第510話 エレギルの進路。ゴーレム騎馬隊1
新しい年度に入り、オリヴィアも積極的に国内コンクールにエントリーしたようだ。最終目標のポーランドでのピアノコンクールは16歳から30歳までの年齢制限があるそうだが、オリヴィアは今年16歳になる。コンクールは5年ごとに行なわれるそうで、次の開催は2年後の予定だそうだ。それまでの肩慣らしを兼ねた実績作りをしていくと華ちゃんは言っていた。来年は国際コンクールにも挑戦するそうだ。大変な自信ではあるが、自信は大切だ。
一方イオナも、昨年と同じコンクールともう一つのコンクールに出展するそうだ。アキナ神殿からも壁画の依頼が来ているそうで、そのほかの依頼品もあり忙しく絵を描いている。
そういった中、昼食後はるかさんと後藤さんがあらためて俺のところにやってきた。
「エレギルちゃんのことなんですが」
「えっ? エレギルがどうかしましたか?」
はるかさんと後藤さんとエレギルの接点が思いつかない。
「はい。実は、エレギルちゃん普通じゃないんです」と、後藤さん。はるかさんもうなずいている。
エレギルは太陽のない世界で育った子だから、生粋の日本人の二人から見ておかしなところがあったのだろうか? かなり真面目な話のようなので3人で居間から応接室に移動した。
「どういったところが普通じゃないんですか?」
「エレギルちゃん、数学ができすぎるんです。
勉強部屋で小学校の算数から初めてまだ2カ月半なんですがもう大学の微積程度は使いこなしてるんです」
「エレギルはそんなにすごいんですか?」
「わたしの専門は関数論ですが、もうしばらくするとわたしの専門以外ではエレギルちゃんをカバーできなくなると思います。
近い将来、エレギルちゃんに本格的に数学を学ばせた方がいいのではないでしょうか? 本人も数学を勉強したいって言っていますし」
「大学に進むということですか?」
「数学の正確な基礎を学び、数学の体系を知り、自分の目指すものを見つける。という意味で大学、そしてその先に進むのがベストと思います」
「大学に進んだ方がいいなら大学を目指して勉強させましょう。
大学受験の前に高校を卒業していないとマズいなら、高校に入学させましょう」
「高等学校卒業程度認定試験という制度があり、16歳以上で受験できます。エレギルちゃんはまだ15歳なので来年の受験です。
数学と国語については問題ないでしょうから、あと英語と理科系3科目、それに社会系3科目。年2回試験があって、来年の最初の試験は8月ですから、まだ1年以上あります。エレギルちゃんなら十分間に合います。翌年には大学受験できますから、大学に受かれば入学時にはまだ16歳です!」
2年も飛び級できるのか。凄いな。大学には入ったものの、卒業するだけで精いっぱいだった俺からすると夢のような話だ。
試してはいないが、英語ならスキルブックで何とかなると思うので、あとは理科と社会。
「おそらく、英語についてはスキルブックを用意できると思います」
「それなら、英語は十分ですね。
高校の教科書とかは簡単に手に入りますから、時間があるとき二人でエレギルちゃんの理科と社会を重点的にみていきます。二人とも理系なので社会は得意じゃありませんが、何とかなるでしょう」
二人に任せておけば大丈夫だろう。
「お願いします」
ということで、エレギルを大学にやることになった。しかし、エレギルに数学か。何でうちには才能のある子ばかり集まってくるんだろう? 不思議だ。俺の才能のなさを埋めるためカモ?
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マハリトの城への出勤日。
アスカ2号を海軍司令部に届けてそのままマハリト城に跳んだ。
直ぐに玉座の間の奥にある会議室で会議が始まった。メンバーはいつも通りだ。
「前国王と前王妃の処刑は陛下がいらっしゃる7日後としました」と、スカラム宰相。
その言い方からして、国王ご臨席での処刑のようだ。これも一種のパフォーマンスなのだろうから仕方がない。
「中央広場の護国の塔の前で、陛下御臨席の上、執行します」
「了解しました」
あの塔の名まえは護国の塔といったのか。前王もそこで斬首なら本望だろう。なわけないか。
俺も妙な判断をして何万人も国民を死なせてしまえば、執行可能かどうかは別として斬首刑になるのだろうか?
