第94話 娑婆の空気、防衛省へ
92話で「準備おさおさ」について誤字報告をいただきありがとうございます。
「おさおさ」使いたかったのでそのままにしています。
どういった用件か今のところわからないが、防衛省のお偉いさんから連絡があり、防衛省に華ちゃんともども招かれてしまった。
華ちゃんも一緒ということは、魔法関係の質問の可能性が高い。いずれにせよ取って食われることはないだろう。
いきなり催眠ガスで眠らされたらかどわかされる危険もあるが、目覚めさえすればいつでも逃げられる。などと、愚にもつかないことを考えたところで喫茶店を出た俺は、すぐに屋敷に戻っても良かったがスマホでニュースを見ながらさくら通りを昭和通り方向に歩いていた。
ニュースを読んでいると、ピラミッド周辺の避難命令や避難指示は解除されていることが分かった。冒険者ギルドと称する民間組織が各地で立ち上がり、ダンジョンの一般開放を求めてるそうだ。俺や華ちゃんのような異世界召喚特典のある者ならダンジョンで活躍できると思うが、一般人では難しい。言い方を変えれば犠牲者がそれなりに出るんじゃないだろうか? そうなると、自己責任とは言え、メディアが大騒ぎして原因究明という名の犯人探しを始め、その結果一気に規制が増えるのがこの国だ。
それとは別に日本のことだから、ちょっと見てくれの良い冒険者が、ちょっと活躍すれば大騒ぎでメディアがスターに祭り上げるんだろう。そういったことも一つの文化だし、あながち悪いことではないとは思う。しかし、もし祭り上げられた本人に本当の意味での実力がなかったら、本人は冒険者稼業を止めるに止められず最後に悲惨な運命を迎えることになる。悪いのはマスコミ、メディアの連中だが、彼らは次のスターを探し出して祭り上げるだけで責任を感じることもなければ反省もしないのだろう。
俺には関係ないがな。
あと、ニュースで気になったのは、日本だけに出現した謎の存在、ダンジョンに各国が調査隊を派遣したいと日本政府に打診しているそうだ。それに対して日本政府は現在自衛隊による初期調査の段階で調査隊の安全は保障できないという理由で断っているという。
あまり強く断っていると外交的にしっぺ返しがくるだろうが、今のところダンジョンに外国の調査団を受け入れたい外務省に対し、防衛省、経済産業省が強く反対しているらしい。
スマホを見ながら気付けば俺は昭和通りの手前まで歩いてきていた。ホームセンターに寄って日曜大工用の工具類を物色してもいいが、どうみても俺に日曜大工は無理そうだし、他に買うものは今のところ思いつかない。
いささか埃っぽいが娑婆の空気も十分吸ったし、そろそろ屋敷に帰るとするか。
俺は周囲を見回して、俺に注意を向けている者がいないことをざっと確認して屋敷に転移した。
屋敷に帰った俺は、華ちゃんを捉まえて、俺たちが晴れて一般人になったことと、明日防衛省にいくことを告げた。
「岩永さん、よかったですね。
でも、防衛省がわたしたちに何の用があるんでしょう?」
「俺の予想だと、かなり俺たちのために尽力してくれたみたいだから、華ちゃんの魔法のことを根掘り葉掘り聞いてくると思うぞ」
「そうかもしれませんね。簡単に攻撃魔術が使えるようになれば、自衛隊の戦力アップですものね」
「華ちゃんくらいの威力のある攻撃魔法が使えるのなら別だが、ただの攻撃魔法じゃそれほど戦力アップにはならないんじゃないか? それより、華ちゃんのヒールが強烈だったと思うぞ。目の前で大ケガがみるみるうちに回復したんだもの」
「そっちでしたか」
「だろう。
それで、相手は防衛省の中の情報本部D関連室とか言う部署だ。G対策本部とかはよく映画に出てきてたが、Dって何だろうな?」
「ダンジョンのつづりは知りませんがきっとダンジョンのDじゃ?」
「確かに。俺と華ちゃんが呼ばれてるんだものな。
そう言えば、ダンジョンは日本だけにしか現れてなくて、各国が調査隊を送りたいと言ってるらしいけど、調査隊の安全を保障できないということで政府はみんな断っているらしい。
資源の宝庫の可能性があるし、どんなお宝が眠っているかもわからない以上、他国に唾を付けられてとやかく言われたくないというのも当たり前の考え方だ。
あと、民間で冒険者ギルドを名乗った団体がいくつもできていて、民間へのダンジョン開放を訴えているそうだ。そういった団体のうちいくつかは外国から資金が出ているかもな。
そういったところを考えると、D関連室は海外の絡みもあるだろうし、そのうち大きくなってD関連室からD関連局なんかに格上げされるんじゃないか」
「そうですね」
そして、翌日。
俺は華ちゃんを伴って、防衛省のある市ヶ谷までいくため、日本に転移した。直接市ヶ谷まで跳んでいければ面倒はないが、さすがに市ヶ谷など近くにいった記憶さえないので、転移で跳んではいけない。
それで、跳んでいったのは、新宿駅の南口。市ヶ谷に一番近いと思われる場所で何とか思い出せたのが新宿駅の南口だった。
そこからタクシーで市ヶ谷までいこうと思ったのだが、タクシー乗り場が向かいのビルの中だった。タクシーの看板が大きく出てたから気づけたが、そうでなけりゃ迷子になるところだった。横断歩道を渡って、ビルに入りエスカレーターに乗って看板の出ていた3階に。エスカレーターを降りてすぐそこがタクシー乗り場だった。3階と言っても入り口が2階なので実質2階だった。分かりづらい。
タクシー乗り場では誰も並んでいなかったので、そのまま先頭の客待ち中のタクシーに二人で乗り込んだ。
「どちらまで?」
「市ヶ谷の防衛省の正門までお願いします」
「はい」
タクシーはすぐに発車して、ランプウェイを下り、右折して俺たちが横断歩道を渡った大きな通りに出た。
タクシーの運転手は、女子高生風で実際女子高生の華ちゃんとおっさんの組み合わせを察したのか、何も言わず車を走らせた。勝手に少しだけ居心地の悪い思いをしてタクシーに乗っていたのだが、よーく考えたら、まだ午前9時半だし、行き先が行き先なので、運転手が俺たちのことを妙に勘ぐったわけでもなかったのだろう。




