第53話 ダンジョンアタック3、最初の宝箱
華ちゃんのファイヤーアローの一撃で巨大蜘蛛はいとも簡単に死んでしまいその場でひっくり返ってしまった。
「華ちゃん見事だ」
ちょっと悔しかったがそこは大人の余裕で華ちゃんを褒めておいた。
「この蜘蛛もなにかの役に立つかもしれないから取っておこう。収納」
目の前の蜘蛛をアイテムボックスに収納したら、蜘蛛のいた場所の後ろの床の上に何か置いてあるのが見えた。
そこまでいくには蜘蛛の糸が邪魔だったので俺は松明を作って蜘蛛の糸を焼き払ってやろうかと思ったが、焼き払うなら華ちゃんがそれらしい魔法を使えるだろうと思い、
「華ちゃん、魔法で蜘蛛の糸を焼き払ってくれないか?」
「はい、フレイム!」
華ちゃんの右手から橙色の炎が伸びてあっという間に部屋中の蜘蛛の糸が焼き払われた。
「華ちゃん、凄いな」
「えへへ」
蜘蛛の糸がすっかり焼き払われた部屋の奥にあったのは、木箱だった。蜘蛛がその木箱を守っていたと言えば守っていたのかもしれない。
「あれって宝箱だよな」
「わたしは今まで本物の宝箱を見たことはないのでわかりません」
俺も実物の宝箱なんか見たことはないが、ゲームの世界ではさんざん目にしている。確かにあの箱は宝箱だ。そして木の宝箱ということは箱の中身はショボいということだ。罠のリスクを考えれば放置もあり得るが、ここには華ちゃん大先生がいらっしゃる。無リスクで宝箱を開けることができるのだ!
「華ちゃん、宝箱に罠が仕掛けられているかもしれないからアイデンティファイトラップとデスアームトラップで罠を解除してみてくれ」
「はい。アイデンティファイトラップ。……。罠はポイズンニードル。ディスアームトラップ。
これで大丈夫なはずです」
「じゃあ、俺が箱を開けよう」
罠は解除されたはずなので大丈夫と思うがそれでも少し怖い。
だからといって、ここでためらっては華ちゃんを信用していない。と、とられかねないので、俺は意を決して箱の蓋に手をかけた。
手をかけたものの箱の蓋は開かない。おかしいなと思って、よく見れば宝箱には鍵穴らしきものがあった。華ちゃんのノックで解錠できるかもしれないので、
「華ちゃん、鍵穴があった。ノックを試してくれるか」
「はい。ノック」
何も起こらなかったようで、宝箱の蓋は開かなかった。
鍵穴をもう一度よく見ると、鍵穴の形が独特だった。カギっ子ペンダントの鍵が入りそうな気がする。
カギっ子ペンダントの鍵を試しに鍵穴にさしこんでみたら、うまく鍵穴にカギっ子がはまった。そのままカギっ子を回してみるとカチリと音がして蓋が手前から浮き上がった。
「開いた。
金貨が入ってる」
蓋を開いてみたら箱の中には金貨があった。
華ちゃんも箱の中を覗き込んで、
「結構入ってますね」
意外とたくさん入っている。枚数を数えたら32枚もあった。ただ普段使っている金貨と比べだいぶ大きいような気がする。模様ももちろん違う。
「32枚金貨が入っていたけど。普通の金貨とは違うようだから別途とっておこう」
大型金貨はアイテムボックスに仕舞っておいた。
「いたるところに罠はあるし、最初の部屋を出るのでさえ苦労したけど、こういったダンジョンで探検する職業はリスクに見合った収益がありそうだな」
「よく分かりませんが、何のために宝箱があるんでしょう?」
「欲に駆られた人間をおびき寄せるためだろうな」
「おびき寄せるといいことって何でしょうか?」
「俺の読んだことのあるラノベだと、ダンジョンの中で人間が活動すると、それだけでダンジョンは成長するための栄養を受け取るそうだ。特にダンジョン内で人が死ぬとたくさんの栄養を受け取れるって書いてあった」
「なるほど。
ダンジョンはそれ自体が成長することを目的とした存在ということですね」
「うーん。そこは分からないな。
例えば人間の子どもだって大きくなるためには栄養が必要だが、大きくなることが生きていく目的かと言えばそうでもないだろうし。
とはいえ、ダンジョンはカビじゃないんだから勝手に生えてきたわけじゃないはずだ。きっと誰かが作った物だろうし。作った本人にはなにか目的があったんじゃないか」
「作った本人には会いたくないですよね」
「全くだ。本人と言っても人間じゃないだろうし」
「やっぱり神さまでしょうか?」
「神さまの可能性はあるが、神さまだからと言っても、良い神さまとは限らないし、逆にものすごーく良い神さまで、人間とかこの世界のためにどうしても必要だったから作ったのかもしれない」
「そう言えば、この世界、空の色も雲の様子も、人間を含めて動植物なんか地球とそっくりだけど、不思議ですよね」
「おそらく、どっちかの世界がオリジナルで、反対側がそれのコピーなんじゃないか?」
「その考えを広げると、どこかにオリジナルの世界があって地球もこの世界もコピーなのかもしれませんね」
「それはありそうだな。となると、地球にもこういったダンジョンがあるのかな? それはないか」
何だか哲学的な話になってきたところで、話を切り上げ、
「そろそろ、次にいこう」
「はい」
「待て待て。その前に、デテクトアノマリーで見落としがないか確認してくれ」
「はい。ディテクトアノマリー」
華ちゃんのデテクトアノマリーでも異常は見つからなかったのでこの部屋には何もないことが確認できた。
「やっぱり何もなかったな。じゃあ次いこう」
その部屋を出て通路に戻り、赤く点滅する罠らしきものを華ちゃんが一つ一つ確認して解除していき、俺たちは次の扉の前に立った。
今回の扉も赤く点滅しているので、華ちゃんが罠を確認して解除した。
そこで気づいたんだが、俺も華ちゃんも今身に着けているのは普段着だ。
ダンジョンアタックするにはあまりにもバカにした出で立ちである。
「この部屋を確認したら、どこかで防具を買って身に着けた方が良くないか?」
「そう言われればそうですね」
「こういったものはやっぱりワーク〇ンかな?」
「さあ、ワークマ〇に入ったことはないので」
あそこは普通の女子高生が入るようなところじゃないかもしれんな。
「ま、そこは後で考えよう。
それじゃあ、扉を開けるぞ」
「はい」
俺は如意棒を左手に持って右手で扉をゆっくりと扉を押し開いた。
今度の部屋は見た目空っぽだ。
「華ちゃん、またデテクトアノマリーを頼む」
「はい」
一歩前に出た華ちゃんが「ディテクトアノマリー!」と、唱えたら、部屋の中が何個所か赤く点滅した。




