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岩永善次郎、異世界と現代日本を行き来する  作者: 山口遊子


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第85話 冒険者ギルドバレンダンジョン支部


 ダンジョンの揺らぎの先を進んでいたら自衛隊と出会ってしまい、その聴取を受けた翌日。


 俺はリサに聞いた冒険者ギルド、バレンダンジョン支部にいってみることにした。華ちゃんはお留守番だ。子どもたちの手が空いたらアニメでも見せてやってくれと言っておいたので、何か適当なアニメを子どもたちに見せてやるだろう。


 それと、だいぶ気温が上がってきたので、居間の中が暑くなるようなら冷房を点けるよう言っておいた。ここニューワールドは日本より明らかに湿度は低いようなので、過ごしやすいのは確かだが、無理する必要は何もないからな。



 俺は大通りの中で記憶にある一番北の位置に転移した。そこから北に向かって歩いていき、街の北門を抜けて10分ほど、荷馬車や通行人が行き交う街道を歩いていくと畑に囲まれた小さな町が見えていた。通行人に道を聞いてここまできたわけではないが、さすがに目の前の町のどこかにダンジョンの出入り口があるのだろう。おそらくここから見える町の中でひときわ大きな建物が冒険者ギルドだ。



 街道を折れて町の中に入っていき、目立つ大きな建物に向かった。


 町の中の建物は、雑貨屋、武器、防具屋、飲み屋、食堂、薬屋などでただの民家と思われる建物は見当たらなかった。大通りを一歩奥に入ったところには宿屋のようなそうでないようなそれなりに大きな建物が建っていた。その建物は宿屋にすればどう見ても安普請なので、おそらく冒険者用の宿舎か何かだと思う。


 冒険者ギルドの支部らしき建物の裏側、手前にはかなり広いヤードがあり、そこに馬車が出入りして荷物を下ろしたり積み込んだりしていた。そのヤードからは何やら異臭が漂ってきたので、モンスターの解体をヤードのどこかで行っているのだと俺の経験・・が告げている。


 俺は建物の表に回って、開け放たれていた両開きの扉の中へ入っていった。


 勝手を知らないところなので、とりあえず、目の前のカウンターに進み、カウンターの後ろに座るギルド嬢に来意を告げた。彼女は美形ではあるが、街なかにあった冒険者ギルドの受付嬢よりも10歳は年上のように見える。言い換えればベテランらしく見えた。受付のカウンターもあちらに比べて短いし、受付嬢の数も少ないのでベテランが配置されているのだろう。と、好意的に解釈しておこう。


「ケイブ・ウルフとかいうモンスターを仕留めたので、買い取ってもらいたいんですが?」


「冒険者の方ですよね?」


「はい」


 冒険者のくせして変な質問するな! と、ギルド嬢の目がそう言っている。しかたないじゃん、今まで冒険してても冒険者してなかったんだもん!


「冒険者証をお見せください」


 俺は、Fランクの冒険者証をアイテムボックスから取り出してカウンター越しにギルド嬢に差し出した。


「Fランク?」


「それが?」


「ケイブ・ウルフ1匹(・・)の推奨ランクはCランク以上のパーティーです。

 えーと、ゼンジロウさんはパーティーの代表でここに?」


「代表と言えば代表かな。いちおう二人でいつも一緒ですから」


「もう一人の方はAランクとか?」


「そう言えば連れは冒険者じゃないはずだから、ランクとかないと思います」


「それで、ケイブ・ウルフを」


「今回ケイブ・ウルフを斃したのは連れだったんですけどね」


「よくは分かりませんが、分かりました。

 裏の解体所にいってケイブ・ウルフを卸してください。そこで伝票がでますからそれを持って、一度ここにお戻りください。ケイブ・ウルフを斃したことが確認できれば、ゼンジロウさんのランクは最低でもCランクに上がります。あくまで確認できればですが。

 その後、このカウンターの左端にある支払い窓口にその伝票を提出すれば代金が支払われます」



 ケイブ・ウルフってそんなに大層なモンスターだったのか。華ちゃんの新魔法の実験台になってあの世に旅立った上に、俺の冒険者ランクアップの糧になるわけだ。いいヤツらだった。南無阿弥陀仏。これでよーし。さっそくヤードに回って解体所にいこう。


 いったんギルドの建物から出て裏のヤードにあったそれらしい(においのきつい)建屋に回った。


 建屋から大きく張り出した庇の下に机が3つ置いてあり、それぞれの机の左手は大き目の台になっていてその台の上に冒険者がリュックから出した荷物を並べて、その荷物をバインダーを持ったおっさんが確認していた。



 最前列で荷物の確認を受けている冒険者の後ろには、5、6人リュックを背負った冒険者が並んでいた。その列が途切れることなく後から後から新たな冒険者風の連中が列に並んでいく。見てても仕方ないので、俺も最後尾に並んだ。俺の後ろにもすぐに人が並ぶ。ここは、ずいぶん活況のようだ。南のダンジョンではあまりモンスターに出くわさなかったが、ここと何が違うんだろう?


