第77話 スシ食いねぇ!
https://www.youtube.com/watch?v=017y6wiEByg これも懐かしい。
「10分くらいしたら夕食だから、食堂に集合だ」
居間で寛いでいたみんなを呼んだあと、俺は台所にいって醤油用の小皿を人数分収納して、今日買った湯呑をよく洗って、その後、複製ボックスに入れて人数分に増やし、食堂に戻って、テーブルの上に小皿と湯呑、それに店で付けてもらった紙製の手拭きを並べて置いた。
並んだ湯呑の中にティーバッグを一つずつ入れて、錬金工房の中で純水を作り、70度くらいに温めて、湯呑の中に注いでやった。お茶用のお湯は水を一度沸騰させてから冷ますのだろうが、錬金工房内で水を沸騰させることはできないので、どういったお茶になるのかはわからない。それでも、飲めないお茶になることはないだろう。
湯呑にお湯を注いで30秒ほど待って、ティーバッグはアイテムボックスに回収しておいた。
最後に、寿司の詰められた大型パックをテーブルの上に広げて出来上がりだ。天ぷらも用意したのだがテーブルの上の寿司の量を見たら、今回天ぷらの出番はなさそうだ。
「みんなー、準備ができたぞー!」
みんなが居間からやってきて各自の席に着いた。目の前に広がる、色とりどりの握り寿司と艶のある黒いノリの巻物に驚いていた。華ちゃんも驚いている。華ちゃんの場合は量に驚いているのだろう。
「まず、目の前の白い袋を破って中に入っている手拭きで手をよく拭く」
俺が手本で、俺の前に置いていたビニール袋を破って中から手拭きを出して手を拭いた。
みんなはすぐに俺のマネをして手を拭いた。
「よし!
いいか、これが寿司っていう食べ物だ。少し甘酸っぱくしたご飯の上にネタと言って火を通したものもあるが、生の魚や貝、それに魚の卵なんかが乗っかっているのが握り寿司。黒くて丸い筒になってるのの太いのが太巻き、細いのは中に入っているものの名まえで、黄色いのがシンコ巻、キュウリが入っているのがかっぱ巻きだ。それで周りを巻いている黒い紙のようなものはノリといって海藻を乾燥させたものだ。もちろん食べられるので、一緒に食べる。
そうそう、握り寿司のネタとご飯の間には緑色のねっとりしたものが塗ってあるが、それは、ワサビと言って、辛いし、それだけ舐めたりすると鼻にツーンと来る。一緒に食べれば何ともないが、どうしてもだめなら、ネタをめくって、ワサビをとってもいい。その時は自分の箸を台所から持ってきて使うこと。
それじゃあ、いただきます!」
「「いただきます!」」
「おっと、もう一つ忘れてた。
みんなの前に置いた小皿には醤油を入れる。
その醤油に握り寿司のネタをちょっとだけつけて食べる」
俺は目の前の小皿に、テーブルの上に置いてあった醤油さしから醤油を垂らし、パックの中から手でイカの握りを一つ取り出し、一度ネタをとって中のワサビをみんなに見せてやった。
「これがワサビだな」
子どもたちとリサが頷いている。
みんなが確認したところで、ネタをくっつけて、ひっくり返して軽くネタの先っちょを醤油につけてパクリと一口で食べてやった。
「うんまい! 握り寿司と巻物は手で食べていいんだからな」
そのあと、湯呑のお茶を一口飲んでみたところ、ちゃんとした緑茶だった。
今度は赤身のマグロだ。同じように醤油をちょっとつけてパクリ。
「うまいっ!
みんなの前に置いているコップの中に緑のお湯が入っているが緑茶というお茶だ。中から糸が出てるか先っちょを持って少し引き上げると先に緑茶の葉っぱの入った袋が付いているから、お茶の成分がお湯の中に染み出るよう、それを何回か揺らして、それから引き上げる」
置くところがなかったので、適当な皿を錬金工房の中で作ってテーブルの上に置いて、
「引き上げたお茶ッ葉の袋はこの皿の上に置いておけ」
俺は自分の湯呑の中のティーバッグを何回か揺らしてから、さっき作ったお皿の上に乗っけておいた。
俺が最初に食べたのを見てみんなも寿司に手を伸ばし始めた。華ちゃん以外は最初俺がやったようにネタをめくってワサビを確認し、鼻を寄せてニオイを嗅いで咽ていた。
ワサビのニオイを嗅ぐだけで鼻にツーンと来ることを教え忘れた俺の落ち度だった。
3人ほど席を立って台所にいって箸を持って帰ってきた。
「慣れれば、ワサビがないと物足りなくなるんだがな」
残りの3人、華ちゃん、リサ、イオナはそれぞれ、イクラの軍艦、エビ、ヒラメを食べたようだ。
「おいしい」と、華ちゃん。
「アイテムボックスの中に入れていたから握りたてだしな。まだシャリが温かいだろ?」
「そうですね。まさか、異世界でお寿司が食べられるなんて。
わたし、幸せ」
そう思ってくれれば、わざわざ寿司を買いにいった俺とすれば本望だ。
「ご主人さま、生のお魚ってこんなにおいしいものだったんですね」
「いまリサの食べたのは熱の入ったエビだから生じゃなかったんだがな。生のエビは、そっちのちょっと透き通ったのがそうだ。
いずれにせよ海の幸だ。食べ過ぎ以外で腹を痛めることはないから安心しろ。もし何かあってもすぐにポーションで治してやるからな」
「わたしが食べたのは何だったんですか?」と、イオナ。
「イオナが食べたのはヒラメって魚だ。平べったいサカナとしか言えないが、そのうち魚の図鑑でも買ってきてやるよ」
「ずかんというのは、絵が描いてあって、説明が書かれた本のことですか?」
「その通りだ、イオナは賢いな」
「……」。イオナは何も言わなかったがすごくうれしそうな顔をしていた。
箸を持って戻ってきた3人もワサビをいくらか減らして握りを食べ始めた。
黒髪のおかっぱ頭のエヴァが手にしているのはハマチ、金髪をまっすぐ伸ばしたオリヴィアはマグロの赤身、茶髪ツインテールのキリアはトリガイを手にしている。
ちゃんとネタの先だけに醤油をつけて、口に運んだ。
「おいしい。なにこれ」と、エヴァ。
「納得のおいしさです」と、オリヴィア。
「おいしい。さすがはご主人さま」と、キリア。
いつも通りの3人で何よりだ。
「エヴァの食べたのがハマチ。オリヴィアの食べたのがマグロの赤身、キリアの食べたのは魚じゃなくって貝の一種のトリガイだ。
あと、そこの太い巻物にはワサビが入っていないからな」
「「はい」」
「でも、お魚と甘酸い味の付いたご飯と一緒に食べたらおいしかったから、もうワサビをとらなくても大丈夫です」と、エヴァが言うと、オリヴィアとキリアも頷いていた。こうやって一歩一歩大人になっていくんだなー、と感慨にふけることもなく、俺は次に赤身をとって口に運んだ。やっぱマグロは赤身だよ。
「うんまーーい!」