「次に、陛下から頂いた伝書ドラゴンですが、各地に運搬完了し、試しにこの城を目指して飛ばしたところ全ての伝書ドラゴンが城に帰着しました。専用の伝書鞄もでき、運用を始めています」
オストランと比べても情報の伝達という意味ではこのハリトの方が先をいったようだ。情報を制するものが全てを制す! 誰が言った言葉か知らないが、真理だろう。あとは、その情報を生かす機動力があればハリトはこの世界で最高の国になるはずだ。そう言えばゴーレム白馬という機動兵器があったことを思い出した。現在弱体化しているハリト陸軍だが、ゴーレム白馬でテコ入れしてやるのも面白い。
白馬に跨って颯爽と道なき原野を往くわが騎兵隊。戦争などする気は全くないが、備えあれば憂いなし。
鞍を作るノウハウがなかったから今のゴーレム白馬はお尻に優しい柔らか仕様にしてしまった経緯がある。ハリト軍には少なくとも鞍を作る技術はあるはずだから、メタル化して強化してしまえば軍馬として圧倒的だ。騎乗者の体力が続く限り爆走するわけで、実際のところ伝令に使えば、伝書ドラゴンより優秀かもしれない。
俺はさっそく3人にゴーレム白馬の実物を見せようと思ったが、その前に思いついたことを語り始めた。
「各地からの情報が集まるようになった以上、次に必要なのは機動力と思います」
3人とも俺の言葉に深くうなずいた。
「機動力と言えば、軍隊の移動を真っ先に思い浮かべるかも知れませんが、その前に必要な事は、得られた情報を元に何をどうするのか迅速にかつ誤りなく決定することが必要です。
それには訓練した組織が必要です」
俺の次の言葉にも3人は深くうなずいた。
「もちろん一朝一夕にはそういった組織を作ることはできません。
一歩一歩先に進めていくため、まずは組織を作ってしまいましょう。
組織名はズバリ、ハリト参謀本部。本部長はカフラン軍務卿」
「参謀というのはどういう意味でしょうか?」
「参謀とは、作戦などの計画を立てる軍人のことです」
「なるほど」
「まずは頭の柔らかい軍人を10名ほど集めて、仮想的な状況を思いつくだけ書き出し、その対応法を考える。
通常は、可及的速やかに兵を差し向けることが正解でしょうがね。
そこで、いいものがあるんです」
みんなが期待する目で俺の顔を見上げた。
「ゴーレムで作った白馬、ゴーレム白馬です。
鞍がなくても乗れるんですが、鞍があればもっと強力なゴーレム馬が作れます。
ちょっと中庭に出て、お見せしましょう」
いつぞや俺の召喚師としての実力を見せた中庭に4人して移動した。部屋を出たところで俺たちの後に3人の部下が各々2名ずつ付き添ってきた。
そこで俺はわが愛馬、トルネード号を召喚した。
伏せた姿勢の白馬トルネード号に跨り、しっかり頭の脇から生えたハンドルを握って、
「トルネード号、立て!」
すっくと立ちあがったトルネード号の馬上から、3人を見下ろして、
「どうです、見事でしょう。騎乗者の体がもつかぎり、走り続けます」
「ほう。これは素晴らしい。
この白馬に跨って疾走すれば、どこにでも駆け付けることができるわけですね」
「このゴーレム白馬のいいところは、素人でも乗りこなせるところです。しかも、飼葉はおろか水も必要ありません」
「なんと! ということは簡単に歩兵から騎兵にすることができる?」
「そういうことです。鞍の手当ができればフィギュア化してメタルゴーレム馬にすることができるので、鞍を1つ用意してくれますか? 鞍が1つあればいくらでも増やせますから」
「了解しました。至急取り寄せます」
カフラン軍務卿が部下に目配せしたら、一人が駆けて中庭から城の中に入っていった。
「それじゃあいったん会議室に戻っていましょう」
俺はトルネード号を座らせて地面に下り、トルネード号は収納しておいた。
4人で会議室に戻って10分ほど出されたお茶を飲みながら休憩していたら、鞍周り一式が届けられた。近くで見るとずいぶん大きなものだった。
「これって、大、中、小とか大きさがあるんですか?」
「いえ、軍ではその大きさで統一しています」
「分かりました。
フィギュア化したゴーレム馬の持ち合わせがないので今日の午後にでもフィギュアゴーレム馬を持ってきましょう。1000頭もいれば当面大丈夫かな。フィギュアゴーレム馬はそれほど大きくないから大丈夫ですが、鞍周りは実物なので1000個も並べると小山ができるはずだから、さっきの中庭に置いておくか。あそこだと運び出すのに大変そうだから、城の入り口の脇の方がいいな。
そういうことなので、運搬用に荷馬車か何かを用意できたら用意しておいて下さい」
「はい」
「参謀本部は軍の中に置きますが、他の部署にも参謀本郡的な組織を作ってもいいかもしれません。例えば産業を発展させるためにどういったことをしていくのが最善なのかを考えるとか」
「いままで大臣が頭の中で考えていたことを多くの優秀な人材で補っていこうということですか?」
「もちろん本当の意味での天才というものは現れることはあるのでしょうが、10人の秀才からなる組織は一人の大天才に匹敵する。と思っています。
それじゃあ、今日はこんなところで」
3人が頭を下げる中俺は屋敷に帰って華ちゃんを探して理由を話し、フィギュアルームに跳んだ。
「関数論」? 知らんな。