 15分ほどで俺の順番になり、窓口のおっさんに、


「ケイブ・ウルフを3匹持ってきたんだけど」と、軽い調子でたずねたところ、


「そっちから見て左の台の上に出してくれ。

 いや待て、3匹って、3匹分ってことだよな」


「3匹分と言えば3匹分だけど、3匹は3匹」


「うん? あの大きさのものをまるまる運んできたのか?」


「そうだけど」


「どこにも、見えないじゃないか」


「まあいいや。そこに下ろすよ」


 そう言って、俺はおっさんが言った台ではとても3匹は置けなかったので、手前のタタキの上に3匹のケイブ・ウルフを置いてやった。


「やややや! アイテムボックスを持ってるのか。それもケイブ・ウルフが3匹も入る」


「そういうことだから」


「見ない顔だが大したものだな」


「ここは初めてなんだ」


「だろうな」


 おっさんはタタキの上のケイブ・ウルフの検分を始めた。おっさんの代わりに別のおっさんが窓口に入り俺の次の冒険者の対応を始めた。


「こいつら、3匹とも無傷じゃないか!?」


「電撃で斃したから」


「電撃?」


「ライトニングって魔法」


「ライトニングって言えば高位の魔術じゃないか。おまえさん、とんでもない魔術師だったんだな」


「これを斃したのは俺じゃなくて連れだけどな」


「ふーん。どっちでもいいか。

 毛皮は頭の部分がわずかに焦げているだけであとはどこも傷んでない。この3匹は目いっぱいの値段で引き取ろう。これからもどんどんここに卸してくれよ」


 おっさんはバインダーに挟んだ厚手の紙に何やら書きつけてその紙を俺に渡した。


「これを支払い窓口に持っていけば代金が出る」


「ありがとさん」


 俺は伝票を持って、ギルドのカウンターに戻り、最初のギルド嬢に伝票を渡した。


「ケイブ・ウルフを3匹。3匹とも最高査定ですか。

 これなら文句なくBランクです。

 先ほどのギルド証をお願いします」


 ギルド証を渡したら、


「新しいギルド証ができるまで少し時間がかかりますから、先に支払い窓口で代金をお受け取り下さい」


 俺は言われた通りカウンターの左端の窓口にいき、伝票を差し出した。


「ケイブ・ウルフで最高査定ですか。珍しい。

 ケイブ・ウルフの標準買取金額は金貨10枚。それに最高査定ということで、2倍の支払いになります。

 合計で金貨60枚になります。

 少々お待ちください」


 金貨10枚の山が6個積み上がったトレイが差し出された。金貨の脇には布製の小袋が添えてあった。


「あんがとさん」


 俺は金貨をトレイから小袋に移してアイテムボックスに収納し、窓口を後にした。


 後ろの方から『アイテムボックス持ち』とか言う声が聞こえてきた。


 そう言えば、自衛隊の前では転移してみたが、アイテムボックスは見せなかったな。このまま秘密にしとけば何かいいこと有るかもしれない。んなこたないか?


 そのあと、最初のギルド嬢のところに回り、しばらく待って新しいギルド証を受け取った。


「ゼンジロウさん、Bランクに昇格おめでとうございます」


 手渡されたギルド証は銀色だった。


「ご存知のことと思いますが、Bランク以上の冒険者に対してギルドから指名依頼が出されることがありますので、こちら、ないしバレン市内の冒険者ギルドにこられましたら掲示板をご確認ください」


 指名依頼が掲示板に貼ってあるということは、掲示板に何か貼ってあっても気づかなければどうしようもないので、別に知らんふりをしてもお咎めなしということだろう。お咎めがあったところでどうってことはないが、いちおう社会人を自認している以上、非社会的な態度を積極的に取りたいわけではないので、思い出したら掲示板を見てやろう。あくまで思い出したらな。



 冒険者ギルドを出た俺は、ここまできた以上ダンジョンの中をちょっとだけ覗いてやろうと思い、人の流れに乗っかってラシイ方向に歩いていった。向かい側からはリュックを背負った連中や、疲れ切った顔をした連中が、こちら、ギルド方向に向かって歩いていた。


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