第85話 推し
「わ、私!!! い、井上純さんの!! ファンなんですぅぅぅぅ!!!!」
「え、ええ!?」
突然の大声に、私たちは驚いてしまった。
そ、そうだったんだ、下山さん……純ちゃんのリスナーだったんだ。
「じ、実はいつか、井上さんにこれ全部提供出来たらなーって……で、でもタイミングが掴めなくて……し、しかも状況が……ど、どんどんどんどん暗くなって……それで……」
「あ、い、いいですよ!」
下山さんは笑顔から一変……表情が暗くなっていった。
「ほら、頭上げてください」
「い、井上さん?」
「ありがとうございます、こんなに素晴らしいものをたくさん用意してくれて」
「い、いいいいいいいい、いえ! 光栄です!」
純ちゃんに元気付けられ、下山さんは笑顔を見せた。
推しに褒められる状況……生で観るの初めてかも、私のファンもこういう風に思ってくれると良いなぁ。
「あ、ああああああ、あの! こ、こここここここ、こんな状況で……アレなんですけど……さ、さささささ、サイン、ください!!」
下山さんは自分の懐から、メモ帳とペンを取り出した。
「あ、うん……もちろんいいですよ」
「あ、ああああああ、ありがとうございましゅ!!」
純ちゃんは下山さんからメモ帳とペンを受け取り……慣れた手つきでサインを書いて……返却した。
「あ、ありがとうございます! ありがとうございます!! い、一生の宝物にします!!」
「い、いえ……喜んでいただけて僕も嬉しいですよ」
下山さんはお礼代わりに、純ちゃんの手を掴んで、思い切り振った。
そりゃ嬉しいよね、推しと生で会えた上に握手とサインまで……あ! ていうか!
「そ、そろそろ先に行こうよ! 純ちゃん!」
「あ、そ、そうですよね! 下山さん! 色々ありがとうございました!」
「い、いいいいいい、いえ! こちらこそ、サインありがとうございました!! も、百地さん! 新衣装……き、気に入ってくれるといいんですけど……」」
「……はい! 上手く使いますね!」
……近接攻撃特化……きっと役立つはずだ。
折角もらったんだから、上手く使わないとね!
「さ、行こうか、純ちゃん」
「……はい! では、また! 下山さん!」
「は、はははははは、はい! お気を付けて!」
下山さんは深く頭を下げ、私たちの健闘を祈った。
「さ、美羽さん」
「うん」
「えーっと……ヘルメットは……これか!」
純ちゃんがボタンを押すと、どこからかヘルメットが2つ出現した。
おお……凄いハイテク、なんかSF映画みたい。
私は純ちゃんからヘルメットを受け取り、バイクの後部座席に跨った。
純ちゃんは鍵を回し、エンジンを始動させた。
「しっかり掴まってくださいね!」
「うん!」
純ちゃんはスロットル全開にし、バイクを走らせた。
駐車場を駆け抜け……道路に飛び出した……。
目的地は……センテンドー本社。
正直言って怖い……でも、今は食い止めなくちゃ!
「さぁ、飛ばしてって! 純ちゃん!」
「はい!」




