第509話 オストランと日本とともに歩む イワナガ・コーポレーション
船のことと、前王がらみの後始末の話が終わったところで俺はアスカ2号を連れて屋敷に戻った。
アスカ2号はさっそく取扱説明書を作ると言って倉庫兼作業場に戻っていった。
まさに、はたらきもーのだよーー。ヘイヘイホーだ。
そして翌日。
アスカ2号は取扱説明書を書き終え、製本したうえ20部ほどに増やしていた。ある程度生徒が増えることを想定しているのだろう。取扱説明書は俺がアイテムボックスに入れて預かったとき念のため1部コピーしてから約束の時間にアスカ2号をハリト海軍の司令部に届けた。
教室となった昨日の会議室には生徒18名の他、海軍司令官がいた。恐縮する海軍司令官に軽く挨拶をし、取扱説明書をテーブルの真ん中に排出して、追加の12名用に双眼鏡もテーブルの上に並べておいた。
「この双眼鏡は新しい生徒用だから、各自の私物にしてくれ。
アスカ2号、よろしく頼む。午後4時に迎えに来る」
「はい」
最近主力として活躍しているアスカ2号がこれからかなりの時間ハリトで拘束されるのは痛いので、何か方策を考えた方がいいような気がする。今空いている手駒は、ゼンジロウ1号だけだが、見た目どころか声も俺そのものでは生徒が委縮してしまいそうだ。
新たに教師を創造するのも手か。アスカばかり創っていては俺自身訳が分からなくなってしまうので、今度はレイか。いやいや、レイとしてしまうとこんどこそ誰かに怒られそうなので、ぐっと路線を変えて助さん、格さんでいってみるか。どうせ生徒は海軍の兵隊だし。
一度教育が終わってしまえば、取扱説明書は追加してやるにしても、今後の教育はハリト海軍に任せられる。そうなれば助さんだか格さんを引き取ることになる。はるかさんの学校でも少なくとも今年いっぱいは不要だろうから俺がアイテムボックスの中にゼンジロウ1号ともども収納していくことになる。
ゼンジロウ1号は仕方ないが、助さん格さんをアイテムボックスの中にしまっておくことにはいささか抵抗がある。
結局考えるのが面倒になったので、教育期間は長くても3週間と割り切ってアスカ2号を毎日送り迎えすることにした。
夕方、風呂に入る前にアスカ2号を迎えに行った。
学校の教室のようなものだから黒板があった方がいいだろう。そこで子どもたちの勉強部屋で使っている白板と同じものを1枚出してやり、赤と黒と青のマーカーを10本くらいずつ、白板消しを4つ出してやった。
生徒たちに、白板を空いた壁に取り付けて置くように言ってアスカ2号を連れ帰った。
風呂に入りながら、今回のアスカ2号の軍人教育のことを思い出した。
ハリトの教育というものがどうなっているのかは知らないが、軍人に限らず教育は重要だ。5ヘクタールの土地は一等地だし、いっそのこと大学を作ってやるのも手だな。オストランでも言えることだが何であれ国の基本は教育だ。
翌日。
この日は大型連休で順延していた防衛省の会議の日だったので、早めにアスカ2号をハリト海軍の会議室に運んだ。生徒はまだいなかったが白板はちゃんと壁にかかっていた。
ノートもあった方がいいかもしれないので、100冊ほどノートをテーブルの上に出してやり、ボールペンも100本くらい出しておいた。
「アスカ2号、生徒に使わせてやってくれ」
「はい」
「今日も4時に迎えに来るから」
「はい」
アスカ2号を残して屋敷に戻った俺は日本風の余所行きに着替え、時間調整してから華ちゃんを連れて防衛省の会議室に跳んだ。
防衛省側からは特に変わった話はなかった。俺の方は、4月下旬に、ダンジョン内に爆薬を持ち込んだ者がいたことを報告した。
「ダンジョン・コアが爆薬を発見し名古屋の白ういろうに変えて無害化しました」
「名古屋の白ういろうですか?」
「見た目が似ていたのでそうしたとコアが言っていました」
「なるほど」
「そういった高性能爆薬は確かにあります」と、山本一尉。
「ういろうになってしまえばどうしようもないか。
