第514話 経済帝国
前王がらみの政治的パフォーマンスを見届けた俺はスカラム宰相と馬車に乗って城に帰った。
すぐに玉座の間の奥の会議室でいつもの4人でハリト最高会議が開かれた。勝手に俺がハリト最高会議と呼んでいるだけだが間違いではないだろう。
全員が席に着いたところで、まずカフラン軍務卿から、
「陸軍では陛下から頂いたメタルゴーレム馬で訓練を開始しています。素人でも操れ、疲れ知らず。水も飼葉も不要。素晴らしいの一言です。まさに軍事革命です」
俺は鷹揚にうなずいておいた。
大いに結構。
「海軍の教育ですが、アスカ2号殿の教室での講義は終わり鉄甲艦、貨物船各々水兵たちを乗せ実習に入っております。あと5日で教育は終了するとのことです」
「了解。となると貨物船と鉄甲艦を用意しないといけないな。教育した人数からいって当面はあと2隻ずつでいいのかな?」
「はい。よろしくお願いします」
「了解。7日後に持ってきます」
今日アスカ2号を連れ戻すときにでも用意しようかと思ったが、探照灯などの装備の追加があるかもしれないので一週間後としておいた。
「これもまた輸送革命。軍事革命です」
大いに結構。
「アスカ2号による教育が終われば海軍内で後進を育ててください」
「はい」
「鉄甲艦はそんなに必要ないかもしれませんが、貨物船が必要な時は言ってください。用意は簡単ですから」
「かしこまりました」
「ほかに何かあるかな?」
「前王室関係の奴隷の競売の準備は終わっています。案内は伝書ドラゴンを使って国内各地の見込み客に送っています。開催予定は10日後です」と、ディズレー財務卿。
大いに結構。
「了解。
ほかに何かあるかな?」
「はい。
将来的に貨物船を民間に貸し出すわけですから、マハリトにいる船主たちに、いちど貨物船を見せようと思っています」と、スカラム宰相。
「それは大切だな。貨物船1隻でガレー船何隻分もの能力が有るわけだし、貨物船がどんどん就航していけば従来のガレー船はいずれ消えていくわけだし。どんどん進めてください。
ガレー船の漕手を失業した者は軍で積極的に受け入れてください」
「はい」
「そういえば、戦の最中ずいぶんモノの値段が上がっていたけれど、その辺は今どんな状況かな?」
「マハリトへの物資の供給は改善していますが、まだ完全ではありません」
「なるほど。貨物船を組み込んだ産地からの供給ルートを早めに確立した方がいいな」
「はい。その方向で進めてまいります」
「あとはないかな?」
「報告事項は以上です。懸案事項などはございません」
大いに結構。
「それじゃあ、わたしはこれで」
3人が頭を下げる中俺は新屋敷に戻った。フー、今日も頑張った。地球の現代人からすれば首チョッパはショッキングなことかもしれないが、日本だろうが海外だろうが普通に首チョッパが行なわれていた時代があったわけだからそれをとやかく言う気はない。軍を動かせば大勢の人死にが出るのは当たり前だ。その責任も取らずに逃げ出したわけだから死罪は当然だろう。
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善次郎が転移で消えた会議室に残ったスカラム宰相、カフラン軍務卿、ディズレー財務卿の3人。
「新王になって、7日ごとではあるがこうして実りある御前会議が開かれる。
前王の治世の十余年、絶えてなかったことだ。感慨深い」と、スカラム宰相。
「召喚術を学べば政治にも詳しくなるのでしょうか?」と、カフラン軍務卿。
「陛下が特別なのだろう。
陛下の実力を考えれば、周辺国を平らげ大帝国を築くこともたやすいのだろうが、武力で大帝国を築くことに何の意味もないことを悟っておられる」
「スカラム宰相、武力で国を大きくする意味はわたしもないと思っていますが、富の力で国を大きくすることには意味があると思っています」
「ディズレーくん、どういうことかね?」
「陛下がご存命の間、わが国は経済力で周辺国を圧倒します。これは確実に言えることです」
「そうだろうな」
「軍事力も他の国を圧倒するでしょう」
「だろうな」
「今までは、軍を催し他国を征服して税を搾り取りとることで国が豊かになると考えていました。
しかし、それでは戦に勝ったとしても多くの犠牲を払う上、被征服国の国民から恨みを買い、税を集めるのにも苦労します。
国の豊かさ、国民の豊かさは富の多寡と言っても差し支えありません。つまり戦いで勝ち取る富も貿易で得る富も同じです。恨みを買わない分貿易の利益の方が上質です。
わが国主導で貿易が進んでいけば周辺国もわが国の経済に頼るようになっていきます。
国土はそれほど大きくなくても周辺国に対する影響力は圧倒的になるでしょう。そうなると軍の力を直接使わなくてもわが国の威光に逆らう国はなくなり戦も起こらなくなるはずです。
経済帝国と言っていいかもしれません。これこそ陛下の求めるわが国の未来なのではないでしょうか?」
「ディズレーくん、いいことを言うな。
よし! われわれは経済帝国ハリトを築くために頑張っていこうじゃないか!」
「「はい!」」
「これからの海軍の任務は航路を守る。そして陸軍の任務は商隊を守る。ですな」
「そういうことだ」
「ただ、国外に出た商隊を軍人で護衛するわけにはいきませんがその辺りどうしましょうか?」
「表向きは正規の軍人ではない傭兵という形ではどうだろう」
「それが通用するでしょうか?」
「商隊から警護料をとり、軍とは別組織で商隊警護専門の傭兵ギルドを立ち上げればどうだろう? 最初のうちは国から支援していくことになるだろうがそのうち自立できるようになるだろう。逆に軍人が不足するようなら傭兵ギルドから兵を一時的に雇うこともできる。陛下のもとではそのようなことは起こらないと思うがな」
「スカラム宰相、国が落ち着けば即位の儀を執り行なった方が良いのでは」
「そうだな。数年後になるだろうが、その時には盛大に執り行なおう」
「「はい」」




