第61話 ピラミッド
ここから、気持ち新章ということになります。
都市部周辺に出現したピラミッドは、出現と同時に付近の人によって発見された。
発見されたどのピラミッドも金色に輝き、底面は15メートル四方、ピラミッドの各辺はそれぞれ正確に東西南北を向いており、北を向いている面の中央に内部に通じる『ゲート』が開いていた。一部の者が金色に輝くピラミッドを金でできているのではないかと考え、なんとか削り取ろうとしたが、傷一つ付けることはできなかった。
『ゲート』は揺らぎとして見るものには見えた。その中の数人がこの揺らぎに向けて石を投げつけたところ、石がそのまま揺らぎの中に消えていった。試しに揺らぎに手を入れて引っ込めたりして何事もないことを確認した数名が、思い切ってその揺らぎの中に入っていった。
揺らぎを抜けた先は大空洞で、光源はどこにもなかったが不思議なことにある程度見渡すことができた。壁の各所にはその先に続く洞窟のようなものが見えていた。
ゲートを抜けてピラミッドの中に入った者が後ろを振り返ると、何かを映しているわけではないが、表面が鏡のようにツルツルで真っ黒い板が岩壁の中にあった。入り口の揺らぎ同様その黒い板に手先を出し入れできたことから、何人かの者はそのままその黒い板を抜けて外に出ていった。それにより、揺らぎはピラミッドへの入り口、黒い板はピラミッドからの出口であることが確認できたので、より多くの者が揺らぎを通ってピラミッドのなかに入っていった。
そういった光景は都市部周辺に出現したピラミッド各所で見られている。
これとは別に、各地で発見されたピラミッドの出現場所が、午前11時に起こった同時多発地震の震源地の真上だったことが確認されたことで、自衛隊機による調査飛行が全国規模で実施された。
その結果、日暮れ前には山間部や島しょ部などに出現したピラミッドを含め、すべてのピラミッドが発見された。その数実に32。発見された順などから各ピラミッドには1号ピラミッドから32号ピラミッドと名前が付けられた。
日本政府は謎のピラミッドへの立ち入りを午後1時には禁止し、その旨を各自治体に通達した。これを受けた各自治体は防災無線、緊急放送などでそのことを住民に周知させた。
その後、各自治体は政府の通達に続く要請に従って、ピラミッドを封鎖するため警官を現地に派遣したが、既に多くの一般人がピラミッドの中に入り込んでいた。
ピラミッドに侵入した者のうち、その半数ほどが、ピラミッド侵入後数分から10数分ほどで悲鳴と共にピラミッドから逃げ出してきた。逃げ出せた者のほとんどは無傷だったが、中には血まみれで命からがら逃げだしてきた者がいた。
ピラミッドから逃げだしてきた多くの者はピラミッド内部の様子をスマホで撮影していたが、彼らがSNSに向けて発信した短い映像の中には、小型のピラミッドの内部とは思えない空洞が映し出されており、これまでファンタジーの世界の住人だったモンスターと、そのモンスターによって無残に殺され、中には貪り食われる人間の姿が映し出されていた。もちろんそういった映像はすぐに非公開になったが世界に与えた影響は計り知れなかった。
映像に映し出されたモンスターは、狼型モンスター、蜥蜴型モンスター、ヘビ型モンスターなど動物型のモンスターの他、不定形のゲル状生物、いわゆるスライムなどが確認されていたが、人型のモンスターは確認されていない。
政府は午後2時の時点でピラミッドを中心に半径200メートルの範囲に居住する住民に対して避難指示を出すよう各自治体に要請している。
当初、政府の要請に従ってピラミッドの入り口を封鎖するため、ピラミッドが出現した各自治体の警察署はそれぞれ10名前後の一般警官をピラミッドの入り口に向け派遣した。
その後、ピラミッドに侵入した者たちのモンスターによる惨事によりピラミッドの周囲が救急車やパトカー、野次馬で騒然とする中、各自治体の首長はピラミッド内部からモンスターが外部に漏れ出ることを阻止するため、防衛省に自衛隊の災害派遣を要請するに至った。
要請を受けた防衛省では、近隣の陸上自衛隊各基地に対し第1陣として一個小隊約30名を派遣するよう指示した。派遣された第1陣はピラミッドの出入り口前に土嚢を積み上げ簡易的な陣地を構築し、重機関銃などを据え付けてモンスターの出現に備えた。
ただ、未知のモンスターにどういった兵器が通用するのかはわからないため、念のため各自、小銃に着剣している。幸いモンスターがピラミッドの中から外部に出てくるということはなかったが、ピラミッドを囲む自衛隊の戦力はその後増強されていった。
