第68話 自衛隊3。アキナ神殿。
ピラミッド出現から一夜明けて。
テレビは、早朝からピラミッド関連の情報を流していた。
昨日の負傷者、行方不明者などの情報と共に、政府から発表された第3ピラミッド内の映像などが識者による解説などが主なその内容になっている。自衛隊とモンスターとの戦闘場面の映像は今のところ公開されていない。
以下は、とあるニュース番組での司会と複数の識者との会話。
『私が昨日言った通り、ピラミッドの中はダンジョンだったでしょう。亡くなられた方もいらっしゃいますが、あえて申します。あのピラミッドの中に広がる異空間、異世界にはロマンがあると』と、したり顔の識者。
『改めてダンジョンでお亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りするとともに、負傷された方々の一刻も早い回復をお祈り申し上げます』
と、型通りここで司会が頭を下げ、続けて、
『内部でモンスターとの戦闘が発生したとの情報も入っていますが、自衛隊員のみなさんに被害はなかったのでしょうか?』
『その辺りは気になりますね。現代兵器が通用するなら楽勝でしょうが、そうでなければいかに自衛隊と言えども苦戦するでしょう』と、別の識者。
……。
『新たなニュースが入ってきました。
昨夜より千葉県習志野市近郊に現れたピラミッド、名称第3ピラミッドに自衛隊の偵察部隊が侵入し探索した結果、モンスターとの戦闘が複数回発生しました。この戦闘において自衛隊員に被害はなかった模様です。
繰り返します。この戦闘において自衛隊員に被害はなかった模様です。
自衛隊、防衛省では戦闘後複数種のモンスターの死骸を入手しており、現在都内の研究機関でモンスターの死骸の分析を進めているとのことです』
『現代兵器がモンスターに対して有効だったということでしょうから、所詮動物の域を出ないモンスターなど恐れることはないということでしょう。
将来的にはダンジョンを一般人に開放してもらいたいですね』
『どういったモンスターと交戦したのかは今のところ不明ですが、ダンジョンの入り口で遭遇するようなモンスターなど所詮ザコでしょう。奥に進んでいけば強力なモンスターが出現するかもしれませんよ。ドラゴンとか』
『さすがにドラゴンはないんじゃ』
『ダンジョンを内包したピラミッドが現れた以上何が起こるか分かりません』
『そうかもしれませんが、ドラゴンは……』
各局とも識者の取り合いをしているため、それほど名の売れていない識者も登場しているが、そもそも識者と言っても、自分のこれまで目にした、あるいは自分で作った創作物の世界を知っているだけの人物たちなので、優劣があるわけではない。言い方をかえれば、立ち回り次第では誰でもビッグになれるチャンスがあった。
そんななか、ほとんど無名の識者山口某がひとこと、
「『真・巻き込まれ召喚』というweb小説を参考にしたらいいかもしれませんよ」
と、自作の宣伝をした。
この宣伝のひとことで、彼はビッグになり上がっていったとかいかなかったとか。
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こちらは、日本。千葉県習志野市近郊。
第3ピラミッドでは、拠点とした空洞から先の探索がある程度終わったことを受け、それまでピラミッド内で探索を行っていた偵察小隊と代わって、それまでピラミッドの外でバックアップ体制に入っていた空挺第1中隊本体がピラミッド内に入り、探索を続行した。
ピラミッドから帰還した偵察小隊の面々はそのまま隔離用救急車に乗せられ、隔離観察のため都内の自衛隊病院に移動した。予定の隔離期間は1週間とされていたのだが、洞窟内で採取された岩石や気体などからは既知の病原菌やウィルスを含めいかなる微生物も存在しないことが確認されたため、その日の夕方には偵察小隊の面々は迎えの車両に乗り込み、第一空挺団に復帰している。もちろん隔離病棟で治療を受けていた一般人の負傷者も一般病棟に移され、軽度のものは既に退院している。
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そしてこちらは、アキナ神殿の勇者、山田圭子とレンジャーの田原一葉。
冒険者ギルドに張り紙を出して募っていた護衛の冒険者が採用され、いよいよバレン南ダンジョンへの探索が始ることになった。
大神殿で採用した護衛の冒険者は4名。4名は『赤き旋風』を名乗る冒険者パーティーの面々で、バレンの冒険者たちの間では新進気鋭のパーティーとして売り出し中だった。
『赤き旋風』のパーティーのリーダーは、通称、隻眼のシャーナ。姓は知られていない。彼女は炎のような赤髪で小柄ながらも剣豪級剣術Lv2を持つ大剣の使い手だ。
サブリーダーは、ザムド・ボーネン。大柄なメイスと盾を使うタンク役だ。
それに、魔術師級魔術Lv2を持つエウレカ・コーラルと大盗賊級盗賊Lv2を持つビージー・シャドーの4名。サブリーダーのザムド・ボーネン以外の3名は女性だ。
彼らの戦闘スタイルはリーダーの隻眼のシャーナと盾持ちのザムド・ボーネンが防御に重点を置いた前衛を受け持ち、後方に控えるエウレカ・コーラルを守る。エウレカ・コーラルは安全な後方から敵に目がけて攻撃魔法を発動させる。ビージー・シャドーは遊撃で敵の側面や後方に回り込み必殺の一撃を放つ。さらにビージーは罠の発見や解除も受け持つ。
これほど高い能力の者がバランスよく同じパーティーに集まっていることは珍しく、『赤き旋風』は若手のパーティーと言っても、そこらの中堅冒険者パーティーなど及びもつかないほどその冒険者パーティーとしての能力は高い。冒険者ランクは4人ともBランクであり、リーダーのシャーナは間もなくAランクに上がるだろうと言われている。
山田圭子たちと『赤き旋風』の顔合わせの日。
『赤き旋風』の4人がアキナ神殿を訪れ、大神官立ち合いの下、神殿の応接室で顔合わせが行われた。
「『赤き旋風』のリーダー、シャーナです。よろしく」
シャーナが山田圭子と田原一葉に向かって軽く頭を下げた。
「シャーナさん、よろしくー」「よろしくー」。二人とも軽いノリであいさつした。
その後、残りの3人もあいさつし、山田圭子と田原一葉は変わらず軽いノリであいさつを返した。
「聞いていると思うけど、わたしが勇者のケイコ・ヤマダ」
「わたしはレンジャーのイチハ・タハラ。よろしくね」
「護衛なんかいらないっていったんだけど、大神官のおじいさんがどうしてもって言うから雇っただけなの。だから、足手まといにだけはならないでね」
「……」
山田圭子のあまりの言いぐさにシャーナたちは呆れたが、大神官への手前もあるしビジネスだと割り切って黙ってその場に立っていた。さすがの田原一葉もこれは言い過ぎだとは思ったが彼女も黙っていた。
ちなみに神殿と『赤き旋風』間で交わされた契約では、『赤き旋風』に支払われる報酬は1日当たり金貨40枚。その代りダンジョン内で見つけた金品は全て神殿のものとする。契約は1カ月更新。と、なっている。
冒険者パーティー『赤き旋風』のメンバー名ですが、面倒だったので適当に知恵を絞りました。ここまでやった以上パーティー名も『レッド・コメット』でも良かったかも? 最後のビージー・シャドーはいま暗礁に乗り上げている書きかけ作品『影の御子』のヒロイン名(作品中では、姓はなくただのビージーです)。




