第88話 賢者。雨と雷
昼食前に華ちゃんを連れて南の原野に跳んだ。華ちゃんに爆発を身近に感じさせてファイヤーボールの速度と威力を増すためだ。
前回、ゴブリンを斃そうとニトログリセリン入りの瓶を上から落っことしたものの、運悪く葉っぱの上に落としてしまい、うまく爆発しなかったので、今回は硬そうな地面が露出した場所の10メートルくらい上からニトログリセリン入りの瓶を落としてやればさすがに爆発するだろう。
俺は、ニトログリセリン入りの瓶を落っことす予定の地面を指さしながら華ちゃんに、
「華ちゃん、ここから50メートルくらい先の地面にニトログリセリン入りの瓶をおとすから。
小石なんかが飛んでくるかもしれないから、しゃがんで様子を見ていよう」
「はい」
華ちゃんはその場にしゃがみ、俺もしゃがんで、
「いくぞ。5、4、3、2、1、ゼロ!」
だいたいだが、50メートルほど先、高さ10メートルの位置に小粒のようなニトログリセリン入りの瓶が現れ、ゆっくり地面に向かって落っこちていった。思った以上にゆっくりだ。それでもちゃんと地面にぶつかり、その瞬間、
ドーーン! と瓶は音を立てて爆発し、砂塵を巻き上げ周囲に小石をまき散らした。青白い煙が上がったが意外に煙の量は少なかった。これだと爆発っぽくなかったか?
それでも華ちゃんは、
「何となくイメージできたかも。
やってみます。ファイヤーボール!」
華ちゃんが突き出した右手から、橙色でソフトボールくらいの火の玉がさっき爆発のあった場所目がけて飛んでいった。火の玉の速度はそれほどでもなかった。
火の玉は30メートルほど飛んだところで、
ドーーン! と、轟音と共に爆発した。実際どの程度の威力があったのかはわからないがゴブリンを吹き飛ばした時よりも威力が増したような気がする。
「だいぶ良くなったんじゃないか? こういう言い方は華ちゃんに失礼かもしれないが、華ちゃんの職業の賢者ってのが大きく影響しているのかもな。俺の職業の錬金術師の場合、錬金術の能力だか効果が1.5倍されるみたいだから、賢者となるともっとすごそうだし」
「そう言われればそうかもしれませんね。魔術師レベルの関係かもしれませんが勇者の山田さんのファイヤーアローはそれほど威力がありそうじゃなかったですから。
さっきのは、今までのファイヤーボールと同じ感じで撃ったものだったので、こんどはボールの速さを増して威力も高めてみますね」
なんだ。さっきのファイヤーボールはこの前と同じものだったのか。俺の予想以上に華ちゃんの賢者という職業はスペックが高いようだ。それに引き換え、前回よりも威力が増したと感じた俺の目は節穴だったようだ。
再度華ちゃんが右手を突き出して、
「ファイヤーボール!」
ゴー! という音と共にドッジボール大の白い火の玉?がものすごい勢いで100メートルほど飛んでいき、茂みの真ん中に立っていた灌木に命中して大爆発した。灌木は周囲の茂みと一緒に吹き飛び、地面の土砂まで巻き上がった。
「華ちゃん、今のは凄かったというより、凄すぎて、ダンジョンの中みたいな狭いところじゃ使えないぞ」
「今のは試しただけですから。
ダンジョンの中では、今まで通りファイヤーアローでいきます」
「その方が無難だな。
華ちゃんが強力ファイヤーボールを使えるようになったし、雲行きも怪しくなってきたからそろそろ帰ろうか。帰ればちょうど昼メシだろう」
「はい」
華ちゃんが俺の手を取ったところで、俺は屋敷の居間に転移した。
居間に転移した後、風呂場の隣りの洗面所にいき、置いてあった大き目の桶から柄杓で水を汲み手を洗って食堂に向かった。
