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第40話 Sideウォルフォード侯爵


〈ウォルフォード侯爵視点〉




私は自分の屋敷に戻って、今までの状況を整理する事にした。




私が一番初めに話を訊いたのは、最終試験に同行した護衛だった。


彼からは然程目新しい情報は得られなかったが、魔物が黒い霧となって消えた事を考えると、クラリスは間違いなく聖なる力を使ったんだと、彼はそう証言してくれた。


クラリスを信じてくれている者が居る。それだけでも私には心強かった。




司祭の話を聞いて、私はこの件はローナン公爵の差し金であろうと確信するに至っていた。


だが、やはり証拠はない。せめて黒く染まった水晶を調べる事が出来れば……そう思っていたのだが、割れてしまったとは。証拠となりそうな物を失ったのは痛かった。




『コンコンコン』


悩んで腕組みをしていた私の執務室を控え目にノックする音が聞こえた。




「何だ」


すると扉を少し開いて顔を覗かせたのはー




「アメリか……どうかしたのか?」


アメリはクラリスと別れてからというもの、塞ぎ込んでいたのだが、何故か最近、休み時間や休みの度に、外をウロウロしている事が多くなった。


アメリはクラリスの潔白を証明するのだと息巻いていたが、同時に酷く落ち込む事もあって、少し不安定だ。




「あの……思い出した事があって、色々と自分なりに調べていたのですが……。私では調べる事に限界を感じて。出来れば旦那様に力を貸して頂きたいのです」


少し思い詰めた様な表情のアメリが少し心配になる。




「アメリ、大丈夫か?で、思い出した事とは?」




「私は大丈夫です……ただお嬢様が心配なだけで。それで……私、旦那様に調べて貰いたい事がありまして……」


大丈夫だと言うアメリが逆に心配になる。




「何だ?」




「あの日……最終試験から戻った時にローナン公爵令嬢の馬車に駆け寄った侍女が居たんです。その侍女は教会で待っている……謂わば待機組の侍女だったはずなんですけど、何故か王宮に居て……ちょっとだけ不思議に思ったんですよね」




「それで?」


アメリは両方の手でエプロンをギュッと握りしめていた。きっとあの日の事を思い出すのは、今でも苦痛なのだろう。




「私、この前お使いで街へ出たんですけど……その侍女がガラの悪い男の人に絡まれていて……」




「ガラの悪い男?どんな風に?」




「最初はお茶にでも誘われているのかと思って見ていたんですが、その男が『じいさんを何処にやったんだ!』って怒っていて……。その時侍女が大声を出したので、その男は逃げたんですけど……。侍女の顔は真っ青だし、私、何だか気になって……。その男の跡を付けたんです」




「跡を?それで?」




「治安の良くない裏通りに入られてしまったんです。古道具屋みたいな怪しい店に入って行った所までは確認できたんですが……」




「そんな所に女一人で入ってはいけないよ?しかし……何だか気になるな。一体どの辺りなんだ?」




私はアメリから場所を聞いた後、直ぐ様執事を呼んだ。




「この通りにある古道具屋を調べてくれ。金は幾らかかっても構わん」


アメリはその後、何度か街に出てその男を探したが見当たらなかったと言った。




私はこの件は私に任せて、少し休めとアメリに言う。そしてくれぐれも危険な事はしないようにと釘を刺す事も忘れなかった。




アメリの感じた違和感の正体が何なのかは分からない。しかし、今の私にはどんな些細な事でも良い、何かこの状況を打破するきっかけが欲しかった。




そう言えば、聖女達が出発する少し前にロナルド殿下の行方が分からなくなったと王宮で騒ぎになっていたが……結局、その後の討伐隊の出発の方が一大事で、ロナルド殿下の話は一切聞かなくなった。何ならもう捜索すらされていないのかもしれない。


既に陛下は今後王太子になるウィリアム殿下にしか興味はないのだろう。




「王族なんて利己的な奴ばかりだ」


私は誰に聞かせるでもなく、独り言ちた。




私がどんなにクラリスの処分に抗議しても陛下は聞き入れてくれなかった。その上王宮から送られてきたのは養子縁組解消の書類。


サインをしない私に陛下は言った。


『ウォルフォード家の為にサインしろ』と。




家族を何だと思っているのか。家の為にクラリスを迎い入れた訳ではない。私は断固としてサインを拒否し、その書類を破り捨てた。


もしかすると、私達にも何らかの処分が下されるかもしれない。その時は、私一人がそれを受ければ良い。そう決心した私に、シェルビーとロイは言った。


『その時はこの国を捨てましょう。家族さえ居れば私達は幸せです』と。




そんな中、前聖女である王太后様の崩御の知らせが届いた。


いよいよこの王都にも魔物が現れるかもしれない。


王都は厳戒態勢が敷かれ、物々しい雰囲気になった。




「まだ魔王の封印が成功したとの一報はありませんね」


窓の外を眺める私の背中に執事が声を掛けた。




「グズグズしていたからだろう」




「どうも……新しい聖女様への風当たりが強いようで」




「あの女が出発を渋っていたのは、皆の知る所だ。ローナン公爵は?」




「だんまりです」




「……そうか。まぁ、これで王都や王族に被害が出る様な事があれば、公爵も処罰対象になるやもしれんな」


しかし他の者が犠牲になっても、王族は最後まで……いや、いの一番に守られる。


いつも犠牲になるのは、弱い者達だ。




私は大きくため息を吐いた。





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