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岩永善次郎、異世界と現代日本を行き来する  作者: 山口遊子


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第70話 ピョンちゃん1、階段

誤字報告ありがとうございます。


 うまくすればスキルポイントを使わずに俺の杖術スキルが1アップするかも知れないと思い、楽園の真ん中で見つけた台座の上に、打撃武器のスキルブックを台座の上に置いてみた。


「こい、こい、こい、こい! 俺のスキル!」


 台座の上に置いた黒い板は見た感じ何も変化はなかった。試しに自分自身を人物鑑定してみたら、


名前:ゼンジロウ・イワナガ

年齢:27歳

職業:錬金術師、転移術師

スキル:錬金術:LvMax、アイテムボックス:LvMax、転移術LvMax、杖術:Lv3、人物鑑定、第2職業選択、オートマッピング


 前回と変わっていなかった。


「おかしいな」


 俺の後ろでは、華ちゃんがピョンちゃんと戯れている。


 他のスキルブックでも同じかもしれないが、もう一度だけ試してみよう。


 今度はピョンちゃんと戯れていた華ちゃんに片手武器のスキルブックを渡し、


「華ちゃん、取り込み中悪いが、このスキルブックを台座の上に置いてみてくれ」


「はい?」


 何のためにそんなことをするのか分かっていなかったようだが、華ちゃんは素直に俺の渡したスキルブックを台座の上に置いてくれた。


 やはり俺の時と同じでスキルブックには変化はなかった。それでも確認のため華ちゃんには黙って華ちゃんを人物鑑定したら、


 スキル:魔術:Lv4:錬金術:Lv1:鑑定Lv1


 スキルは増えていなかった。


 俺の読みは100パーセント、完全に外れたようだ。


 となると、あとラシイアイテムと言えば、


 それから俺は、それらしいアイテムを台座の上に置いていったのだが、ヒットするものはなかった。


『そもそも、この台座はタダのオブジェクトかもしれない。しかし、俺のゲーマー魂にビンビン響いてくる感覚はこの台座がただの台座なんかじゃないと訴えている!』


 しばらくアイテムボックスの中に意識を持っていき、再度中に入っているアイテムを確認していく。


『おっ、この大金貨は、怪しくないか? キーアイテムが32枚もあるのがちょっと不安だが、いちおう試してみよう』


 アイテムボックスから大金貨を1枚取り出した。俺は願いを込めて、慎重にその大金貨を台座の真ん中に置いた。


 カチリ


 何かがはまったような音と同時に、台座の向こう側に下へ続く階段が一瞬で現れた。


「階段が現れたぞ!」


 後ろを振り向くと、ピョンちゃんは華ちゃんのヘルメットの上に止まっていた。好きにしてくれ。



 それでもピョンちゃんと遊んでいた華ちゃんもさすがに階段に気づいたようで、


「あれ? 階段がある? いつできたのかなー?」


 俺の苦心にはまったく気づいていなかったようだ。


「階段にディテクトアノマリーをかけてみますね」


 階段を含めその周辺に赤く点滅する個所はなかった。


「今度の階段は短いかもしれませんね」


「どうする? 階段を下りていくか、それともこの階層の未探検部分を残さず探検するか?」


「やはり、地道にこの階を探検しませんか?」


「わかった。そうしよう。

 この大空洞はもういいかな?」


「これからも、何度もここに来るでしょうから、その時に少しずつ調べればいいと思います」


「それもそうか。

 それじゃあ、この階層の先にいってみよう」


 大金貨を台座の上の放っておくわけにもいかないので、アイテムボックスに仕舞ったら、カチリという音がして、階段が消えてしまった。


「あれ、こいつもトグルスイッチだったのか、それじゃあ、試しに」


 再度台座の上に大金貨を置いたら、カチリという音と共に階段が現れた。実に不思議な光景なので、4、5回繰り返してしまった。


 何となく後ろに立つ華ちゃんの視線を感じたので、最後にもう1回カチリで階段を出して、それから大金貨を仕舞った。階段は消えた状態だ。


「満足したから、それじゃあいこう」


 華ちゃんが俺の手を握ったので、俺はピョンちゃんも一緒に転移するよう意識して魔方陣の部屋に再び転移した。



「あれ? ピョンちゃん?

 ピョンちゃんが、……」


「転移する時にちゃんとピョンちゃんも意識したんだがな。ちゃんと俺が触っていないとだめなのかな?

 もう一度さっきの階段のある空き地に戻ってみよう」


「はい」



 空き地に戻ったら、最初にピョンちゃんが止まっていた灌木から『ピヨン、ピヨン』と、ピョンちゃんの鳴き声がした。


 華ちゃんが「ピョンちゃん!」と呼んだら、ピョンちゃんが羽ばたいて華ちゃんの右肩に止まった。


「もう一度、試してみよう」


 華ちゃんが黙って俺の左手を握り、俺は華ちゃんの右肩に止まっているピョンちゃんに右手を出したら、ピョンちゃんが俺の手を嘴でつついてくる。どうもおっさんに触られるのが嫌らしい。もちろん作業用のゴツイ手袋をはめているたので痛くはなかったが、素手だったらかなり痛かったかもそれない。


「ピョンちゃん、おとなしくしなさい!」


 華ちゃんがピョンちゃんを叱ったら、おとなしくなった。


 あらためて、ピョンちゃんの背中に左手を置いて、


「転移!」


 魔方陣部屋に現れた時にはちゃんとピョンちゃんは華ちゃんの肩に止まっていた。


 面倒なヤツだ。



「華ちゃん、転移はうまくいったけど、ピョンちゃんを連れ歩いて、モンスターに出くわしたらピョンちゃんは危なくないか?」


「確かに。ピョンちゃんはモンスターじゃなくてオウムですから弱いですものね」


「いちど屋敷に戻って、ピョンちゃんを置いてくるか?」


「それって、ピョンちゃんを飼っていいってことですか?」


 ピョンちゃんを飼いたいオーラを振りまいていたくせに、何を白々しい。


「そういうことだな。鳥かごに入れなくても逃げないと思うがどうかな?」


「そこは、分かりません」


「考えてみたら、鳥かごくらいなら簡単に作れるな。

 ただ、ピョンちゃんが鳥かごの中に入ってくれるかどうかはわからないぞ」


「それは、大丈夫です。わたしがピョンちゃんに言い聞かせますから」


 エライ自信だ。


「わかった。俺たちのダンジョンアタックも急いでいるわけじゃないから、今日はこれくらいにして屋敷に戻ろう。それでピョンちゃんの生活環境を整えればいいだろう」


「そうですね!」


 輝くばかりの笑顔とは、今の華ちゃんの笑顔のことを言うのだろう。


 そういうことで、俺たちは屋敷に戻ることにした。


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