。無理して話さなくても……」


するとその聖騎士は私の手をガシッと掴んだ。予想外の力に私は驚いたが、私の顔をじっと見る仮面の下の目は必死に訴えかけていた。





「き、聞いてください。こ、このままでは……魔王が復活します……!手遅れ……手遅れだったんです……」


そこまで言うと静かに彼女は目を閉じた。






「おい!大丈夫か?」


ロナルド様が慌てて彼女の手首の脈を測る。






「気絶しただけか……」


「死の淵に居た者に大きな癒しの力を急激に流し込むと、稀にこんな風に」


「連れて行く訳にはいかないな」


「命は助かったと思いますので、ここに結界を張っていきます」






「お前は大丈夫か?」


「先ほどから段々と力が漲り始めています」


「……日が落ちたか……」


「ええ。じき夜になる」


「急ごう。彼女の言葉が本当なら……魔王が復活する」




私達三人は先を急ぐ。途中何度か、結界を破りそうな程の魔物と対峙する事もあったが、夜になった私には問題ない。






「クラリス、力を使いすぎるな。俺たちの目的は魔王だ」


「でも、ここでノロノロしていたら魔王が復活します。そうなったら……」


その時だった。足元の地面が唸る。地響きが鳴り響き、洞窟の天井からパラパラと石粒が降り注いで来た。






「な、何だ?」


地鳴りがする。途端に地震の様に地面が揺れ始めた。私は立っていられず、思わず地面に手を付いた。


『ゴゴココゴゴゴココゴ』


地響きが轟く。


「危ない!!」


『ドシン!!』


四つん這いになった私をロナルド様が引っ張る。先ほどまで私がいた場所に、大きな岩が上から落ちてきていた。




引っ張られた勢いで、私はロナルド様の腕の中に居た。






「大丈夫か?!」


「は、はい……」


ディグレも私を心配したのか、足元に頭を擦りつける。


まだ地面が揺れている。ロナルド様は上を見上げた。






「この洞窟自体が崩れるかもしれない。このまま先に進むと……閉じ込められて帰れなくなるかも……」


「でも、ここで止めるわけにはいきません。……魔王が復活してしまえば、この国が終わるかもしれない」


「そうだな。……走るぞ!!」


またパラパラと小さな石が上から私達に降り注ぐ。ここでグズグズしているのも危険を感じた。






私は結界を強める。魔物がウヨウヨと集まってくる中を私達は駆け抜けた。








「ハァハァハァ」


息が切れる。走り続ける事が出来ない自分の体力に嫌気がさした。






『ガクッ』


膝が突然折れた様にカクンと体が傾く。すかさずロナルド様が私の体を支えた。






「少し休むか?」


「いえ……。でもさっきからアナベル様の叫び声が聞こえなくなりました」


「確かにな。この地鳴りでかき消されているのか……或いは……」


「まさか!彼女は聖女です。まさかそんな……!」


「魔王が復活してしまっていたとしたら……?」


そうなれば……討伐隊の全員がどうなっていてもおかしくない。






「私は大丈夫です。……先を急ぎます」


私はロナルド様にそう言って、歩き始めた。休んでいられないが、走る体力は残っていない。足がガクガクと震えるのは、走り疲れたからか、それとも自分の恐ろしい想像の為か……。






「おい。無理するな」






ロナルド様は私の横を歩く。その表情は心配そうだ。だが彼にも分かっている筈だ。今は少しでも先に進むしかないのだと。










それは突然現れた。


急に開けた場所に出る。そこに複雑な紋章が描かれた扉の様な岩がそびえる。その前で魔物と戦っているのは、


「兄さん!!」


ウィリアム様だけだった。






ウィリアム様は頭から血を流しながらも魔物に対峙していた。その背中を他の魔物が襲う。


ロナルド様は駆け出すと、今にもウィリアム様に襲い掛かろうとしている魔物を斬りつけた。


『ギャーーー!!』


斬りつけられた魔物は、傷つきながらも、次の狙いをロナルド様に定める。


私はその魔物目掛けて弓を構える。しかし、私がその矢を放つより早く、ディグレがその魔物を鋭い爪で切り裂いた。と、同時にロナルド様がその魔物の首を刎ねる。頭を失った魔物はそのままゆっくりと後に倒れた。土煙が上がる。その中からロナルド様は姿を現した。






ウィリアム様も目の前の魔物を倒した様だ。






「ロナルド!!何故此処に?!」


驚いている間にも、魔物が二人を襲う。私は急いでウィリアム様にも結界を張りながら、二人に駆け寄った。






「クラリス嬢まで!?」


ウィリアム様は私の姿に驚きを隠せない。






「説明は後です。他の者たちは?!」


「皆……やられた」


ロナルド様の問いにウィリアム様は唇を噛み締めた。






「皆……!?」


「では……アナベル様は……?」


私とロナルド様の声が重なる。私達の頭に最悪な想像が過った、その時。






「何で貴女達が此処にいるのよ!!」


岩場の陰から、アナベル様が現れた。







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