第522話 魔神のハンマー7、宇宙船希望号2
コアに礼を言って宇宙船希望号をアイテムボックスに収納した俺は、念のため希望号のコピーを作り、華ちゃんを連れて果物島の浜辺に跳んだ。
果物島宇宙センターの砂浜は海に向かって斜めだったので少し削って平たくしたうえで、華ちゃんに重力魔法で突き固めてもらった。発射台の上にアイテムボックスから宇宙船希望号を排出したら、ちゃんと真っすぐ立ってくれた。
宇宙船希望号には出入口を作っていないので、転移で出入りすることになる。やはり出入り口があった方がいいような気がしてきた。
「じゃあ、試運転だ」
華ちゃんを連れて船内に転移し、床の上に並んだ座席に座ってシートベルトを締めた。着ている服は普段着だが頭には二人ともミスリルのヘルメットをかぶっている。本職の宇宙飛行士が見ればかなり奇異な光景かもしれない。宇宙飛行士でなくても、そうとう奇異な光景と受け取るような気もわずかにする。
「岩永さん、始めていいですか?」
「やっちゃってください」
「それじゃあ、アップ・アクセラレーション!」
今度の魔法はネガテブ・グラビテーではないらしい。
華ちゃんの魔法が発動し宇宙船希望号はゆっくり上昇を始めた。加速度はそれほどでもないようで座席に押し付けられる感じはほとんどしなかった。
高度が200メートルくらいになったところで「バランス!」と、華ちゃんの声がして、上昇していた希望号はそこで停止した。
「何だか、重力魔法がレベルアップしたようだな」
「宇宙船の操縦に特化して使いやすくアレンジしてみました」
大したものだな。今だって空中に止まっているということは重力と同じ力が上に働いてるってことだものな。
「ところでこの魔法は何分くらい持つの?」
停止した状態はいいがいきなり魔法が切れてしまうと、自由落下、体感無重力だものな。
「切れたら大変なので、これだけは効果が切れないようにしました。
自動再魔術というのを思いついたので、意外と簡単にできちゃいました」
天才は違うってことだな。
その後、希望号は華ちゃんの魔法で前後左右にゆっくり動いた。
「レフト・アクセラレーション!」「ライト・アクセラレーション!」「フォア―ド・アクセラレーション!」「バック・アクセラレーション!」「ローテート!」
そして「ランディング!」
希望号は発射台の上にゆっくりと着陸した。
シートベルトを外して席を立ち、砂浜の上に転移した。
「華ちゃん、すごいよ。これならうまくいきそうだ」
「フフ。ちょっとだけ頑張っちゃいました」
これで希望号の操縦の目途は立った。
華ちゃんを連れて屋敷に帰ったら、酸素ボンベと、二酸化炭素の濃度計、それに二酸化炭素吸収剤の入った缶が届けられていた。アスカ3号が防衛省に連絡して自衛隊の駐屯地から送ってもらったそうだ。ありがたい。さっそくコピーして増やしておいた。
その後俺はコアルームに跳び、希望号の改修を頼んでおいた。出入り口のハッチの取り付けと、備品を固定できる棚の取り付けだ。棚は酸素ボンベと二酸化炭素吸収缶を置く場所だ。俺のアイテムボックスには予備をたくさんコピーしておくつもりだが、宇宙では何が起こるか分からないので、華ちゃん一人でも酸素と二酸化炭素のコントロールができるようにするためだ。
希望号1号とそのコピーはそのまま素材ボックスに突っ込んで、新しく希望号をコアに創ってもらった。
でき上った希望号だが、何も指定しなかったのでハッチの周辺だけは金属製になっていた。見た目は悪いが問題ないだろう。ハッチをくぐって中に入り、酸素ボンベと二酸化炭素吸収缶を棚に並べて固定して、酸素と二酸化炭素の濃度計を棚を支える縦棒にしっかり取り付けておいた。
外に出た俺は希望号をアイテムボックスに収納してコピーを取りコアに礼を言って屋敷に帰った。
午後になって、応接室に華ちゃんとアキナちゃんを呼んで、パサント彗星迎撃のため宇宙に華ちゃんと二人で飛び立つことをアキナちゃんに話した。
「飛び立つ前に、アキナちゃんに祝福してもらいたいんだ」
「あいわかった。わらわも付いていきたいのは山々じゃが、祝福だけで我慢するのじゃ。
おそらく今回の目論見は成功する。わらわが保証するゆえ、リラックスしてことに臨むのじゃ。特にゼンちゃんはな」
なんで俺だけ特別なのかは分からないがとにかく礼だけは言っておいた。
「ありがとう」「アキナちゃんありがとう」
一応完成した希望号だが、ある程度の電気設備があった方がいいだろうということでコアルームの隣りの造船所の隅に置いて、アスカ2号に装備を追加させた。
