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第28話


「これは……家?」




森の奥深く。突然開けた場所に着く。そこにはポツンと一軒の小さな丸太小屋が建っていた。


虎はその家の扉の前でペタンとお座りをして、私を見ている。


どうもこの家に案内したかった様だ。


私はその扉に手をかけた。ノックするべき?でも此処は魔女の森。何人たりとも立ち入り禁止だ。




私は意を決して、その扉を薄く開ける。『ギーッ』と扉が軋む。




「お邪魔します……」


何となく声を掛けて、私はその中を覗いた。




明かりのない部屋の中は薄暗くてあまり良く見えないが、テーブルに椅子。簡単な台所も見えた。


私は大きく扉を開いて、足を一歩踏み入れた。




埃は被っているが、家の中には生活に必要なものが一通り揃っていた。


誰かが此処で暮らしていたのは間違いないだろう。




いつの間にか白い虎も家の中に入っていた。


あまり広くないこの小屋では、大きな虎は動きづらかった様で、すぐにその場に座った。




「あなたのお陰で雨風をしのげるだけじゃなく、住む場所を確保出来たわ、ありがとう」


私は虎にお礼を言った。虎は私の手に頭を擦り付ける。撫でて欲しい様だ。


私は虎の頭を撫でる。虎は気持ち良さそうに目を細めた。




正直、何処かに洞窟でもあればラッキーだと思っていたのに、こんなしっかりとした家を手に入れる事が出来た。本当にありがたい。




しかし……私はさっきからあるものを感じ取っていた。


この開けた場所。そこに入り込んだ時から感じてたこの感覚。




「ここには結界が張られているわ……」


私は虎を撫でながら呟いた。




この立ち入り禁止の森に誰か私の他にも居るのだろうか?しかし、此処に人の気配はない。


私はテーブルの上の埃を撫でる。降り積もった埃が、それを証明していた。




「まずは掃除ね」


私は埃のついた手をパンパンと叩きながら苦笑した。




「何とか綺麗になったかしら」


狭い小屋だが、掃除となると中々時間が掛かった。




「シーツを洗いたいわ……ねぇ!近くに川や湖はないかしら?」


私は掃除中、小屋の外に出ていた虎に窓から声をかけた。


虎はその声に反応した様に、大きく伸びをしながら、立ち上がる。ウトウトしていた様だ。起こして申し訳ない。




私が虎の後をついて行くと、小さな川に出た。


私は川緑にしゃがみ込むと川の中に手を入れる。




「水が綺麗ね……」


私はそれを両手ですくって口に入れた。飲んでも問題ない様だ。


虎も私の横で水を飲んでいた。すると、何処からともなく、たくさんの動物がわらわらとその姿を表し始めた。




「わぁ……たくさん」


うさぎやリス、鹿や鳥……。ここにはたくさんの動物がいた。


そして私の方へと皆が寄ってくる。隣に虎がいるのに……皆怖くはないのかしら?


そう思って隣を見ると、白い虎の頭に二匹の鳥が止まっていた。


私は思わず笑顔になる。




「フフッ。皆あなたを怖がらないのね」


私は虎の耳を突いて楽しむ鳥の前にそっと指を出した。


鳥はすぐに私の指へと飛んできて、そこで今度は羽繕いを始めた。


ここはやはり結界が張られている。どうも動物達にはその事が本能的に解っている様だ。集まっているのはそのせいだろう。




私は川の下流まで少し足を伸ばしてシーツを洗った。


家に戻りシーツを干す。ここには必要な物が殆ど揃っていたので、本当に助かった。




川で体を洗い、洋服を着替えた。アメリが用意してくれたワンピースを大切に着回していくしかない。


正直、孤児院での生活に戻ったみたいだ。後は食料の確保だと思っていたら、先程の白い虎が魚を咥えて戻って来た。


私の前でそれをポトリと落とす。




「これを……食べろって事?」


白い虎はゆっくりと座って私をジッと見た。どうも食べろと言っているらしい。


私はその魚を家へと持って入る。虎はその様子をずっと見ていた。




私は扉を閉める前に、




「あなたも来ない?一人は寂しいわ」


と声をかけた。


虎はいそいそと、家に入って来る。その様子が可愛らしくて私はまた笑顔になった。


こんな状況なのに、今の私は笑顔だ。それもこれもこの虎のお陰だと感じる。




「こんなに上手くいっているのはあなたのお陰ね。あなたに名前を付けなくちゃ、呼ぶことも出来ないわね」


と私は虎の頭を撫でた。




魚を料理して食べた後、私は虎に『ディグレ』と名付けた。




「これからあなたをディグレって呼ぶわ。異国の言葉で『虎』という意味よ。気に入った?」


ディグレは私の手に頭を押し付ける。撫でて欲しい時の合図だ。




「気に入ってくれたのね。良かった」


しかし……此処はどういう場所なのだろう。




昔から御伽噺の様に語られていたのは、魔女の森には魔が棲んでいて、人々が森に入るとその魂を喰らってしまうと言われていた。


しかし実際はどうだ。ここの家を中心に随分と広い範囲で結界が張られている。




ここの正体を知りたいけれど、色々と考えのも疲れてしまった。お腹が満たされると次は睡眠だ。




シーツは洗ってしまったが、私は粗末ながらも大きめのしっかりとした寝台に倒れ込んだ。


とにかく疲れた。私にはもうその瞼を開けておく事が出来なかった。





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