第525話 日本党、日本国大統領
パサント彗星騒動が終わり世界は元に戻ったのかというと、多くの先進国では社会インフラの大半を喪失し、しばらく無秩序な状態が続いていた。
その中で日本だけはいち早く日常を取り戻したのは当然といえば当然だった。インパクト前に火力発電所や原子力発電所、製鉄会社の高炉などは停止していたが、無事再稼働できた。酪農、養鶏等はある程度の被害を受けたが、ギリギリまで地上に残った技術者や自衛隊員たちの努力で最小限の被害で抑えられていた。国際社会も少しずつ秩序を取り戻しつつあり、比較的被害の少なかった国々を中心に国際貿易も少しずつではあるが正常に戻りつつあった。
日本では各国の社会インフラ復旧のための特需が当然のごとく発生し、まだ先の話にはなるが多くの日本人が海外で活躍し、日本国内の企業もフル操業を続け空前の好景気に見舞われることになる。
善次郎の周辺でパサント彗星騒動後変わったことは、D関連局の川村局長が一身上の都合を理由に防衛省を退職したことだ。辞めたのならイワナガ・コーポレーションで再雇用したかったのだが、本人にはやりたいことがあるということだったので善次郎はリクルートを諦めている。後任のD関連局の局長は野辺次長が昇格して野辺局長となった。
今回の騒動を振り返れば、ダンジョンとダンジョン由来の電力、それに自衛隊のおかげで日本社会は最小限の被害でパサント彗星騒動を乗り越えることができたわけだ。このことは全ての日本国民が深く認識していた。
ダンジョンの大空洞を整備して、多くの物資を提供したのがオストラン王国というわけではなく、オストラン国王イワナガ・ゼンジロウ個人であるとのうわさが大空洞に避難中から流れていたうえ、迫りくるパサント彗星を破壊し、しかもその破片が地球に降り注ぐのを防いだのもイワナガ・ゼンジロウであるとのうわさまでが地表に戻った国民の間で流れ始めた。
日本国内が日常を取り戻しつつある中、党首不在で数名の幹事が党を運営する日本党と名乗る政治団体が立ち上がった。岩崎グループ総帥の岩崎弥一と松坂グループ総帥の松坂利高の二人が中心となって、その他の経済界の重鎮たちが日本党の賛助者に名を連ねた。
心ある国会議員たちは日本党が立ち上がる前から旧来の党を離れて無所属に転向しており、日本党が立ち上がると同時に合流していった。その後も日本党への議員たちの流入は止まらず、瞬く間に日本党は衆議院議員の半数近くまで議員数を増やしていった。
臨時国会が再開された初日。衆議院において日本党から内閣不信任案が提出され僅差で可決。即日衆議院は万歳三唱の中解散され総選挙への流れとなった。
選挙戦の始まる公示日までに、当初のパサント彗星の混乱の中オストランへの移住を打診していた国会議員、政府高官の名まえが音声や動画付きで暴露されていった。
さらに大空洞の避難先での行状なども次々暴露されていき、大空洞内で秩序を乱したという理由で逮捕されていた議員や政府高官たちは一応復職していたが、多くの議員は出馬を断念し、同じく多くの政府高官が職を辞した。
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彗星騒動の影響で中断した日本町の建設工事も再開した。当初の竣工予定は来年4月だったが来年6月となった。
総選挙公示の二日後、マンションに投票用紙が送られてきた。
はるかさん、後藤さん、今年18歳になった華ちゃん。俺の名まえで、俺とリサの分。
「はるかさんたち、今回の選挙に行きます?」
「わたしは選挙に行きます」と、はるかさん。
「わたしも選挙に行きます」と、後藤さん。
「華ちゃんは?」
「国民の義務ですから」
「リサは?」
「初めてなので緊張します」
ということはみんな選挙に行くってことか。
「今回の選挙ってどんな感じなの?」
「日本党が与党になるだろうという話です」
「なにそれ? 日本刀? 刀?」
「いえ、そうじゃなくって日本に政党の『党』で日本党」
「そんな党があったんだ」
「この前のパサント彗星騒動のあと急にできた政党です」
「そんなのが与党になる?」
「かなりの数の議員がそれまでの政党から日本党に移籍してるんです。しかもバックには経済界が付いてるみたいです」
「ふーん。日本党ってすごいんだ。名まえは右寄りっぽいけどどんなこと言ってるの?」
