第84話 聴取その後
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第2ピラミッド=ダンジョン内で見つかった岩永善次郎と三千院華と名乗る男女に対する第1師団第32普通科連隊第1普通科中隊中隊長の山本一尉による聴取のありさまは逐一録画されており、山本一尉の上司の手を経て市ヶ谷の防衛省情報本部分析部に送られた。また、その時発見されたスキルブックは理化学研究所に送られ分析されることになった。
当初防衛省内では異世界を知り魔法を使え、しかもダンジョンに詳しいと思われる人物たちを簡単な尋問だけで解放してしまったことに批判が出たが、自在にテレポートできる人物を拘束するなど不可能であり、その人物と良好な関係とまではいえないがそれなりの関係を築くことができたことを評価する声に押し流された。
この時点においてアルバイト、現在無職の岩永善次郎27歳と拉致により現在休学中の女子高生三千院華は防衛省において最重要人物となり、その能力は防衛省での最高機密のひとつとなった。
なお、防衛省内での善次郎の呼称は名前の頭文字「Z」、華の呼称は名まえではなく名字の頭文字の「S」となっている。女子の呼称が「H」ではまずいとの政治判断が働いたようだ。
防衛省内では、ダンジョン関連の部署の設置が検討されていたこともあり、善次郎と華関連も含め新部署の設置が加速していくことになる。
そういった動きの中で防衛省では、内密に警察庁と折衝し、警察による岩永善次郎と3人の失踪女子高生に関する捜査および捜索は打ち切られることになった。
女子高生失踪事件とは別に、金の地金取引について業者からの国税庁への報告で、それほど大量ではないが金を頻繁に売却する個人として岩永善次郎の名まえが挙がっており、国税庁からの報告を受けた警察庁では警視庁を使い調査を進めていた。これについても事件性はないということで捜査を打ち切り国税庁に回答している。
一方、自衛隊の山本一尉は、善次郎に対する捜査と3人の女子高生の失踪に関する捜索が終了したことを善次郎に知らせるため、警察庁から取得した善次郎の電話番号とアドレスに対して連絡を行っている。
また、全国32カ所のピラミッド=ダンジョンのうち、数カ所のダンジョンでは第2層への階段が発見されている。第2層へはまずドローンが送られたが、飛行型のモンスターによっていずれも破壊されたため、自衛隊員による調査は行われていない。
国内ではすでにピラミッド関連の全ての避難命令、避難指示は解除されており、一部の者から政府に対しダンジョンの民間開放を求める声が上がり始めていた。さらに民間では冒険者ギルドなるものが主要都市を中心に作られていった。もちろん名ばかりの冒険者ギルドだが、国民のダンジョンに対する目は徐々に変わってきている。
さらにダンジョン内で自然金、自然プラチナなどが発見された上、採取されたダンジョン内の岩石試料には試料ごとにかなりのばらつきがあったもののレアメタル、レアアースが含有されていることが判明した。
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一時はどうなることかと思ったが、先方が話の分かる人物でよかったということにしておこう。先方には上司もいれば、その上には政治というものも控えている以上楽観はできないが、それでも俺が日本で大手を振って歩ける目がでてきたことはありがたい。
屋敷に帰って普段着に着替え、居間で音楽を聞いていたら、同じように着替え終わった華ちゃんが居間にやってきた。
「岩永さん、今日は驚きましたね」
「そうだな」
「結果的には何事もなくて良かったですが、
岩永さん、わたしたちのことで警察にマークされてることをどうして黙ってたんですか?」
「ああ、それはな、俺では今さらどうしようもないことだし、それを知ったら華ちゃんだってここに居づらくなるというか、あまりいい気持ちはしないだろ? そういうことだ」
「岩永さん、ほんとにすみませんでした」。そう言って華ちゃんが頭を下げた。
「悪いのは俺たちを拉致した連中なんだから華ちゃんが謝る必要はない」
「岩永さん、見た目通りやさしいんですね」
ここは、見た目によらずでもよかったんだがな。照れるじゃないか。
そんな話をしていたら、リサがお茶を持ってきてくれた。
「ありがとさん」「リサさん、ありがとう」
「どういたしまして」
「そう言えば、リサに聞こうと思ってたことがあったんだった」
「はい、なんでしょう?」
「今日ケーブ・ウルフっていうモンスターを3匹ほど華ちゃんが仕留めたんだが、モンスターの肉って食べられるのかい?」
「もちろんです。ケーブ・ウルフはあまり出回りませんが、高級食材です。
牛や豚といった普通の肉はすぐ傷みますが、ダンジョン産のそういった肉は1カ月程度なら傷むことはありません。ステーキなどにしたとき、硬いものもありますが、それは調理法次第で何とでもなります」
「なるほど。
となると、今俺のアイテムボックスの中に入っているケーブ・ウルフも売ればそれなりの値段で売れるんだ」
「もちろんです。
ご主人さまがもし冒険者なら、街の北にあるバレンダンジョンの入り口近くに冒険者ギルドの支部がありますから、そこに持っていけば買い取ってくれますし、冒険者としてのギルドへの貢献度も上がると思います」
「この街の北にもダンジョンがあったんだ。これはいいことを聞いた。
明日はさっそくその支部とやらにいってみるとしよう」
「バレンダンジョンは、この屋敷の裏の大通りをまっすぐ北に進んで、街を出てから20分ほどのところにありますから道に迷うことはないと思います」
「ありがとう、リサ」
お茶を飲んでしばらくして、俺は風呂の準備をしてさっさと風呂に入った。
俺の後、すぐに子どもたちが風呂に入り、夕食が始まった。
食事が終わり、華ちゃんとリサが風呂から出たところで、アイスクリームをみんなに配った。
最近音楽ばかりでアニメを見ていなかったので、寝る前のひと時、みんなでアニメを見ることにした。今日の出し物は『ピ〇グー』だ。俺も良く知らなかったのだが、華ちゃんに言わせるとクレイアニメの傑作らしい。しかも登場人物の言葉が誰にもわからないピン〇ー語なんだそうだ。これなら、同時通訳は必要ないから俺も黙ってアニメを見ることができる。
50分ほどでアニメは終わり、子どもたちはニコニコしながら居間からでていった。歯を磨いてから2階に上がってくはずだ。
華ちゃんが言ってた通り、ペンギンたちの言葉は全く分からなかったが、動きだけで何となく気持ちが伝わってきた。そういう意味でも名作だったのだろう。




