第76話 えらいこっちゃ!
俺は日本用の普段着に着替え、寿司を買うため、俺のアパートから線路を挟んだ駅の向こう側の駅前の歩道に転移した。寿司屋はそこから、50メートルも離れていない。
俺が駅前に現れた時、人通りがなかったわけではないが、俺に注意を向ける者はいなかった。
何を考えるでもなく、寿司屋に向かって歩道を歩いていたら、前の方から警官が2人連れだって歩いてきた。
二人の警官とすれ違い、数歩歩いたところで、その警官に呼び止められた。
「ちょっと待っていただけますか?」
「俺のこと?」
「はい。少しお話をうかがいたいんですが?」
何のことで警官が俺を呼び止めたのかわらないが、警官とケンカする気はないので、
「なんですか?」
「女子高生同時失踪事件をご存じですか?」
あっ! あの件か。知らぬ存ぜぬを通すしかないが、マズいな。俺って顔に出るタイプだし。
「いちおう、知っています」
「3人の女子高生がほぼ同時刻に消息を絶ったのはこの駅近辺のようなんですが、何かご存じありませんか?」
「わたしは何も」
「失礼ですが、どちらにお住まいですか?」
マズい、マズいぞ。俺の住所は避難命令地域だったハズ。そうだ! 様子を見にきたことにしよう。
「○×街のXX番地の3-1です」
「あそこは現在避難命令地域ですよね」
「アパートの部屋の様子を見にきました」
「立入禁止なのに様子見ですか?」
転移で移動していたので、立ち入り禁止とは気付けなかった。ここは、ボロが出る前に転移で逃げ出したいところだが、住所を真面目に答えてしまっているので、俺の素性はその気になれば簡単に調べられる。
ピーンチ!
「立入禁止みたいだったので、諦めました」
しかし、ここまで俺にしつこく質問するってことは、俺が女子高生失踪事件に関わりがあると思っているのだろうか?
「そうですか。了解しました。
お時間を取らせて、申し訳ありません。それでは」
あれ? 意外に簡単に解放されてしまったけれど、これでいいのか?
なんとなく不思議に思ったが、解放されたことはラッキーなので、そのまま俺は寿司屋に入り、持ち帰り用に寿司を注文していった。
俺は、タコはあまり好きではないが、軟体動物が大好きなので、イカを中心に貝類を多めに注文しておいた。マグロは赤身のほうが好きなので、中トロは買ったが大トロは買わなかった。決してケチだからではない。
子どもたちはこっちで言えば小6以上なので、さび抜きにはしなかった。後からわさびを付けるより、後からわさびを箸で取るほうが簡単だからな。人数は7人なので、70貫、140個ほどの握りと、巻物で、太巻きを3本にカッパとシンコを7本ずつ買っておいた。かんぴょう巻きは買っていない。あまり好きじゃないんだ。おっと、玉子焼きを忘れていた。玉子焼きを追加して77貫、154個だ。
巻物は全部食べやすいよう切ってもらっている。
寿司屋のレジで周りに魚編の漢字をずらりと並べた湯呑を売っていたので1個買い、緑茶のティーバッグも売っていたので20個入りを1パック買っておいた。
量が量だったもので、会計を済ませてでき上るまで空いた席に座らせてもらい、出されたお茶を飲んでいたら20分程で注文した寿司ができ上った。
「はい、お待ちどおさまでした」
プラスチックで出来た4個の大型パックに文字通りすし詰めにされた寿司がビニール風呂敷に包まれて渡された。
店を出た俺は、寿司の入ったビニールの風呂敷包みをアイテムボックスに収納し、適当な小道に入って屋敷に戻ろうとしたとき、ふと後ろのほうが気になった。振り向くと男が一人俺の方を見ていたがすぐに視線をそらせ歩き去っていった。以前神殿からの追手が俺をつけてきたときと同じ感じがする。
ということは、私服警官か?
どうも俺は女子高生失踪事件の容疑者だか重要参考人になっているようだ。さっきも大量に寿司を買ったのだが、これも怪しいネタではある。相当まずい。と言っても何か積極的にできることなど今さら何もないので、しばらくはこの街に寄り付かないほうが良さそうだ。
思い起こせば、女子高生失踪と時を同じくして、アルバイトのおっさんが無断欠勤して連絡つかずの行方不明になっているんだから、相当怪しいよな。しかも事件の後、金の地金を何度も売っている。俺ってある意味詰んでるんじゃないか?
えらいこっちゃ!
向こうの世界で2つも職業が出来て俺も出世したものだと笑っていたら、日本でそれの上をいく重要参考人だ。下手すると指名手配されるかも。
どうせ、私服は先回りしてこの小路の先辺りに潜んでいるんだろう。とにかく早いとこ、ここからずらかろう。
「転移!」
屋敷の居間に現れたら、音楽CDがかかって、華ちゃんと子どもたちがソファーに座ってクラシックを聴いていた。
「お帰りなさい」「「ご主人さま、おかえりなさい!」」
「ただいま。俺のことは気にせず音楽を聞いてていいから」
俺もソファーに座ってクラシック音楽を聞いていたら少し落ち着いてきた。
華ちゃんにさっきのことを話そうかと思ったが、気兼ねをさせてもかわいそうなので、今は言わないでおくことにした。
寿司を買っただけで精神的に疲れた俺は、早めに風呂に入った。子どもたちも俺の後に直ぐ風呂に入ったので、今日は夕食の支度のないリサも夕食前に華ちゃんと一緒に風呂に入った。