岩永さん、その人物のことについて何かお分かりですか?」
「コアが言うには、XXXの工作員ということで、目的は発電所の破壊だったようです」
「なんと。
それでその人物は?」
「爆薬によく似たういろうを持っているだけなので、爆発物を持っていた証拠もなくなったわけなのでそのまま放ったようです」
「なるほど」
「今回は見逃しましたが、次回、テロを仕掛けてくる者を見つけた場合、ダンジョン深層で階段からも十分離れたところに飛ばすよう指示しています。ダンジョンを壊す程度なら許容範囲ですが、発電所を壊すなどもってのほかですから」
「相手は訓練されたプロでしょうから捕まえても取り調べで何か分かるわけでもありませんし、あとが面倒なのでその方が無難でしょう」
裁判とか始まれば何年もかかってしまうし、ダンジョンがらみとなると公安だけでなく防衛省の職員もそれに時間を取られることになる。
杓子定規でないところはここのいいところだよな。逆にどうしても捕まえてくれとか言われたら面倒だし。
その日の会議はそれくらいで終わり、ポーションとフィギュアを卸して華ちゃんを連れて屋敷に帰った。
この日の午後、デザイン会社から、イワナガ・コーポレーションのロゴマーク案が送られてきたようでエヴァがプリントアウトして俺のところに持ってきてくれた。キバツなものからオーソドックスなものまであったが、ゆくゆくは超大企業になることは分かっているので、妙に衒っても仕方ないと思い一番おとなしいロゴマークを俺が選んだ。
オストランと日本とともに歩む
イワナガ・コーポレーション
これで安心だ。青畳スプレーの売り出しも近い。
日本町で働くスタッフを研修させるため、エヴァのほうで日本の外務省に折衝してくれている。そっちも順調のようだ。入国管理、ポーション診療所、宿泊施設のスタッフになる。
錬金術師の資格については現在検討中だそうだ。錬金術師ギルドではギルド加盟錬金術師には無条件で錬金術師の国家資格を寄こせと言っているらしいが、それでは資格の意味がないとブラウさんが突っぱねたうえ、バレンの錬金術師ゼンジロウの名を出して錬金術師ギルドに対して高級ポーションを安価で国が販売すると脅したようだ。
その結果錬金術師ギルドは完全に折れて、2年後の国家資格試験導入を容認した上、ポーション診療所へ錬金術ギルドが責任を持ってポーションを納入することになったそうだ。俺がポーションを卸してもいいのだが、俺にもしものことがあると立ちいかなくなるようでは国が文字通り傾いてしまうので、やや効能は落ちるが妥当だろう。
第一期スタッフ研修派遣組の人数は120名。この120名が中心になり日本町を運営していくことになる。全員オストラン王国の公務員待遇で、宮殿や各地で働く公務員同様の給与がオストランの通貨で支払われる。要望があればイワナガ・コーポレーションが金貨1枚10万円で両替する。
120名の人選が終わったそうなので、俺の方は日本語のスキルブックを用意した。120名の内訳は入出国関係20名、ポーション診療所50名、宿泊所関係50名だ。
壮行会はオストランの宮殿で開いた。寿司、天ぷらなどの日本食を中心とした立食パーティーをしてやった。日本に派遣されて、寿司と天ぷらの味を思い出して、気軽に日本の店を利用してくれればいい。その程度の給与は払っていると思う。
5月下旬に入り、120名は日本町のゆらぎ前に待機した大型観光バス3台に分乗してゆらぎを通って出雲空港に向かい、そこで専用機に乗り込み羽田に移動。そこから大型観光バスに乗り研修先の受け入れ施設に向かうことになる。
受け入れ先では外務省が用意した世話係がいるので、研修生たちは全く見ず知らずの日本でもうまくやっていけるだろう。おそらく。
研修期間は3カ月。長いようで短い3カ月だ。
ロゴ選定と研修生の話が終わったあと、俺はアスカ2号をハリトから連れ帰り、風呂に入った。今日の労働の疲れが入浴によってきれいさっぱり流れてしまった。最初からそんなに疲れていなかったのかもしれない疑惑はある。