「今回のパサント彗星の騒動を踏まえ、憲法を変えて日本を大統領制にするとか」
「ふーん。憲法改正、大統領制で衆議院選挙か。
まっ、良いんじゃないか」
「善次郎さんは選挙にいかないんですか?」
「オストラン国王の俺が行くとちょっと派手なんで遠慮しておくよ」
「なるほど。善次郎さんらしくない真面目な答えでしたね」
何だよ。華ちゃんは俺のことどう思ってるんだよ。とはいうものの選挙なんかに行く気は最初からなかったからそれらしいことを言っただけだけどな。
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日本党大勝の予想の中、11月中旬の日曜日に投票が行われた。
開票の結果、日本党は予想を超えて衆議院議席の3分の2議席どころか4分の3の議席を獲得してしまい党首不在のまま第1党になった。
衆議院での首班指名で日本党の幹事の一人が首班に指名され、第10X代日本国総理大臣として就任した。日本党は両院の憲法審査会などで野党の抵抗を受けたが多数決で押し切り憲法改正案を提出、改正案は衆議院で予想通り可決された。参議院での3分の2の賛成は危ぶまれたが、経済界からの厳しい突き上げと世論に押されて参議院でも憲法改正案が可決された。
年明け1月末。国民投票が行なわれた結果、国民の圧倒的支持のもと、日本国憲法が改正され日本は大統領不在ではあるが大統領制に移行した。
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今日は午後から華ちゃんと出かける約束をしているので、今日は何を着ていこうか考えながら新屋敷の居間のコタツに入ってミカンを食べていたらアスカ3号がやってきた。
「マスター、官邸より電話が入っています」
「艦艇? どこの船?」
「いえ、首相官邸です。
総理大臣から電話があるそうです」
「総理大臣? だれだっけ?」
「名まえは聞いていませんでした。電話口で待ってもらっています」
「ゼンジロウ1号が会談したあの総理だったらもう総理じゃないはずだし。まっ、いいや」
俺はアスカ3号を連れてマンションに跳び、保留中の受話器をとった。
「はい、岩永です」
『こちらは首相官邸です。総理がお出になりますのでそのままお待ちください』
『総理大臣の川村です。ご無沙汰していました』
あれ? 誰だっけ? 聞いたことのある声のような。
『岩永さん、日本のため、大統領に就任してください。これは日本国民の総意と思ってください』
「えっ!?」
さすがに大統領といきなり言われてはいそうですかと引き受けられるようなものでもないので、その場は保留ということにしておいた。
「華ちゃん、川村さんが選挙に出てたことや総理大臣になったこと知ってたんだろ?」
「まさか、善次郎さんは知らなかったんですか?」
そう返されるとは思いもよらなかった。確かにたいていの日本国民なら総理大臣が誰かくらい知っているだろうし、知っている人が総理大臣になればなおさらだ。現実的にテレビなんて見てないし、スマホでもニュースなんか見てないから俺が知るはずないんだよ。それに、食卓で一度もそんな話題はなかったし。
「恥ずかしながら、さっきの川村さんの電話で初めて知った」
「川村さんからの電話って大統領の話ですよね?」
「えっ!? 華ちゃん、それも知ってたの?」
「いえ、知りませんでした。でも、今の日本で大統領にふさわしいというか、大統領になってもらわないといけない人って善次郎さんじゃないですか。そう考えれば、電話の内容は大統領の件しかないと思います」
「えっ!?」
「逆にZダンジョンの所有者である善次郎さんに大統領になってもらわないと日本は国として立ち行かなくなる可能性もあるわけですから」
「そ、そうなんだ」
「そうなんです。各国からも最高の勲章が送られてきたようにパサント彗星事件後の各国は、世界を救った善次郎さんに何も言えませんから」
「……」
「去年のノーベル賞は流れましたが、今年のノーベル平和賞は善次郎さんじゃないですか? 何かとノーベル平和賞は騒がれますが、善次郎さんの平和賞受賞をとやかく言う人はいないと思います」
「……」
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