第97話 いろいろバレテーラ。
誤字報告ありがとうございます。
俺がポーションの営業をしていたら『失礼します』と言って制服を着た女性自衛官がコーヒーを乗せたワゴンを押して部屋の中に入ってきた。
テレビなどで見る政府がらみの会議では水のペットボトルが各人の前に置かれているのをよく目にしていたが、やはりコーヒーだよな。
皿の上にミルクと砂糖、それにティースプーンを乗せてコーヒーが俺の前に最初に置かれた。その次が華ちゃん、後は、先方の序列通りだ。そこらへんは当たり前だがキッチリしている。コーヒーを配り終えた女性自衛官は一礼して会議室から出ていった。
「先ほどのポーションには劣りますが、どうぞ」と、川村室長。
俺はまずストレートで一口。うーむ。なかなかいい豆を使っている。いい豆ということしか分からないコーヒーはたいていブルマンだ。
もう一口ストレートでブルマン(仮)を口に含み、ゆっくり飲み込んだ俺はミルクを入れてかき混ぜ、さらに一口飲んだ。そして、3分の2になったコーヒーカップに砂糖を半分だけ入れてかき混ぜ、ゆっくり最後までコーヒーを楽しんだ。
隣の華ちゃんを見ると、ストレートで飲んでいた。というか、俺以外全員の皿の上にミルクと砂糖がそのまま置いてあるところを見ると、みんなストレートで飲んでいたようだ。
「岩永さん、このコーヒーおいしいですね」と、華ちゃんが言ったので俺は曖昧にうなずいておいた。間違っても、このコーヒーはブルマンに違いないとか言わないからな。
コーヒー休憩の後。
「先ほどのポーションで驚いてしまい、うかがわなくてはならない点を失念しておりました。
岩永さんが貴金属取扱業者に持ち込まれた純金なんですが、加工前の物が残っていましたので、研究所の方で分析させていただきました」と、川村室長。
金のサイコロまで。マネロンの嫌疑がかかっていた以上証拠物件だものな。
「それで、純度を測定した結果、イレブンナイン、9が11個ですから、えーと、99.999999999パーセント以上の高純度であることが分かりました。
失礼ですが、あの金はどのようにして入手されたのでしょうか?」
錬金した結果、純金ができただけなのだが、文字通り純金だったようだ。職業を錬金術師と言ってはいるし、今さらか。
「先ほど言ったように、いちおうわたしの職業は錬金術師でして」
「まさか、文字通り錬金術で金を錬金!?」
「そういうことになります。特に意識して金を作ったわけじゃないのでおそらくあの金は純度100パーセントだったと思います」
「……!」
みんな俺の言葉に驚いたようだ。となりに座っている華ちゃんも驚いて俺の横顔を見ている。あれっ? 華ちゃんに金のこと教えていなかったっけ?
「つかぬことをおうかがいしますが、錬金術というのは、鉛などの卑金属を金に換える術と考えていいのでしょうか?」
「いちおう、化学の元になったようなものなので、ポーションも作れます。
残念ながら、元素の変換はできません」
錬金術Lvマックスの俺にできないのだから、錬金術での元素の変換はできないと言っていいだろう。
「ということは?」
「金を錬成する時、何かの素材を使っているのかもしれませんが、明確に使っているのはわたしの精神力だけです」
俺は嘘は言っていないのだが、誰も理解できないだろうという無駄な自信すらある。
「分かりました。
金以外にも錬成? 錬金? 可能なのでしょうか?」
「おそらく可能でしょうが、何もないところから錬成するのはかなり精神力を必要とするので、錬金術で何か作る場合は、ふつうは元になる素材から作っています」
「そのことに関連するかもしれませんが、岩永さんのお住まいの近くの中古車販売店で、岩永さんが廃車を何台か購入されたとか? 手品でどこかに隠して持っていったという販売店の方のお話だったんですが、覚えていらっしゃいますか?」
こっちもきたか! 当たり前か。やらかしている自覚がなかったわけではないが、国家権力の地力を垣間見てしまった。
「先ほど言ったように、錬金術の素材として購入しました」
「根掘り葉掘りおうかがいして申し訳ありませんが、最後にもう一点だけ。
廃車の手品も気になりますが、先ほどから、岩永さんは上着のポケットからポーションの瓶をすでに15本もお出しになっておられますが、そのポケットは一体どうなっているのでしょうか?」
もういいや。
「ラノベなんかでよく出てくるアイテムボックスというスキルを持っています。内容はラノベによって微妙に違うのでしょうが、大まかなところは一緒でしょう」
「分かりました。
今日はありがとうございます。
最後に、岩永さんと三千院さんにお願いしたいことがあります」
「何でしょう?」
華ちゃんも川村室長を見つめる。
「おそらく、日本に、日本だけに出現したダンジョンはこの国に大きな利益をもたらすものと私たちは考えています。
そのダンジョンや魔法とスキルの先駆者であるお二人に、D関連室所属の特別研究員という形で防衛省に籍を置いていただけませんでしょうか?」
「どういった仕事内容ですか?」
「取り立てては何もありません。言い方はあまりよくはありませんが、お二人にツバを付けておこうというだけですので、わずかばかりの俸給、えーと、源泉後で月額30万程度が支払われますが、義務的なものはありません。給与の支払先は三千院さんの給与も含めて岩永さんの金の売却代金が振り込まれた銀行口座にさせていただきます。何か不都合があるようなら別の口座にしますが」
当然俺の口座番号くらい知ってるはずだものな。
「それで、結構です」
「はい。ポーションの代金もその口座に振り込まさせていただきます」
「わかりました。
それで、特別研究員になると何か禁止事項はありますか?」
「われわれが負っているような防衛省の職員であることによる制約などは一切ありません」
「なるほど。
華ちゃんどうする?」
「わたしはどっちでも。岩永さんが決めてください」
「わかりました。そのお話はお受けしましょう」
「ありがとうございます。
当方で、ダンジョンやスキルブックについて新たな情報があり次第お知らせします。
お二人からも何かありましたらご連絡ください。
御面倒でしょうが、われわれへの連絡は、このスマホをお使いください」
川村室長はそう言ったところで、田中事務官が立ち上がり、俺のところに回ってきてスマホをテーブルに置き、その後華ちゃんのテーブルに置いて自分の席に戻っていった。
「野辺と書かれたかわいいクマさんのアイコンをタップしていただければ、私に直通電話がつながります。
メールアドレスには、D関連室のメールアドレスが入っています」と、野辺副室長が説明してくれた。
なぜにかわいいクマさんのアイコンなのかはわからないが、意外とこの人お茶目なのかも?




