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第20話


「お前……っ!」


ロナルド様はそう言いかけたが、私の表情を見て、口を閉じた。




「陛下。私は魔女ではありません。でもそれを立証する術が私にはありません。追放だと言うのなら……それに従います。しかし、一つお願いがございます」




「願い?それは何だ?」




「私は元々孤児です。養父母は私と関係ありません。追放と共に私を元の孤児に戻して下さい。ウォルフォード家と私はもう何の関係もありません」




養父母はとても良心的な人だ。そしてこの六年、愛情を持って私を育ててくれた。彼らに迷惑をかける事だけは避けたかった。もちろんロイにも。




「分かった。その願いは聞き届けよう。では今から魔女の森に向かって貰おう」




「今から?」




「そうだ。もうウォルフォード家に戻る事はできん。今お前が言ったばかりではないか。『何の関係もない』と」


そう言われると、私はもう何も反論出来なかった。




「分かりました。しかし、このドレスでは森の中を歩けません。せめて動きやすいワンピースと靴を……」




「おい!誰か適当な服を持って来い!」


陛下は近くの護衛に声を掛ける。護衛は直ぐ様広間から出て行った。




「では、私が聖女……という事でよろしいですわよね?」


アナベル様の勝ち誇った声が聞こえてきた。


皆がこの展開に驚いている中、彼女は全くブレる事がない。ある意味尊敬する。




大司教様は困惑した様に陛下へと振り返る。




「そうなるな……」


と陛下は大きく頷いた。




私の側に護衛が駆け寄り、


「ウォルフォード侯爵令嬢……いえ、クラリス嬢。こちらに着替えを用意しました、どうぞ」


と退出を促された。




追放される私に、まだこうして敬意を持って接してくれる護衛に感謝する。彼の顔をよく見ると……




「貴方……試験の時の……」




「はい……。残念です」


彼は一言そう言うと、私を先導する様に前を歩く。私はその後ろを追った。








「お嬢様!!」


アメリが泣きそうな顔で私に縋り付いた。




用意されていた部屋は先程着替えの為に与えられた部屋より少し狭かった。私はそんな風に小さな意地悪をする貴族達に可笑しくなる。




「アメリ……良く聞いて。もう貴女と私は赤の他人。私なんて忘れてしまって構わないの。お父様……いえ、ウォルフォード侯爵夫妻にも同じ様に伝えて。私達はもう無関係だわ」




「お嬢様!そんな……!お嬢様が魔女だなんて何かの間違いです!」




「私だって自分が魔女だなんて思ってない。でも、もう時間がないの。着替えるからドレスを脱ぐのを手伝って貰える?護衛が……外で待ってるから」


アメリの頬を涙が伝う。それを見ると私まで泣いてしまいそうだ。




私はお腹にぐっと力を入れてそれを堪えた。




「ならば私もご一緒します!」




「馬鹿言わないで!魔女の森よ?誰も立ち入る事が出来ない、禁断の森なの!」




「そんな所にお嬢様を一人で行かせる訳にはいきません!!」




「煩いわね!足手まといだと言ってるの!……私には力がある。でも貴女まで……守れないわ」


我慢していた涙が頬を伝う。私は乱暴にそれを手の甲で拭うと、




「貴女が手伝わないのなら、私一人で着替えるわ。さっさと出て行ってちょうだい」


と努めて冷たく言った。




「……分かりました。お嬢様のお世話は私の仕事。私は私の仕事を全ういたします」


アメリは天井を向き、涙を堪える。そして無理やり笑顔を作ると、




「髪は編み込んでハーフアップにいたしましょう。お嬢様の綺麗な髪には、それが良くお似合いですから」


と声を震わせた。




シンプルなワンピースに着替え、廊下に出ると、さっきの護衛とは違う護衛が不機嫌そうに立っていた。




「外に馬車を用意しています。……それは荷物ですか?」


アメリが私の為に、最低限の荷物を詰めた小さめのトランクを用意してくれていた。


護衛は面倒くさそうにそう言うと、




「ご自分でお持ち下さいね」


とさっさと私に背を向けた。私は最後に扉の前で涙を堪えているアメリに振り返る。




「今までありがとう。貴女のお陰で毎日楽しく過ごせたわ。……侯爵夫妻にも『ありがとう』を伝えてくれる?」




「はい……。でもお嬢様……私は絶対に諦めません。お嬢様の身の潔白を晴らしてみせます」


とアメリは拳を震わせた。




「いいえ。もう私の事は此処で忘れてちょうだい」




少し先を歩く護衛が振り返り舌打ちをした。




「早く来てください!!出発が遅れればその分到着が遅れます!」


私はその声に急かされる様に、護衛の背中を追った。




私は不機嫌な護衛に顎で示された馬車に自ら乗り込んだ。


この護衛は私の手に触れると、何かが伝染るとでも思っている様だ。


私が馬車に乗り込んだ途端、何の余韻もなく馬車は出発した。


馬車の御者と不機嫌な護衛。なんとも寂しい旅立ちとなった。





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