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岩永善次郎、異世界と現代日本を行き来する  作者: 山口遊子


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第80話 揺らぎの先


 真・第2層で初めてスライムに遭遇したものの、ピョンちゃんが見つけて、華ちゃんのマジックアローで簡単に撃退してしまった。


 俺の出番は、死んで溶けかけていたスライムの死骸をアイテムボックスに収納しただけだ。


 生きているものを見つけるデテクトライフだかをかけておけば、視認しにくく音も立てないモンスターも簡単に見つけることができるはずだ。華ちゃんもおそらくそれに気づいているのだろうが、前回同様俺たちまで緑の点滅が始まってしまうので、デテクトライフは使っていない。もちろん俺も黙っている。


 お互い、大人の対応だ。リスク軽減という意味では使った方がいいのだろうが、二人しての緑の同期点滅は精神的負担が大きいからな。


 俺たちはそういった暗黙の了解のもと、さらに本道を進んでいった。


 スライムを斃して50メートルほど進んだところで、また枝道が、今度は前回の反対側に現れた。


「枝道の先にも枝道はあるだろうから、真面目にこの階層を探索するとなるとかなり大変そうだな」


「そうですね。

 だけど、こんなに広くて、しかも階層もどこまであるか分からないダンジョンの最深部なんかにたどり着けるんでしょうか?」


「真面目に探索していたら何年もかかりそうだよな」


「ですよね」


「あの二人のライフワークになりそうだな」


「フフッ。笑わせないでください」


 笑うような話ではないが、あの二人がダンジョン探索で年を取っていくことを華ちゃんが喜んだところを見ると、華ちゃんはなにげに根に持つタイプだったようだ。


 不仲が高じた場合、その気になればお互い文字通り必殺技を持っているわけだから殺し合いも起こり得る。そう考えれば具体的ないじめなどなかったのだろうが、華ちゃんはあの二人に精神的にいじめられていたんだろうな。


 たまたまうちでクラシック音楽をかけていたとき、華ちゃんがうちの近くを通りかかって逃げ出す決心をしたのだから不思議なものだ。


 と、いらぬことを考えて注意がおろそかになってはいけないので、俺は再度、片手で頬を叩いて気合を入れた。



 それから何度か枝道を横に見て洞窟ダンジョンの本道を3キロほど進んだところ、正面に岩の壁が見えてきた。


「いき止まりだ」


 ピヨン、ピヨン。ピヨン、ピヨン。……。


 それまでおとなしかったピョンちゃんが鳴き始めた。俺は後ろを振り向いたが、何も気配は感じなかった。


 ならば、前か!


 前方7、80メートル先はいき止まりで、もちろん何の気配も感じない。


「ディテクトアノマリー!」


 後ろで華ちゃんの声がしたと思ったら、いき止まりの岩の壁が赤く点滅を始めた。


 

 赤い点滅に二人して近寄ってみると、赤い点滅は岩壁ではなく、その手前の宙で揺らいでいた。


「揺らぎだ! 今は赤く点滅しているが、ダンジョンの入り口にあった揺らぎとそっくりじゃないか?」


「そう言われれば」


「俺のラノベとゲーム知識(けいけん)から言って、この先はどこか遠くにつながっていると思う。どこか遠くのダンジョンか、このダンジョンの最深部か」


「どうします?」


「俺だけで揺らぎの中に入って様子を見てくる。俺には転移があるから、マズそうならすぐここに転移で戻ってくる」


「ちょっと待ってください。この揺らぎが罠だととんでもないところにつながっているかもしれませんから。アイデンティファイトラップ。

 罠じゃないようです」


「華ちゃんありがとう。もしも罠だったら石の中に嵌ってたかも知れなかった」


 俺は首をかしげる華ちゃんを置いて、揺らぎの中に入っていった。



 揺らぎを抜けた先は、これまで同様の洞窟ダンジョンで、洞窟がその先に続いていた。今まで華ちゃんのライトの光に慣れていた関係で洞窟自体の発光ではかなり暗く感じる。


 最初ダンジョンの石室に入った時同様後ろには例の黒い鏡のような空間があるのだろうと思い振り返って見たら、岩壁があるだけで、そこには何もなかった。試しに岩壁に向かって数歩歩いたが壁にぶつかっただけで戻れなかった。


「一方通行だったのか。

 俺じゃなければ、大変なことになってた」


「転移!」



 華ちゃんを心配させるわけにはいかないので、俺はすぐに華ちゃんの待つ洞窟ダンジョンに転移で戻った。


「華ちゃん、向こうはここと同じような洞窟だった。

 それで、こっちからいけたけど、向こうにでたら後ろに何もなくって、一方通行だった」


「どこにつながっていたんでしょう?」


「向こうに出た先では、洞窟がまっすぐずーと続いていたことしか分からなかった」


「今度は一緒にいきましょう」


「そうだな」


 もう一度俺は揺らぎに入って、華ちゃんも俺の後に続いた。ピョンちゃんはもちろん華ちゃんの肩の上だ。


「ディテクトアノマリー!」


 新たな洞窟には何も異常はなかった。


「ここの洞窟もかなり長そうですね」


「ここがどこだか知りたいよな。いずれにせよダンジョンの中だろうけど、違うダンジョンかもしれないしな」


 俺の視界の隅を意識してマップと唱えたが、現在位置から見て、先ほどまで俺たちがいたダンジョンは少なくともマップ外のようだ。


「この先に上り階段があるんでしょうか?」


「それは分からないが、さすがに何かあるだろう。

 こうやって空気もあるわけだし」


「そう言えばダンジョンの中って、ある意味過ごしやすいですよね。適温だしカラっとしてるからほとんど汗もかかないし」


「ダンジョンは、人に入ってもらいたいため、宝箱を用意してるというから、その延長線で考えれば、ダンジョンの中の環境は人に優しいんじゃないか」


「確かに」


「ただ、俺たちが入ったダンジョンも、入り口が分かりにくかっただろ?」


「そうでしたね。

 ということは、ダンジョンが中に入って欲しい人間は素人ではなくある程度の能力がある人ってことでしょうか?」


「そうかもしれないな。真相が究明されることはないだろうが、謎は謎のままの方が面白いから、それでいいんじゃないか」


 俺たちは余裕で雑談しながら新しい洞窟ダンジョンを歩いていった。





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