政府は自衛隊の出動と前後して、ピラミッドから200メートルの範囲に居住する住民に対しての避難指示を避難命令に代え、200メートルから500メートルの範囲の住民に対して新たに避難指示を出すよう各自治体に要請している。地元の消防隊員、警察官たちは避難命令範囲の住民に対して速やかに指定された避難所へ避難するよう呼びかけて回った。
一方、各メディアは午後からピラミッドの話題で盛り上がり、ニュースショーでは大御所ラノベ作家や不思議現象雑誌の編集長などが識者として自説を披露していた。
彼らに共通する説は、ピラミッドはダンジョンの出入り口であるというもので、入り口の先の空洞はすでにダンジョンの一部でその先には洞窟網が広がっているという。ダンジョンであるかどうかはその定義にもよるが、空洞の先に洞窟が続いていることは生存者の撮影した映像や証言から確認された。
また、識者の意見として、モンスターは現代兵器では斃せない可能性があり、剣や打撃武器で斃さなければならないと主張する者もいた。ピラミッドを囲む自衛隊員たちが各自小銃に着剣したのは、このことを考慮したためである。
さらに識者からは、ダンジョン内には貴重な資源や高価な財宝が隠されているので、可及的速やかにダンジョン内を調査するべきだという意見も出された。
政府はピラミッド内部への一般人の進入を禁じた後、ピラミッドおよびダンジョンの対応を考えるべく有識者会議の招集を決定した。有識者会議の座長はこの関係に詳しい与党の重鎮で元総理が任命されて、最初の会合が午後4時には開かれた。
1回目の有識者会議は2時間ほどで終了し、取り急ぎ政府に対し、ピラミッド内部の調査を可能な限り早急に行うよう提言した。政府はこれを受け、防衛省に対しピラミッド内部、いわゆるダンジョンの調査準備を命じた。武器の使用も必要との観点から、防衛大臣は総理大臣の了承の下、千葉習志野に駐屯する第一空挺団に対して出動待機命令を発出している。
ピラミッド内に進入し命からがら逃げだした者たちのうち負傷した者は、狂犬病といった既知の病原菌への感染のほか、未知の病原菌への感染も疑われたため、救急車で隔離施設のある病院に搬送され治療を受けている。彼らは隔離施設の中で治療の傍ら詳しい検査を受けているが、既知の病原菌には冒されていないことだけ確認できている。
未知の病原菌への感染については負傷者の容態の変化を見るしか今のところ手立てはないということだったが、政府は未知の病原菌に対する2週間程度の隔離期間を待つことなく自衛隊を投入してピラミッド内部の本格的調査を行うと決断した。
深夜0時。武器の全面使用を認める総理大臣の防衛出動命令のもと、千葉県習志野市郊外に出現した第3ピラミッドに対して、第一空挺団本部中隊から偵察小隊20名が派遣されることとなった。支援として、空挺第1中隊も派遣されるが、ピラミッド内部への侵入は当初偵察小隊のみの予定である。
防衛大臣より防衛出動待機命令を受け待機中だった空挺団本部偵察小隊と空挺第1中隊は、直ちに第3ピラミッドにむけ出動し、午前0時30分に偵察小隊20名はピラミッド内部に侵入した。
ピラミッド内部は異空間ではないかとの専門家の指摘とSNSで拡散された映像の通り、ピラミッドの中にはその大きさからは考えられない広さの空洞が広がっていることが確認された。
偵察小隊の面々は、侵入と同時にモンスターとのとっさの会敵に備え、小銃に着剣しての侵入だったが、空洞にモンスターは見当たらなかった。
防衛省ではそれまでに入手した情報から、ピラミッド内部では洞窟そのものが発光しているため光源がなくても内部の様子を視認することは可能と考えられていたが、偵察小隊の隊員たちは両肩に装備したライトを点灯してピラミッド内部に侵入していった。内部の探索時、モンスターを刺激しないようライトは消灯する予定のため、小隊長他数名を除き、ヘルメットには暗視装置を装備している。
予想されていたことだが外部との無線通信関係は全滅だった。しかし人の出入りが可能であることからこちらも予想されていた通り有線での通信並びに電力線の引き込みは可能だったため、直ちにピラミッド外部で待機する第一中隊本部から通信線、電力線と共に投光器などがピラミッド内に搬入されている。
千葉県警からの情報から、第3ピラミッド内部で20名弱が行方不明になっており、うち少なくとも5名はこの広間で落命していたはずだが、投光器の光で明るく照らされた空洞内に死体はおろか血痕さえも見つからなかった。




