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第61話


「もうそろそろ洞窟が見えてくる頃だが……」


山の中腹程に着くと、ロナルド様は私の手を引いたまま山の向こう側へと歩みを進めた。


その時、少し離れた場所の白い光が目に入る。




「ロナルド様!あれ!聖なる力……!」




「クソッ!先を越されたか……?!」


私達はその光の方向へと歩みを早める。なるべく目立たぬ様、岩場に身を隠しながら進む。ここら辺も岩はゴロゴロある。身を潜めるにはうってつけだった。ディグレも私達に倣って頭を低くして進む。


だが、そんな私達にも魔物が襲いかかる。




「おい!ここらの魔物は結界お構い無しだな!!」


魔王の封印場所に近い為か、魔物の力が強い。大勢の魔物に何度も何度も襲われると、数回に一回は結界を破られる様になった。




「ロナルド様!上!」




「ディグレ、右だ!!」




「ガルルルルルル」




度々破られる結界の隙間から、次々と襲い来る魔物を倒しながら、私達は洞窟を目指す。




「まだこんなに魔物が居るんだ、封印はされていない」


もう既に日は傾き始めている。魔物の力がますます強力になってきた。




「結界を何度張り直しても、魔物も諦めませんね」


ロナルド様も肩で息をしている。彼を癒す暇がない。


気付けば、先ほどまでの白い光が見えなくなっていた。




「聖なる力が見えなくなりました」




「……洞窟に入ったな。って事はあそこに洞窟がある。急ごう」


もう姿を隠す必要はなくなった。私達は一斉に駆け出した。




「ハァ、ハァ、ハァ」




「此処が……入口か」


洞窟と言うには広すぎる入口だ。本当に山にぽっかり穴が空いた様だ。




「入るか」




「はい……ロナルド様気をつけて」




「あぁ、お前もな。ディグレも。さぁ行くぞ」


私達は周りを窺いながら入口へと入って行った。


結界を更に強めたが、魔物の力が強すぎる。


魔物は自分の体の一部を黒い霧にしながらも、私達を襲う事を止めない。結界を恐れる事もない。




「危ない!」


魔物ばかりを気にしていたら、洞窟の一部が崩れて上から岩が落ちてくる。


一瞬動きが遅れた。とその瞬間、私はディグレに横へと飛ばされた。




「ディグレ、ありがとう」


ロナルド様も私に駆け寄ると地面に尻もちを付いた私に手を伸ばした。




「大丈夫か?」




「ディグレのお陰で。ディグレ、大丈夫?」


私はディグレの体を確認する。怪我はないようだ。




「もう少し固まって歩こう。その分結界をもっと強められるか?」




「はい。多分」


そう私が返事をしたその時、




『キャーッ!!』




と少し離れた先から大きな悲鳴が聞こえてきた。


私とロナルド様は顔を見合わせて頷いた。


あれはアナベル様の声だ。




「こっちに剣があるって事だな」


アナベル様の悲鳴のお陰で、分かれ道も迷わない。




「ウィリアム様は剣の隠し場所を……」




「もちろん知ってる。今は追い越す事より付いて行く事を優先しよう」


此処で鉢合わせになるとは想像していなかったが、よく考えれば予想は出来た。




「まさかロナルド様、これを狙ってたんじゃあ……」




「んな訳あるか。だが、ラッキーだったな」


そんな話をしている間も魔物の襲撃は続く。ゆっくり話をしている暇もない。




私達は悲鳴を頼りに洞窟の中を歩き始めた。


少し歩いた先で、見知った騎士服の人物が倒れているのが目に入った。




「大丈夫ですか?!」


私達はその人物に駆け寄る。仮面をつけた聖騎士だ。




「おい!しっかりしろ」


ロナルド様が彼女を抱きかかえる。




「凄い出血……!」


彼女の腹部が真っ赤に染まっているを鋭い物で突き刺された様だ。


私は急いでその患部に手を翳した。


仮面をしていても顔色が青く血の気がないのが分かる。だけど微かだが、胸が上下している。まだ間に合う!




「どうしてこんな状態の人間を……!」


ロナルド様は眉を顰めた。




「アナベル様や他の聖騎士はどうしたのでしょう?」


彼女は守りの力も癒しの力も私より上だったはず。なのに何故見捨てたのだろうか?




「わからん。一人でも仲間は多いほうが良いだろうに」




「夜になる前に封印したいのでしょうか?」


洞窟の中では昼も夜も分からない。




「う……うぅっ……」


傷を治療し始めてから暫くすると、聖騎士の瞼がふるふると震えた。口元からも声が漏れる。




「気がついたか?」


ロナルド様の言葉に聖騎士は、




「あ、あの……私は……?」


と思わず言葉を発していた。


ここにはそれを咎める者は誰も居ない。




「大怪我だった。クラリスが治してくれたんだ」


「ク、クラリス様……?!良くご無事で……」


彼女の声はまだか細く、力がない。しかし仮面から覗くその瞳には涙が浮かんでいた。


私はまだ手を翳しながら、




「もう大丈夫よ。でも、無理はしちゃダメ」


と微笑んで見せた。




「私……私は……最終試験で……クラリス様と共に」


私は彼女の仮面から覗く口元のホクロに見覚えがあった。彼女は最終試験で私達を助けてくれた聖騎士だったのだ。







































































































































































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