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第33話 Sideアナベル


〈アナベル視点〉




「ウィリアム殿下、少しよろしくて?」




殿下の部屋を訪れた私に、周りの護衛は何故か鋭い視線を投げた。


私に直接抗議する度胸もないくせに、視線だけで不満を表す彼らを滑稽に思う。


私が出発を遅らせていることを、この者達は知っている。ならば私なしで魔王を封印してみろと言いたい。私は聖女だ。今の私の立場は陛下より尊いものである事を彼らはもっと考えるべきだろう。




「やぁ、アナベル。こんな時間に何かな?」


ウィリアム殿下はいつも通り微笑んで私を迎え入れた。彼を王太子に出来るのは私だ。彼も私に従うしかない事は理解しているのだろう。




「体調面にはまだ少し不安が残りますが……明日、魔王の封印に向かいたいと思います」


私の言葉にウィリアム殿下は笑顔になった。




「そうか!やっと出発出来そうかい?ならば、討伐隊の騎士達にも知らせてこよう。そうか……良かった」


最後の『良かった』はまるで噛み締める様に発せられた。殿下は余程この時を待っていたと見える。




「ええ。王都の皆にも御触れを出して大々的に封印へ向かいましょう。それが国民への安心に繋がる筈です」




「あ……あぁ。そうだな。君がそう言うならそうしよう」




「殿下……どうかしました?」


歯切れの悪い殿下にイラッとする。




ー誰が聖女で、誰が命がけで魔王の封印に行くのかー




それを国民には知らしめる必要がある。それがこの国の聖女崇拝に繋がるのだ。いずれ殿下と結婚し、ゆくゆくは王妃になる事を考えても、国民には畏敬の念を抱かせておいた方が何かと得である。




「いや……少し言いにくいんだが国民が聖女に不信感を抱いている。大々的に王都を練り歩くのは……」




「だからこそです!コソコソと出発したのでは国民に私達の行いが届かないではありませんか!良いですか?殿下は王族、私は聖女。国民の頂点に立つ私達が国民を鼓舞する象徴になるのですから」


私の言葉に殿下はほんの少し微笑んだ。




「そうだね。……確かに僕達が国民を守るという姿勢を見せるのは大切かもしれない。うん……きっと国民の皆も待っているはずだ。君の言う通りにしよう」


私は殿下の返答に満足して、彼の部屋を出た。周りの護衛は未だ不満げだが、命をかけるのは彼らではない。私や殿下、そして討伐隊に選抜された騎士達だ。文句は言わせない。




私は彼らの視線を無視して部屋へと戻る。




……そう言えば、あの侍女の始末が後回しになっていた事を思い出した。


この王宮には自分の侍女を置いておけなかった為に全員屋敷に返したのだが……。まぁ、まだ焦らなくても良い。あの侍女が何か言った所で、誰も信じないだろう。私と侍女。信頼される者はどちらなのか、比べるまでもない。私が此処に再び戻って来た時はには王太子妃だ。




魔王の封印は気乗りしないが、これも必要な事だの自分を納得させる。


私は背を伸ばし、颯爽とまた来た道を戻る。


この国の者に分からせなければならない。誰が聖女で、誰がこの国を守っているのかを。






翌日、隊列を組んだ討伐隊が王都の街を、ゆっくりと進む。


いよいよ、私達の魔王封印への旅が始まった。


沿道には人が集まっていたが、私が期待していた人数よりも随分と少ない。しかも皆厳しい顔でこちらを睨みつけていた。


私は不満だった。どうしてこんな者たちの為に、私が命をかけなければならないのだろう。


思ったより人が集まっていなかったせいか、討伐隊はゆっくりと進む事を諦め、そのスピードを上げた。




王都を離れた途端、人の気配が極端に少なくなる。今まで、この国は王都以外こんなに閑散としていたのかしら?


幼い頃から、聖女になる為の教育に一日の大半を費やしてきた。王都から出る様な機会が殆どなかった私には、比較出来る記憶もなかった。しかし……最終試験の時でももっと賑やかだった様な……。私は馬車の外を眺めながら、そんな事を考えていた。




馬車には私一人。侍女を連れて行くと言ったら、そんな前例はないと言われた。あの時の陛下の顔を思い出すとイライラする。


『君は何か誤解している。これは旅行ではないんだぞ?』


あの私を馬鹿にした様な物言い。私を誰だと思っているのかしら。


私の世話をするのは聖騎士だ。彼等……いや、彼女達はなり損ないの聖女候補達。




私は馬車に並走する馬に乗る聖騎士達に視線を移す。




「惨めね」


私は無意識にそう呟いていた。





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