第16話 お互いの悩み
「い、いやでも井上さん……」
「……純」
「……え?」
私は彼女の名前を口にすると、突然立ち止まった。
「……純って呼んでください、僕の方が年下でしょ?」
「え、じゃあ……純ちゃん?」
「……はい!」
純ちゃんと呼ぶと、彼女はまた、眩しい笑顔を見せてきた。
彼女はまるで太陽よりも明るい恒星に見える。
それに比べて私は、宇宙に取り残された小惑星のように暗い。
彼女のように、やる気満々で、どんな相手でも素手で立ち向かえるような人物であったのなら、今の私は、今日やった配信の時のように、大勢の人たちに見られていたはずだ。
……はぁ、なんか、この子見てると自分が凄く情けなく見えちゃうな。
「今日の配信、とっても楽しかったですよ、美羽さん」
「そ、そう?」
「はい! コラボ配信なんて久々で、楽しく探索ができましたよ!」
……突然コラボを照り付けたのに、楽しかった? この子本気で言っているのか?
でも、純ちゃんの笑顔は裏が無いように見えた。
「ところで、Vtuberの配信ってどんな感じなんですか?」
「ど、どんな感じって?」
「いや、僕の勝手なイメージなんですけど、Vtuberの人って、なんか華やかだなぁって感じがするんですよね、自分たちとは違う何かに成り切るなんて、僕みたいなダンジョン配信者にはできないことです」
「……」
華やか……か。
実際問題、そんなものじゃない。
リアルバレしたら原則おしまいだし、変な発言をして炎上すれば、リアル配信者みたいに替えが効かない……キャラクターがあってこそのVtuberだ。
所謂「転生」をした人も私の周りには何人もいたけど、大体は前世の人気よりも落ち込んでいることが多い。
それと比べると、ダンジョン配信者は……。
「……でも、ダンジョン配信者の人は凄いよ、あんなバケモノ相手に果敢に立ち向かって、それでいてトークでみんなを盛り上げる……私なんかじゃ、そんなことできないよ」
そうだ、そこがVtuberにはできない芸風だ。
Vtuberはその性質上、動きがとても小さい。
3D配信も、それ専用の機材やらスタジオやら用意しないといけないし……。
そう考えると、躍動感があり、それでいてスリルを楽しめるダンジョン配信が今大ブームになっているのも、ある意味納得できる。
「でも、結構大変なんですよね……ボクは企業所属ですから、ちょっとした言葉で信用がなくなると企業に迷惑が掛かりますし、あと……よく言われるんですよ、『うちの子がアンタの配信を見て暴力的になっている』とか『お願いだから他のダンジョン配信者と関わらないで』とか……」
あぁー、確かに純ちゃんクラスの配信者だとそう言われるかもね。
隣の芝生は青く見えるというやつであろうか、
「私もしょっちゅう言われてるよ『絵畜生風情が企業案件するな』とか『あのVtuberはカスみたいな奴だからコラボすんじゃねぇ』とかさ」
「あはは、お互い似たもの同士ですね」
「……かもね」
私たちは、お互いに笑い合った。
なーんだ、結局同じネット配信者じゃん。
最初こそ妬ましく思っていたけど、全世界に向けて配信しているのは変わらない、お互いに似たような悩みを抱えているんだ。