食堂に入ると、華ちゃんのほかはみんな揃っていた。
「ちょっと暗いから、明かりを点けるな」
外が曇って暗くなってきたせいか、食堂の中も暗かったので、スタンドを点けてから自分の席に着いたら、華ちゃんもやってきて席に着いた。
「「いただきます」」
……。
「何だか、天気が悪くなりそうだな」
「洗濯物は取り込んでいますから大丈夫です」と、リサ。
そう言えば洗濯機があれば便利なんだが、今どきの洗濯機は全自動だ。電気は何とかなるが、水はどうにもならない。みんなの衣服を新しい状態で俺がコピーしてレシピを記憶しておき、汚れたらそれを収納して素材ボックスに入れて、コピーを作ればいつでも新品を着ることができるのだが、ここにいるのは12歳から14歳までの少女と、女子高生それに20歳のリサだ。おっさんに汚れ物を渡したくはないよな。俺もそんなのを渡されたら困るし。
食事も終わり、みんなにアイスクリームを配ろうとしていたら、雨音が聞こえてきた。遠くの方からゴロゴロという雷の音も聞こえてきた。
「とうとう降ってきたな」
「外はかなり暗いから、このまま大雨になりそうですね」と、華ちゃん。
リサが立ち上がって、食堂の外窓を閉めた。食堂の中はスタンドを点けているので暗くはないが、外窓はタダの板窓なので、明かりが何もなければ真っ暗になる。
「屋敷の中の外窓を閉めてきます」と言って、リサは食堂を出ていった。
子どもたちも、
「リサ姉さんを手伝ってきまーす」「「いってきまーす」」と言って食堂を出ていった。
そしたら、華ちゃんも「わたしも見てきます」と言って食堂を出ていった。
窓について言えば、屋敷の窓は外側が板窓で内側に鎧窓が付いている。板窓は両開きで通常開けっ放しでよほどのことがなければ閉めることはない。内側の鎧窓は上下することで開閉する。よそ様の屋敷にいったことはないのでこれがこの世界で一般的な窓なのかはわからない。ちなみに俺が以前泊っていた宿屋の窓は両開きの鎧窓だけだった。
5分ほどでみんな戻ってきたので、
「ご苦労さん」
そう言って各人の要望を聞きながらコーン付きのアイスをみんなに配った。
子どもたちはアイスを舐めなめ、
「雷が鳴りそうでいやだなー」
「わたしも雷きらい」
「雷が好きな人ってたぶんいないよ」
などと話していたら、ゴロゴロと雷の鳴る音がした。さっきよりも近づいている。
「雷こっちにこなければいいね。緑のお茶のアイスが今までで一番!」
「エヴァ、そんなこと言ってると、こっちにくるんだよ。このアイスの中に入ってる干しブドウの味が好き」
「雷、いやだなー。木の実の入ったアイスおいしい」
ピカッ! ドーン! 外窓と鎧窓の隙間から光が漏れ、時間差なしで雷が鳴った。今度の雷はかなり近かったが、まだまだセーフだ。
「ね、近づいてきたでしょ? こういう時は、反対のことを言えばいいんだよ。だから、雷こっちにこないかなー」と、オリヴィア。
オリヴィアが「こないかなー」と言い終わった瞬間、窓の隙間から真っ白な光が漏れ、同時にバリバリドッガーーンとものすごい音がした。スタンドの明かりも消え、食堂の中が暗くなった。
「「キャーー!」」
子どもたちが驚いて、文字通り黄色い悲鳴を上げた。俺も今の雷にはかなり驚いた。
あっ! 今の雷がどこに落ちたのかはわからないが、電気が切れたところを見ると発電機を置いている物置に落ちてる可能性がある。2つのタンクを合わせて100リットル近いガソリンが物置の中に入ってるはずだ。これはマズいかも?
俺は急いで玄関に回って扉を開けた。