まずは超高性能ゴーレムコマを使った発電機だ。100ボルトと200ボルトの電気を供給する。その電気を使って二酸化炭素吸収缶に船内の空気を通すサーキュレーターが2つ取り付けられた。スイッチ類や酸素濃度計などは俺の座席の前にパネルを取り付けそこにまとめられた。失念していた気圧計、温度計、湿度計などもパネルに取り付けられた。ちなみに気圧計、温度計はドローン3号機用のものを転用している。湿度計は屋敷にあったものをコピーしてパネルにはめ込んだものだ。
それから一度、果物島宇宙センターから目分量だが高度100キロ、おそらくほぼ宇宙空間まで華ちゃんと試験飛行をし、空気漏れなどの異常のないことを確かめた。ちなみに、大空洞の天井は全く見えなかったし、反対側の壁はおろかピラミッドらしき物も視認できなかった。ただ広大な海とところどころに島が浮いていることは分かった。
そしてとうとう衝突予定日の前日、作戦決行の日が来た。
夜空にはパサント彗星がはっきり見える。曇り空より晴れた方がいいので、これもラッキーだった。俺と華ちゃんがいるのは、親父の家の前の道路だ。町の疎開はとっくに完了しているため町は真っ暗だ。
出発前にはアキナちゃんの祝福を受けみんなに見送られている。俺と華ちゃんは鎧は身につけずワーク〇ンの真っ黒いダンジョンスーツ姿だ。
家の前の道に希望号を置こうと思ったが、道は真ん中が膨らんでいて座りが悪そうだったので、道の上に砂を敷いた後、華ちゃんに平らになるよう魔法で均してもらって、そこに希望号を設置した。
華ちゃんが先にハッチをくぐり、俺が中に入ってハッチをしっかり締めた。
座席に座りシートベルトを締めて、
「希望号発進!」
「アップ・アクセラレーション!」
午後8時ちょうど。希望号がゆっくり上昇を開始した。華ちゃんが天井を眺め天井の真ん中にパサント彗星が来るよう微調整する。日本海も見えてきた、それからだんだんと視界が広がり日本列島が見えてきた。
今の高度がどのくらいなのか分からないが、日本列島全体がはっきり見え始めた。もちろん日本列島は真っ暗だがところどころに明かりが見える。最後まで残ってインフラを維持している自衛隊の明かりだろう。それから大陸も視野に入ってきた。どこにも明かりは見えなかった。
20時間後にパサント彗星は地球に衝突する計算なので、パサント彗星までの距離は140万キロちょっとだ。
まずアイテムボックスへの収納を試し、ダメなら10万キロまでパサント彗星に接近して6角柱を撃ち込む作戦だ。
10万キロから直径10キロのパサント彗星の大きさは、100メートル先の直径1センチの円に相当する。そんなのを狙って単純に6角柱を撃ち出しても命中しないが、華ちゃんが狙う的の中心に向かって加速するよう加速魔法を改良してくれた。これで確実にパサント彗星に6角柱を命中させることができる。
希望号は秒速10キロまで加速する予定なので、相対速度30キロでパサント彗星に接近することになる。
これからパサント彗星の10万キロ手前である130万キロまでは130万÷30≒12時間かかる。
俺がもう少し速度を上げた方がいいんじゃないかと華ちゃんに言ったら、あまり速度が速いと彗星の中央を正確に狙う時間が短くなるので、この程度がちょうどいいと言われてしまった。そう言われればそんな気もする。
出発して15、6分したところで急に重力がなくなった。加速が終わったようだ。落っこちている感じがかなり不快だ。すかさずヒールポーションを飲もうとして蓋を開けたのだが液が流れ落ちてこないのでうまく飲めない。ストローをアイテムボックスの中から出して瓶に突っ込んで吸ったらうまく飲めた。飲み終わったら気持ち悪さがすぐに治ってしまった。華ちゃんは平気そうだったが、念のためストローを添えてヒールポーションを渡し飲ませておいた。
「星がこんなにたくさん見えるなんて。ホントにロマンチック」
真実はどうであれ俺たちの頭上で輝いているのは『魔神のハンマー』だ。俺たちは今地球の命運をかけ『魔神のハンマー』を破壊する作戦の途上なのだが、華ちゃんは相当余裕があるようだ。とはいうものの、ヒールポーションのおかげで俺にも余裕が生まれてきた。
「12時間暇だなー。そうだ、コミック読んで暇つぶししよう。華ちゃんも読む?」
「わたしたちは今地球の運命を背負ったミッションの途中なのに、岩永さん余裕ですね」
「えっ?」
それはちょっと違うんじゃないか? と、思ったが言い返さなかった。




